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民法のお勉強 物権編 第9日

2017.09.23 23:35

※公信力の否定

・日本では動産物権変動については即時取得制度によって公信の原則が採用されているが、不動産物権変動については不動産登記に公信力を認めていない事情があるので、民法第94条2項類推適用(権利外観法理)によって取引の安全を図るというものである。


※民法94条2項類推適用

・本人が相手方と通じて、虚偽の意思表示をすることを虚偽表示といい、民法では虚偽表示にもとづく法律行為を原則として無効としている(94条第1項)。

・それと同時に、94条第2項では、このような虚偽表示にもとづく法律行為の無効は、善意の(=事情を知らない)第三者に対しては主張することができないものとされていると記されている。

・このように、相手方との通謀でなされた虚偽の意思表示は原則として無効である。

⇒だが、実際には相手方との「通謀」が存在するとはいえないような事例も多く存在する。

※判例では、このような通謀性に欠けるケースであっても、できるだけ94条を類推適用して、善意(かつ無過失)の第三者を保護しようとしている。


(事例)

1.本人Aが相手方Bの承諾なく、AB間の売買を仮装した場合である

・例えば、本人Aが相手方Bに知らせないまま、仮装の土地売買契約を行ない、それをもとに土地の登記名義をBに移転したところ、後からこれを知ったBが登記名義を利用して、その土地を第三者Cに売却したという場合である。

※この場合、本来ならば通謀がないので民法94条は適用できないが、

⇒判例では、「仮装の登記名義を作り出したAに責任があり、事情を知らない(=善意の)第三者であるCがその登記名義を信頼したことを保護する必要があるので、第94条第2項を類推適用し、AはCに対してAB間の土地売買契約の無効を主張できないとした」

(なおこの場合、Cは信じたことについて無過失であることまでは要求されない)。


2.相手方Bが本人Aの承諾なく、AB間の売買を仮装した場合である

・これは上記の1のと反対に、Bが勝手にAの土地を購入したかのような土地売買契約書を作り、それをもとに土地の登記名義をBに移転してしまい、さらにBがこの土地をCに転売するというようなケース。

・この場合、虚偽の登記名義を作り出すことについてAは責任がないので、基本的には民法94条を類推適用せず、Aを保護すべきである。

しかし、Aが虚偽の登記がなされたことに気付きながら、それを黙認していた場合には、Aに責任があることになる。

※そこで、判例ではAが虚偽の登記を黙認していた場合には、Aは、善意かつ無過失のCに対して、AB間売買契約の無効を主張できないとしている。


3.本人Aと相手方Bが仮装の仮登記をしていたところ、相手方Bが本人の承諾を得ないまま仮登記を本登記にあらため、Bが登記名義を取得してしまった場合

・これはAB間で「仮登記」については通謀があったが、本登記についてはBが勝手に行なったというケース。

※このようなケースについて判例では、

 虚偽の本登記を作り出すことについて、本人Aはその基礎となる仮登記の作出について責任があることを重視し、Aは、善意かつ無過失のCに対して、AB間売買契約の無効を主張できないとしている。

※なおこの場合に、

 Bがあたかも与えられた権限を超えた代理人のように行動していることから、判例では民法第110条(権限踰越の表見代理)の趣旨も加えてこのような結論に至ったとしている

(昭和43年10月17日最高裁)


※登記請求権

・登記請求権とは、不動産の物権変動があった場合に、登記権利者が、登記義務者に対し、不動産登記を行うことに協力するよう求める実体法上の請求権、あるいは具体的な登記手続を求める登記手続上の権利をいう。


※登記請求権の意義

①実体法上の登記請求権

・不動産を購入して所有権を取得した者や、不動産に抵当権の設定を受けた者は、これらの物権が登記簿に正しく登記されないと、第三者に対抗できなかったり、他人への譲渡が妨げられたりするなど、様々な不利益を受けることになる。

※そのため、買主や抵当権者が、売主や抵当権設定者に対して正しい登記への協力を求める実体法上の権利を認める必要があり、これを実体法上の登記請求権という。

(以下、単に登記請求権というときは実体法上の登記請求権を指す)。

※実体法上の登記請求権を有する者(買主、抵当権者など)を「実体法上の登記権利者」といい、これに対して登記義務を有する者(売主、抵当権設定者など)を「実体法上の登記義務者」という。


②登記法上(登記手続上)の登記請求権

・実体法上の登記請求権が認められる場合でも、実際に登記を行うためには、不動産登記法の定める手続に従わなければならない。すなわち、不動産の買主や抵当権者は、売主や抵当権設定者に対し、共同申請で登記手続をするよう求め(不動産登記法60条)、任意の協力が得られない場合は、訴えを提起し、確定判決を得て単独申請で登記手続をする必要がある(同法63条1項)。

※そして、この場合、登記法上の登記請求権を有する「登記法上の登記権利者」は、権利に関する登記をすることにより登記上直接に利益を受ける者、その相手方である「登記法上の登記義務者」は、権利に関する登記をすることにより登記上直接に不利益を受ける登記名義人である必要がある

 (不動産登記法2条12号、13号)。

※たとえば、A→B→Cと不動産が売買されたが、登記がまだAにある場合、CはBに対し実体法上の登記請求権を有するが、Bは登記名義人ではないので、登記手続上、登記義務者にはなれない。

※このように、登記請求権は、実体法上の裏付けがなければならないが、さらに不動産登記法の定める手続によって制約される。

⇒このような登記手続上の制約の下における登記請求権を登記法上(登記手続上)の登記請求権という。


※登記請求権の発生原因・法的性質

・登記請求権の発生原因については、これを実体的な権利(物権)の効力として生じる(物権的請求権の一種)という見解や、物権変動そのものの効力として生じるという見解があるが、

⇒判例は、様々な場合に登記請求権を認めており、これを一元的に説明することは困難と思われる。

※そこで、登記請求権を、発生原因に応じて、物権的登記請求権・物権変動的登記請求権・債権的登記請求権の3類型に分類するのが一般的である。


※物権的登記請求権

・物権的登記請求権とは、現在の実体的な物権関係と登記とが一致しない場合に、この不一致を除去するため、物権そのものの効力として発生する登記請求権をいう。

⇒物権的請求権の一種(物権的妨害排除請求権)である。

※たとえば、A所有の不動産について、B名義の所有権移転登記がされているときは、実体的な物権関係と登記が一致していないから、Aは、Bに対し、所有権移転登記の抹消登記等を求めることができる。


※当事者間の場合

①所有権移転登記の抹消登記請求

A所有の不動産について、A名義の所有権移転登記(又は所有権保存登記)の後に、無権限のB名義の所有権移転登記がされているときは、Aは、Bに対し、所有権移転登記の抹消登記請求をすることができる。

②所有権移転登記請求

・また、上記の場合、

Aは、Bに対し、抹消登記に代えて、真正な登記名義の回復を登記原因とするAへの所有権移転登記請求をすることができるとするのが判例である

(最高裁昭和34年2月12日判決・民集13巻2号91頁・最高裁判例情報。この場合、学説は反対説が多い)。

③抵当権設定登記の抹消登記請求

・A所有の不動産について、B名義の抵当権設定登記がされているが、抵当権設定契約が存在しない。

⇒無効、あるいは債務完済によって消滅した場合に、Aは、Bに対し、抵当権設定登記の抹消登記請求をすることができる。


※転得者がいる場合

①所有権移転登記の抹消登記請求

・A→B→Cと不動産が売買され、Cに登記が移転したが、

「A・B間の売買が無効であった場合など、Aは、所有権に基づき、登記名義人であるCに対して抹消登記請求をすることができる」

(大審院明治41年3月17日)。

※もっとも、この場合、Bの登記は残るので、AはBに対して改めて抹消登記請求をしなければならなくなる。


②所有権移転登記請求

・上記の場合、

 Aは、Cに対し、真正な登記名義の回復を登記原因として、Aへ直接所有権移転登記をするよう求めることもできるとするのが判例である

(最高裁昭和30年7月5日・最高裁昭和32年5月30日・前掲最高裁昭和34年2月12日判決。)

※これも、物権変動の過程を登記に正確に反映しなくなるとして反対説が多い。

※なお、真正な登記名義の回復を原因とする所有権移転登記請求は、真正の権利者が元登記名義人ではないときにも認められる。

⇒たとえば、

 登記名義人AからBに不動産が売買されたが、AからCに所有権移転登記がされてしまった場合、Bは、Cに対し、真正な登記名義の回復を原因として所有権移転登記請求をすることができる

 (昭和39年2月17日)。


③抵当権設定登記の抹消登記請求

※AからBに抵当権が設定され、BがCに抵当権を譲渡したが、A・B間の抵当権設定契約が無効であった場合、Aは、登記名義人であるCを相手方として抵当権設定登記の抹消登記請求をすることができる

(前掲大審院明治41年3月17日)


※物権変動的登記請求権

・物権変動的登記請求権とは、物権変動それ自体から生じる登記請求権をいう。

①積極的物権変動

・たとえば、A→B→Cと不動産が売買されたが、

「登記がまだAにある場合、Bは、Aに対し、所有権移転登記請求をすることができる」

(大審院大正5年4月1日)

※この場合、Bは既に所有権を失っているので、Bの登記請求権は物権的登記請求権としては説明できない、また、消滅時効にかからない点で債権的登記請求権だけでも説明できないため、(積極的)物権変動的登記請求権として説明されるのである。


②消極的物権変動

・A→B→Cと不動産が売買され、Cに登記が移転したが、

「AB間の売買が無効、又は取り消されたり解除されたりした場合、Bは、Cに対し、抹消登記請求をすることができる」

(大審院明治45年6月24日・最高裁昭和36年4月28日)

※この場合も、Bは所有権を当初から取得していないからであり、また、既に失っているので、物権的登記請求権として説明できないため、(消極的)物権変動的登記請求権として説明されるのである。


※債権的登記請求権

・債権的登記請求権とは、不動産の売買契約に基づいて所有権移転登記請求をする場合、および賃貸借契約において登記をするとの特約に基づいて賃借権設定登記請求をする場合などのように、当事者間の合意に基づいて生じる登記請求権をいう。

※もっとも、何らの物権変動が生じていないのに、登記をする旨の合意は無効であり、そのような合意からは登記請求権は生じない。