【水彩画家のかとうくみさん】かとうくみの描き方、生き方
(前回の記事はこちら→自分は商業デザイナーなのか?アーティストなのか?)
――― 何か印象的だったお仕事はありますか。
かとう たくさんありますが、ある乳業メーカーさんからご依頼をいただいたこの作品はとても印象に残っています。
――― かとうさんの作品は、夏と海の印象がありましたが、冬の作品もすごく素敵ですね。
かとう ありがとうございます。実は冬の雪景色の作品もあったりします。
実はこのサンタさんを描いたお仕事は、最初「サンタさんを描かないでください」というご依頼だったんですね。
――― 真逆の結果になっていますね。
かとう そうなんです。このときはポスターの原寸大で描くお仕事だったのですが、「やっぱりこうしてください」って言われる度に「はい、わかりました!」って言って、結局11枚も描いたんです。
11枚描き終わったら、「やっぱりサンタさんにしてもらえますか?」と言われ、「はい、サンタですね!」という感じで。 何ならサンタさんだけでも5枚は描きました。
――― 対応しすぎてしまったのですね。画用紙に水彩絵の具だから、修正ができないですよね。
かとう はい。しかも私の場合、例えば白を使いたい時は、その画用紙の白を活かすやり方を取っているんですね。
――― 白色の絵の具を使わないということですか。
かとう いえ、そうじゃないんです。
私の使っている透明水彩という絵の具には、そもそも白色として使うための絵の具がなくて、白色は配合してクリーミーな色にするための役割だけなんです。
しかも、マスキングという「色を抜く」手法があるんですが、それもやらないんですね。
なので、例えばこのサーフィンの作品だと、波しぶきの白を描くのではなく、周りのブルーで白の輪郭を描くといった感じです。
↓サーフィンの作品
――― まさかそんなことをされているとは、思いもしませんでした…
かとう ですよね。自分でもやり直しがきかない描き方だってわかってはいるんですけど…。
これは尊敬する長野剛さんにも、すごいですねとおっしゃっていただきました(笑)
――― そういうやり直しがきかない方法を伺うと、サンタさんのお仕事がどれだけ大変だったのかが伝わりますね。
かとう お仕事を終えた後に、絵描き仲間から「なんで描き直しはできないって言わなかったの?」って言われて、「え!そんなこと言っていいの?」って聞いたんですよ。
そしたら「馬鹿じゃないの!」って言われました(笑)
かけだしの頃だったので、そんなことしちゃダメだって思い込んでいたんです。
↓採用されなかった作品(だんだんサンタに寄っていく)
――― どこまで主張して良いかの按配がわからなかったのですね。しかも、まだお子さんも小さかった頃ですよね。
かとう そうですね、やっぱり睡眠時間も削られるし、体力的にも本当に苦しかった思い出の一枚ですね。
主人は会社員なので、私は主婦でもあるんですが、絵描きとしての活動を応援してくれていて本当に感謝しています。
キャパオーバーの仕事をいただいたときには、どうしても掃除とかいつもよりできない日があったりして、そのときには「埃の中で人は死なないから」って言ってくれるんです。
でも別の仕事で、今でも思い出すと涙が出そうになるんですけど、終わったときに小さい娘から「ママ、ママ、やっと一緒に遊べるの?」って言われた時は本当に申し訳なくて、「いくらやりたいからって受けちゃいけないこともある」ということも学んできました。
――― 仕事と主婦業との両立については、世間でも散々議論がされているところです。
かとう 絵一本で生活しているような方もいらっしゃるなかで、私のように夫が定収入を持っている中で描いている人もいますよね。
それも絵描きを始めた頃は「私なんかが絵描きって名乗って良いのかな?」って悩んでいたポイントの一つでした。オブラートに包みつつも「主婦はいいよね」的なことを言ってくる方も稀にいらっしゃいます。
ただ私が思うのは、たまたまそういう環境にいるというだけですし、むしろ主婦業をやっていることを自信に変えなきゃとも思います。
――― 主婦業がどれだけ大変かというのは、ここ数年でようやく男性にも浸透してきたかも知れませんね。
かとう ひとりひとり描いている環境は違うし、それぞれの生き方というだけのことであって、どちらが威張るとかいう話じゃないのかなと思っています。
どちらも「絵を描く」ということだけを見れば同じわけですし、作品を見てくださる方には関係ない話かなって。
(次回につづく→もう、とにかく大好きなんです!)
【Yuzo-dori Creator’s Life:水彩画家 かとうくみさん】
・1話目 茅ヶ崎・雄三通りのフォトスポット
・2話目 「あなたはいつでも自分の都合ね」
・3話目 本当にやりたいこと
・5話目 かとうくみの描き方、生き方
・6話目 もう、とにかく大好きなんです!
▼インタビュー・編集 小野寺将人(Facebook / Twitter)
1986年生まれ。2015年、茅ヶ崎市に移住。「エキウミ」の管理人。住宅・不動産サイト運営会社、お出かけ情報サイト運営会社にて営業・企画職を経た後、現在は総合ポータルサイトにて企画職に従事。 ハンドメイドアクセサリーブランドm'no【エムノ】のウェブマーケティングも行う。