カラーとモノクロとナローバンドフィルタ
撮像用のCCDやCMOSセンサは明るさ(光子の量)を電荷に変えて検出することしかできません。
カラー画像を作るには、その色の帯域(Band)だけを通すフィルタを使って合成することでカラー化しています。
私たち人間の目で見て感じられる色彩を真色(True Color)と言います。
この色彩を表現するには赤(Red), 緑(Green), 青(Blue)のフィルタを使います。
フィルタの色は同じですがデジカメのように同時にRGBの撮影をしなければ写真として成り立たないものは特殊な構造のフィルタ(ベイヤ配列フィルタ)を使っています。
天体写真のように短時間では変化のないものはR,G,Bと時間を分けて撮影しても問題ありません。
今回のお話はデジカメのベイヤ配列フィルタは取り上げません。(別の機会に…)
モノクロ撮影はフィルタを交換しながら撮影するのでとても時間がかかります。
それを差し引いてもカラーデジカメよりも解像感の高い写真に仕上げることができるメリットがあります。
モノクロカメラで天体カラー写真を撮影するには望遠鏡とモノクロカメラの間に特定の波長(色)だけを通すフィルタを入れます。
フィルタは回転するホイールにセットして手動あるいは電動で切り替えるのが主流です。
3個のフィルタを変えながら3枚のモノクロ写真を撮影します。
この時点では明るさの濃淡だけで色は付きません。
カラー写真に仕上げるには撮影時とは逆の方法をとります。
RGBに分けて撮影したモノクロ写真にカラーチャネルを割り当てます。
カラーチャネルは色の付いた透明セロハンをイメージしてください。
モノクロ写真の上に重ねるとそれぞれの色が付いて見えます。
カラーチャネルに割り当てた写真を合成します。
光の三原色の合成は重ねるほどに明るい色になります。すべてを重ねると白になります。
光の明るさの濃淡で色合いが変わります。
ではナローバンドフィルタの撮影はどうなるでしょう。
ナローバンドは狭帯域という意味です。 対義語はワイドバンド=広帯域です。
前述したRGBフィルタは一定の波長の範囲の光を透過させるのでワイドバンドフィルタといえます。
ナローバンドフィルタはRGBフィルタよりも狭い波長の範囲だけを透過させるのでこう呼ばれています。
フィルタの種類を表す名前としてHαやSII、OIIIなどが使われます。
これはH(水素)、S(硫黄)、O(酸素)の原子が発生する輝線スペクトルを意味しています。
水素原子はHαのほかHβ, Hγ, Hδの4本の線スペクトルを発します。
一般のアマチュア天文写真家が使うナローバンドフィルタは主に以下の3種です。
SII: 硫黄基線672.4nmのみを透過するフィルタ
Ha: 水素基線656.3nmのみを透過するフィルタ
OIII: 酸素基線500.7nmのみを透過するフィルタ
透過する中心の波長の他に透過する幅の「狭さ」を表現するものにFWHM(半値全幅)があります。
これは透過率最大値の半分の位置での正規分布の幅を表します。
この数値が小さいほど狭帯域です。
以下はZWO社のナローバンドフィルタ FWHM=7nmのグラフです。
以下はZWO社のRGBフィルタとナローバンドフィルタの透過帯域のグラフです。
ナローバンドフィルタの撮影は3個のフィルタを変えながら3枚のモノクロ写真を撮影します。
RGB撮影同様この時点では明るさの濃淡だけで色は付きません。
SII, Ha, OIIIに分けて撮影したモノクロ写真にカラーチャネルを割り当てます。
ここでRGB撮影との違いが出てきます。
HaやOIIIは人間の目に見えない赤外線領域です。
色の表現は不可能なのです。
そこで勝手にRGBチャネルに割り当ててしまいます。
これを偽色(False Color)と言います。
RGBカラー写真は暗黙の了解で赤・緑・青の各チャネルに割り当てることが決まっています。
ナローバンドフィルタで撮影した写真は表現者の自由です。
何も表記しないと割り当てが分からないので頭文字を並べます。
今回の例のようにSIIをRチャネル、HaをGチャネル、OIIIをBチャネルに割り当てた場合は”SAO”と表記します。(HaだけAと表記します)
ASOとかAOO(SIIを使わない)なんて表現もあります。
カラーチャネルに割り当てた写真を合成するとカラー写真が完成します。
HaをRチャネル、SIIをGチャネル、OIIIをBチャネルに割り当てた"ASO"で表現した写真も載せてみます。
全体的に赤っぽくなりました。
ここ(はくちょう座サドル付近)はGチャネルに割り当てたHaが多い領域なのです。
はくちょう座サドル付近(ナローバンドASO)
はくちょう座サドル付近(ナローバンドSAO)
記 - 古都
※この説明で使った図やグラフはWikipediaや各メーカのHPから引用しています。
天体写真は筆者が撮影したものです。