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鈴木桂一郎アナウンス事務所

令和3年2月5日(金) 「歌舞伎座2月大歌舞伎、舞2部を見る。於染久松色読販、神田祭」

2021.02.05 05:47

2月の歌舞伎座の第二部は、ファンが心待ちしていた、仁左衛門と玉三郎のコンビによる二演目、於染久松色読販(おそめひさまつうきなのよみうり)と、神田祭である。

最初に、2月公演で、於染久松色読販と演目が決まった際には、玉三郎のお染の七役が見られると、心が躍ったが、実は美しいお染の筋は上演されず、土手のお六と、鬼門の喜兵衛の強請場中心の組み立てで、少々がっかりした事を思い出す。玉三郎と仁左衛門のゴールデンコンビの美しさは、神田祭にとっておいて、まずは、於染久松色読販から。

柳島妙見、小梅莨屋、瓦町油屋で、幕を組んで玉三郎の悪婆と亭主の仁左衛門の悪党ぶりを見せる筋である。強請の発端から、莨屋で強請のアイディアが生れ、油屋で強請るが、失敗するという話で、話が通った。玉三郎の悪婆は、いかにも悪そうな化粧をせず、あくまでも白塗りで、紅を指し、美しい玉三郎をキープしながら、悪態をつくところが楽しかった。悪態をつくあたりは、高い声で、ねちねちと、ややトカゲ的な、ぬめっとした声の使い方が、オーバーかなと思いながらも、強請場だから当たり前かと納得した。油屋で強請る場面でも、最初は、きちんとした女房風情で出てきて、死人を殴った、と聞いた直ぐ後から、いきなり悪態をつく瞬間、眼付や、表情もガラッと変わったのには驚いた。悪婆物とはいっても、この芝居は、美しい土手のお六が、悪態をついて、強請るところが面白い芝居であり、玉三郎が、悪態をつく姿に陶然とした。仁左衛門の鬼門の喜兵衛は、終始むっつりとした表情を変えず、強請が失敗した一瞬だけ、下を向いて、薄く苦笑いしたところは、なかなか楽しかった。仁左衛門の悪役メイクは、錦絵の悪党ように、堂々としていて、凄みがあるが、ふっと抜けった時の表情が、実に良かった。この二人の於染久松色読販は、今回が見納めになるかもしれないが、玉三郎、仁左衛門が、楽しく芝居していた。こうした余裕が、強請の芝居では重要だと確信した。

二つ目は、神田祭、20分の休憩の間に、玉三郎と仁左衛門は、メイクを落とし、新しく顔を拵え、衣装、鬘をかえての登場だったが、浅黄幕が振り落とされると、中央に、祭り衣装の鳶頭の仁左衛門の立ち姿が現れると、場内からジワが起き、玉三郎の芸者が花道から出ると、やはり場内からジワが起きた。二人が、時折目を合わせて、微笑む姿を見ると、なぜか私の心の中に、眼福というのだろう、幸せ感が持ち上がってきた。歌舞伎は、美しい役者を観ていたいものだ。

(この項目は、2月21日に見直し、書き直したが、2月11日にネット用として書き直していて、ふたつの訂正文章が重なってしまった)