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あやめぐさ

2021.01.20 09:04

万葉の花とみどり_あやめぐさ 菖蒲草 安夜女具佐 ショウブ

 ほととぎす厭ふ時なし菖蒲草 縵にせむ日こゆ鳴き渡れ

      作者不詳 巻十 1955

『読み』ほととぎすいとうときなしあやめぐさ かつらにせむひこゆなきわたれ

『歌意』ほととぎすよ、お前をいやと思うときはない。特に、あやめ草を頭に巻いて飾りにする日には、ここを鳴いて通って欲しい。

香りで邪気を払う

 五月五日の端午の節句には、ショウブ湯に浸かる習慣がありますが、もともと中国の風習として、薬草を摘んで沐浴したり、ショウブを浸した酒を飲んで厄払いとする行事でした。葉の強い香りにより邪気を払い、無病息災を願うものでしょう。歌中の「縵」は、ショウブの葉を頭に巻いて飾りにすることで、すでに奈良時代にあった風習なので、日本への伝来はもっと古い時代になると思われます。平安期には、五日の節会という宮中行事があり、参列する者は下賜の菖蒲縵を頭にいただき、薬玉を賜ったといいます。薬玉は、沈香、丁子を玉にして錦の袋に入れ、ショウブやヨモギを添えて五色の糸を垂らしたものでした。冒頭歌のホトトギスは、あやめ草を詠み込んだ歌11首中、6首にも登場します。ホトトギスは、節句のあやめ草とともに、さわやかな初夏を象徴する生きものとして愛好されていました。特に、巻十八・4101の長歌「・・・ほととぎす来鳴く五月のあやめ草・・・」は、新古今集でも本歌取りされ、この組み合わせは万葉以降もさかんにもてはやされることになりました。また、ホトトギス同様、タチバナ(橘)の組み合わせも多く、集中4歌があります。タチバナもショウブとともに、厄を祓う薬玉の呪物として尊重されてきたものです。

 ほととぎす待てど鳴かず菖蒲草 玉に貫く日をいまだ遠みか

       大伴家持 巻八 1490

 ほととぎす今鳴き初む菖蒲草 縵くまでに離るる日あらめや

       大伴家持 巻十九 4175

 白玉包みて遣らば菖蒲草 花橘に合へも貫くがね

       大伴家持 巻十八 4102

ショウブかアヤメか?

 この万葉植物「菖蒲草」はサトイモ科の植物で、美しい花を咲かせるいわゆる例のアヤメ科とは全く別の種です。漢字が「菖蒲」で「アヤメ」と読むためややこしいのですが、アヤメ科の植物の花がどれも似かよっていながら、呼び名がたくさんあるのでなお一層わかりにくく感じられます。ちなみに、ショウブの学名はAcorus(属名)で、その意は何と「美しくない」だそうです。一方のアヤメ属の方はアイリス(Iris)で、こちらは「虹のように美しい」の意味になるのだとか。

管理者『妬持』の声

 見かけのポピュラー度では、だいぶ引けを取りますが、葉の香気成分に加え、根は胃に効く漢方薬ともなるショウブは、和風ハーブとして今後あらたに注目されることもあるやもしれません。もともと各地の沼地に自生しており決して珍しいものではないとはいうものの、花の画像は狙っていかないとなかなか出くわすことはありません。なお、端午の節句に購入したショウブの切り株を庭のため池に投げておいたら根が張りだしたことがありました。魔よけショウブだけあってなかなか生命力旺盛のようです。