すてきなあなたに・・・
「すてきなあなたに」というエッセイが大好きでした。おとなの女性の“人生を愛した”生き方・暮らし方が滲み出ており、読んだ後、なんとも幸せで、暖かな気持ちになるのです。
「すてきなあなたに」は編集者、エッセイストであった大橋 鎮子さんが「暮らしの手帖」を創刊して以来、その中で1969年から長きに渡りお書きになっていた連載。わたしはテレビを見ないので知らなかったのですが、NHKテレビ小説「とと姉ちゃん」のモデルがそのひと。
私が初めてそのエッセイ集を手にしたのは、中学生時代の恩師の家でした。「ここにある本、どれでも好きなもの、持ってけ。」当時、今や外科医となった息子さんの家庭教師をしていた大学生のわたしに、先生が言いました。先生は、わたしに数学の理論や、哲学の本を読ませたくて、自分の書斎に通してくれたのでした。が、わたしが選んだのは、先生の奥様の蔵書であろう「暮らしの手帖 よりぬき集」でした。なんのことかわからず、でもなぜか惹かれて手に取ったその本を家に持ち帰り、途端にわたしはその世界観に魅了されました。 1日の終わり、ベッドで枕元の明かりをとっては、少しずつ読むのが楽しみでした。大抵は、何気ない日常の中での“幸せ”な発見。お茶をどのようにいただいた、とか、雨の日にすてきなレインコートとブーツを履いてお出かけした、とか、おともだちの家にお呼ばれしていただいたお料理がとっても美味しかったので、そのレシピをご紹介します、といったようなことでした。大橋さんは、パリに縁が深かったようで、パリに関するエッセイはとても素敵です。大学生のわたしは、未だ行ったことのない異国の地のカフェとやらで、日本人女性が颯爽とお茶をしながら原稿を書いていらっしゃる様子をイメージしては、ため息をついたものでした。
大橋さんのエッセイは「体温を感じる」ものだったように、思うのです。一生独身を通した大橋さんは、よくお友達のことを書いていらっしゃいました。暮らしの手帖の社主であられた大橋さんは「偉い方」であったのに、多くの友と対等な関係での交流を楽しんでいらっしゃったようです。「わたしの若いお友達」という表現が出てきていたことからもそれを察することができます。また、お勤めしていた時の同僚が、後妻として結婚されてからバッタリ出会ったのだけど、お友達の顔色が優れなかったことから、何も言えなかったけれど、大丈夫かしら、と気になって仕方がなかった、というようなことも書かれていらっしゃいました。
わたしは、こんな風に自分の暮らしを楽しみつつ、ひととの関わりの中で暖かさや、楽しみを分かち合うことができている女性になりたいと思ったものです。
この数週間、振り返ると、そんな女友達との時間が過ごせていることに、ふと気付きました。一人は同じ年齢で20年来の友。彼女とは仕事で出会ったのがきっかけでしたが、頑張り屋さんで、お料理上手、努力家で、気配りのできる素敵な方。特に駆け落ち同然で結婚された旦那様との夫婦関係が素晴らしく、出会った頃は30歳になったばかりでしたが「わたしら夫婦は・・」(関西の方です)という表現をよくされていました。「わたしら夫婦」という言葉を普通に話される、しっかりと揺るぎないパートナーシップを持っていらっしゃる彼女に、いつも憧れを持っていました。 そんな彼女と先日京都のカフェでお話をしていました。ちょっとした体験をわたしがお話をしましたら、彼女は何も言わずにわたしの話を聴きながら、涙を浮かべ、気持ちをわたしに伝えてくれました。真昼間、仕事の前のランチをしながらの打ち合わせだったのですが、そこはまるで時間が止まり、彼女とわたしの間になんとも言えない優しく、柔らかなものがあるのを感じた空間になりました。わたしも静かに涙しながら、その温かい気持ちを受け取りました。
もう一人はここ2年で出会ったわたしより年上の友人。子育てと仕事でこもりがちのわたしが、昨日、久しぶりに夜出かけて、美味しくておしゃれなカフェで時を過ごしました。立派なお子さんを育て上げ、ご主人とも最高の仲良しの彼女は、20年も教育に携わっていらっしゃる先生。毅然とした強さとともに、世の中に与えられることができるものが持っている軸、そして、女性らしさなどが魅力の方です。日常の話、仕事の話、人生の話・・・これからの人生でのやるべきことや、備えたい現実的なことなどをおしゃべりしながら、年齢を重ねつつある女性達だからこそのキラリと光る夜の星のような輝きを感じたのです。これからをどう生きるか、恐れではなく、愛からの選択を、そう感じる瞬間でした。
ふと気づけば、わたしの周りに「すてきなあなた」がいます。わたしが若い頃に憧れた「とと姉ちゃん」の世界に、少しだけ入り込めてきたのかな。
今日も人生の扉を開いて出会ってくださり、ありがとうございます。
どんなところ、いつもの日常にも、素敵がいっぱい詰まっていますね。