For you 完全版_8
第7章 カウントダウン
夏の終わり、オレと和葉はそれぞれ部活も卒
業する事になった
オレは宿敵沖田との対決を制し、和葉はここ
最近遠のいていた表彰台に上がる事が出来て
有終の美を飾る事が出来た
この頃までは、まだ和葉も受験勉強と部活と
夢中になっとって、良かったんやけど
部活が終わってしまうと、どうも挙動不審に
なり始めた
オレの姿が見えんようになると、捜しまわる
んや
どないした?と聞いても、ううん、別に、と
言うだけで、姿を見れば後は普通
どうやらオレが黙って旅立つんとちゃうかっ
て怯えてるみたいやねん
「黙っては行かんから、大丈夫や」
「頭ではわかっとんのやけど・・・」
困ったように笑う和葉を宥め、2人で居る時
は出来るだけ普段よりもスキンシップを多く
して、傍に居る事を意識させたんやけど
それでも、和葉は時折不安そうな顔をした
そんな中、予想よりも早く、入学許可証が海
の向こうから届けられた
Mr. Heiji Hattori
Ms. Kazuha Hattori
狂喜乱舞した親と先生達に、久しぶりに和葉
も笑顔を見せた
オレ達は揃ってすぐに免許を取るために教習
所通いを始めて、和葉は2輪の免許も取った
「2輪は念のためや、普段は乗らんよ」
心配したオカンに、和葉はそう言うた
免許取得後は、腕が鈍らんように、毎週末車
を借りて、運転した
「和葉ちゃん、上手いなぁ」
大滝ハンは練習に付き合うてくれて、和葉の
運転を褒めていた
そう、想定外に和葉は運転は自動車も2輪も
上手かったんや
スキーやスノボー、スケートなどウインター
スポーツは全部ダメなクセになぁ
モデルの撮影も、最後の撮影が終わった
オレと和葉が広告で着た服は、全部完売と言
う記録が出たらしく、バイト料はかなり上積
みしてもらえたんや
おかげで、留学後の生活には困らんくらいの
余力は持てて、和葉も喜んでた
和葉は、オカンに頼んで、お茶やお華の稽古
を再開した
オカンと2人、料理教室にも通うようになり
忙しくするようになってから、少しずつ落ち
着きを取り戻したんや
「私がめそめそしとったら、平次、安心して
行けんからな」
そう言うて笑う和葉を抱きしめてたオレかて
気持ちは一緒や
傍に居らん状態は、オレかて不安やし、色々
気になるけど、仕方無い
オレも、日本を離れる前に、工藤の件は解決
してから旅立ちたいしな
オレも、工藤と最後の面会を終えた
これから、出発までは工藤とは一切接触を持
てんのや
電話も、メールも、全部禁止や
捜査機関に入ると、オレらは家族との連絡も
一切断たねばならず、実際、おっちゃんも、
あの式の後、一度も連絡が取れていない
私物の持ち込みも厳禁で、持って行けるモノ
もかなり細かく指定されていて、それ以外は
一切、ダメなんや
オレの荷物と、工藤の荷物、コナンの荷物は
和葉が全部揃えてくれてあって、もう支度は
出来ていて、召集がかかればいつでも行ける
ようになっとったんや
そんな中、ちいさい姉ちゃんと博士がやって
来たんや
「研究設備が整っている米国に行く」
解毒剤が完成間近と言う事で、よりよい環境
で完成を急ぐと言う2人
和葉とオレに、コナンのメカの修理方法やら
製作方法をレクチャーしに来たんや
「蘭さんにお願いしようかとも思ったんだけ
ど、PC回りに慣れて来た和葉さんに頼んだ方
が良いかと思って」
ちいさい姉ちゃんはそう言うと、スパルタで
オレらにレクチャーした
和葉の方が飲み込みが早くて、マスターする
のも早かった
「平次、アンタ後で特訓な」
和葉に平たい目で睨まれる始末
ちいさい姉ちゃんは、和葉に更に何点か指示
をすると、急ぎ博士と戻って行った
「哀ちゃん開発が終わったら姿を消すって」
工藤らの元には戻らんと決めているらしいと
言う和葉
とりあえず、オレらとは、オレらが留学した
先で再会出来るらしいが、その行方は姉ちゃ
んと工藤には絶対に明かさないでくれと言わ
れたらしいねん
和葉は、ちいさい姉ちゃんの言う通りにして
やりたい、時が来たら話せる日もくるはずや
と言うた
オレも、どのみち工藤と連絡は取られへんし
和葉も連絡を控えなアカンから、オレ達は、
ちいさい姉ちゃんの言う通りにする事に
部活は終わってしもうたけど、身体を怠けさ
せるワケにはいかんので、自主練は欠かさん
ようにしとったオレ
和葉も、家の道場で剣道と合気道の稽古は続
けとったんや
オレも、その稽古の相手をするようになり、
少しずつ腕を上げる和葉に嬉しくもあり、ま
た淋しくもあった
忙しい秋が深まって行くたびに、オレと和葉
の別れのカウントダウンが、容赦なく始まっ
ていた
離れている間、和葉が泣いても慰めてやれん
し、抱き締めてもやれん
それがツライけど、何か、和葉が希望を持て
るようにしてやりたい、と、密かに考えてい
たオレやった
オレ達は、高校卒業後、すぐに挙式披露宴を
行い、その後渡英する予定
当初は3月を予定しとったんやけど、諸々の
調整が遅れて、6月の挙式披露宴となった
新婚旅行代わりに、少し早目に渡英して、現
地を和葉とドライブしようと言う計画を立て
んのや
それだけは、オレが決める、言うて、宿泊先
やら車やらの手配も、ルートも、オレが調べ
てん
和葉の元を離れる前に、プランを立てて、和
葉がどのプランを選ぶか決めておいてもらお
うと決めた
和葉にバレへんように、資料を用意したり、
ファイルを作成して、少しずつ準備を進めた
そんな中、姉ちゃんから泣きの電話が和葉へ
と入った
毛利探偵と妃弁護士が姿を消した、と
そう、この2人もオレらと同じ捜査機関への
協力のため、姿を消したんや
姉ちゃんも、推薦入試を終えて、そのお祝い
だと言うて家族旅行(コナン付き)をした後
忽然と姿を消した、と
「和葉、オマエ、オカンと一緒に姉ちゃんの
ところ、行ってやれや」
工藤ひとりで慰めるのも、限界やろ、と判断
したんや
オレは動くワケにはいかんし、仕方が無かっ
たしな
「ほな、来年のお式の打ち合わせっちゅう事
で行きましょう」
オカンは、姉ちゃんが怪しまんように、本物
の予定をぶち込んだんや
姉ちゃんと工藤(またはコナン)には、来年
の披露宴の際、花嫁・花婿介添え人をお願い
してんねん
オレと和葉の親友の晃と翠と一緒に
オレらがバイトでモデルしとるブランドが、
ついでに新商品のお披露目も兼ねたいと言う
て、姉ちゃんらの衣装も全部担当すんねん
ついでやからリエさん達を連れて行って、と
りあえず、姉ちゃんとコナンの採寸をすると
言うオカン
「少し、気分転換も必要やね」
和葉はそう言うて、オカン共々姉ちゃんの元
へと向かった
オレは地元で起きた事件に駆り出されて、2
人を駅で見送った後、大阪を奔走する事にな
った
和葉からは、姉ちゃんの様子や、工藤の様子
を報せるメールが届いていた
事件を片付けて、家に帰って
ガラン、とした邸内を見渡して、こことも暫
くお別れか、と思うと感慨深いモノがあった
府警の刑事になるつもりのオレは、留学後、
おそらくこの家に住むワケにはいかん
オレが、ここで暮らせるのは、もう後1年も
無いんや
それは、和葉も同じ事
帰省で一時滞在する事はあっても、もう暮ら
す事は無い
親父が勇退して、オレが偉くなるその時まで
ここに戻る事も無いんや
そう思うと、ふと和葉の事を想った
オレより先に、アイツは実家を離れたんや
帰れる場所も、今は無い
遠山家は、捜査員達が疑似家族を装い暮らし
ていて、遠山家の大事な荷物や、おばちゃん
の墓に眠る遺骨は、オカンの手で隠されたか
らやねん
親父とも連絡が取れない状況が、もう何ヶ月
も続いている上に、これからオレとも連絡が
取れん中、いつ終わるともしれん闘いをその
終止符が打たれるのを、ひたすら待つしか無
い日々が続くんや
和葉への負担を考えたら、オレもツライけど
でも、オレは信じてる
「なぁ、平次、もう蘭ちゃんに工藤くん、返
してあげようや」
せめて、高校卒業前までには、と泣いた和葉
そのためやったら、我慢する、と言うたんや
せやから、おっちゃんも、総てを捨てて新し
い捜査機関へ飛び込んだんや、一人娘を残してな
おっちゃんが、一番キツイやろ
予定よりも早く、愛娘を嫁にやらなアカンは
一緒にも暮らせへんだけやなく、連絡すらも
許されん状況や
その事を考えたら、オレが出来る事はひとつ
気力、体力、知力を蓄えて、1日も早く現場
に入って暴れる事
そのためにも、ひとつずつ、課題をクリアし
て行くしかない
和葉もオカンも、親父もおっちゃんも居らん
家は、退屈で、酷く淋しかった
昔は、大学の間くらい、家族からも幼なじみ
からも離れて、自由にしたい、と憧れたもん
やけど、たかが数日で、もう飽きてしもうた
んや、オレ
「いやー、貴重な体験させてもろうたわ
危なかったな、オレ」
和葉は、ずっとここに居るような気がしてい
て、勝手にそう思い込んでいたあの頃のオレ
に言いたい
オマエが惚れたオンナは、オマエが思う以上
にあっさりと飛び立つで?と
実際、和葉が短期留学中は、色々苦労したし
もちろん、淋しかったし
離れてても、4年くらいあっという間やと思
うてたオレはアホやってようわかったし
うっかりしたまま、卒業して、大後悔する事
にならんで良かった、と思う
オレ、実はめっちゃ楽しみにしてんのや
留学生活と、新婚生活を一緒にスタート出来
る事
渡英したら、家族は居らん
せやから、オレ達は2人で色々な問題に立ち
向かうしかないねん
一緒に悩んで、一緒に道を捜して
2人にちょうどええ場所を捜す
オレ達にとって、ええ経験になると思うんや
彼氏彼女の期間が、殆ど無かったから、夫婦
としての時間を大事にしたいと思うてる
オレの夢も、和葉の夢も叶えてやりたいし、
一緒にやりたい事はいっぱいある
せやから、オレは絶対に諦めへん
工藤のあの組織の事は、絶対に解決して、新
しい生活を始めるんや
「平次?何、事件無いん?」
「おぉ、そういつもあるワケとちゃうでー」
一人暮らし、満喫しとんの?と言うた電話の向こうの愛妻に言うた
つまらん、と
苦笑する和葉の後ろから、オカンがからかう声がするけれど
退屈やー、と訴えた
明日、帰るよ、と言う和葉に、被せ気味に何時の新幹線や、迎えに行く、と言うたオレは
翌日、有言実行で迎えに行った
ちゃんと夕飯の支度も、洗濯もしとったオレ
やれば出来るやん!と言う褒め言葉に、ご褒
美を忘れずにおねだりしたオレは、きっと今
なら何でも出来る気がした
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to be continued