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とある冒険者の手記

V.自由になったなら

2022.01.08 10:29

ヴァルが詩の書物を持って帰ってきた日の夜。

アリスが帰宅をし、夕食を摂り、食後のお茶をしていた時に、ガウラが何気なく言葉を発した。


「なぁ、ヴァル」

「なんだ?」

「目が腫れてる」

「!!」


ヴァルは思わず俯いた。

ガウラは、いつもと変わらない様子でお茶を口に運んだ。


「里で何かあったのかい?」

「…いや、母上にちょっと…な」

「?」


母親に何かあったのかと聞くと、そうじゃないと答えるヴァル。


「母上に、確信をつかれたんだ…、あたいのことを誰よりも1番理解していた…」

「それで、その目の腫れかい?」

「…まぁ、そんなところだ」


そう答えて、ヴァルもお茶を口にする。


「ガウラ」

「ん?」

「黒き一族の掟が崩壊したら、恐らく使命は無くなるだろう。そしたら、あたいはお前の傍に居る義務が無くなる」


ヴァルの言葉を黙って聞くガウラ。

その声は、心做しか震えているように聞こえた。


「その時が来ても、これまで同様、ガウラの傍に居てもいいか?」


ガウラはお茶をグッと飲み干した。


「お前の好きにしたらいいんじゃないか?掟が無くなるって事は自由になるってことだろ?」

「…迷惑じゃないか?」

「迷惑と思ってたら、家の出入りなんかさせない。むしろ、お前が居てくれて助かってる。感謝こそすれど、迷惑と思うことはないさ」


その言葉を聞き、ヴァルの瞳には涙が溢れ出した。

予想外の事に、ギョッとするガウラ。


「なっ!?何泣いて…っ!?」

「…良かった…迷惑じゃなくて…」

「ヴァル…」


俯き、静かにボロボロと涙を零すヴァル。

そんな姿を初めて見たガウラは、困った顔をしたのだった。