令和3年2月11日(木) 「歌舞伎座二部、於染久松色読販、神田祭
2月の歌舞伎座の第二部は、ファンが心待ちしていた、仁左衛門と玉三郎のコンビによる二演目、於染久松色読販(おそめひさまつうきなのよみうり)と、神田祭である。客席は、コロナ対策で、両隣と、前、後は空席になっていているが、座れる席は、満席という状態で、やはり歌舞伎ファンが、今何を観たいか良く分かった。美しい舞台を見たいのだ。最初に、於染久松色読販と演目決定を聞いた時には、玉三郎のお染の七役が見られると、心が躍ったが、実は美しいお染の筋は上演されず、土手のお六と、鬼門の喜兵衛の強請場中心の組み立てだった。残念ではあるが、コンビの美しさは、神田祭にとっておいて、まずは、於染久松色読販から観ることになった。
柳島妙見、小梅莨屋、瓦町油屋で、幕を組んで玉三郎の悪婆と亭主の仁左衛門の悪党ぶりを見せる演出だった。強請の発端から、莨屋でも強請のアイディアが生れ、油屋で強請るが、失敗するという話で、これで芝居の筋が通った。玉三郎の悪婆は、いかにも悪そうな化粧をせず、白塗りで、紅を指し、玉三郎が美しさをキープしながら、悪態をつくところが楽しかった。高い声で、ねちねちと、時には高い声を張り上げ、ややトカゲ的な、ぬめっとした声の使い方が、ややオーバーかなと思った。油屋で強請る場面でも、最初は、きちんとした女房風情で出てきて、強請る相手が、殴ったと自白したその瞬間に、声を張り上げて、いきなり悪態をつく場面、眼付から、顔つき、表情もガラッと変えて、悪態をつく姿に陶然とした。仁左衛門の鬼門の喜兵衛は、終始むっつりとした表情を変えず、強請が失敗した一瞬だけ、下を向いて、薄く苦笑いしたところは、なかなか楽しかった。仁左衛門の悪役メイクは、錦絵の悪党ように、堂々としていて、凄みがあるが、ふっと抜けった時の表情が、質に良かった。この二人の於染久松色読販は、今回が見納めになるかもしれないが、大人の歌舞伎役者が、楽しく芝居している、こうした余裕が、強請の芝居では重要だと確信した。
全般的に、玉三郎の強請の声が、やけに高くて、無理している感じがした。声の使い方も、レパートリーがあるはずだし、もっと普通にやればいいのにと思う。でも玉三郎の悪婆が、沈んだ、濁声では似合わないし、これが玉三郎流の、美を失わない悪婆の演じ方であろうと理解した。玉三郎が、奇麗なお染を演じて、その美しさをたっぷり見せてからの、徹底した悪婆なら、落差があって楽しめるが、美しいお染が出ない、悪婆だけの今回の構成なら、玉三郎の演技は仕方がないところだ。
二つ目は、神田祭、20分の休憩の間に、玉三郎と仁左衛門は、メイクを落とし、新しく顔を拵え、衣装、鬘をかえての登場だったが、浅黄幕が振り落とされると、中央に、祭り衣装の鳶頭の仁左衛門の立ち姿が現れると、場内からジワが起き、玉三郎の芸者が花道から出ると、やはり場内からジワが起きた。二人が、時折目を合わせて、微笑む姿を見ると、芝居を観る幸せ感が持ち上がってきた。仁左衛門と玉三郎は、互いに70歳を超えていても、二人とも奇麗で、うっとりとした時間を過ごせた。後、5年は頑張って欲しい。