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WUNDERKAMMER

不思議な依頼

2017.09.26 01:08

私は現役の僧侶です。

先日、ちょっと不思議なご依頼を受けました。


初めは「お墓を新しくしたから骨を移動させたいので来てほしい」というものでした。

俗にいう墓石の「魂抜き」から「魂入れ」をしてほしいという事でしょう。

しかし当宗派はそういう事は基本的にやらないのでお断りしました。

しかし、「それでも何か似た様な事が出来ればそれでいい」「とにかく来てほしい」

と、何か必死な様でしたので「希望に添えないかもしれませんが・・・」と答え、日にちを調節すると伝えました。

相手の方は人づてに私を知ったとの事。


翌日の早朝、またその方から連絡があり、「日にちは決まりましたか?早く来てほしい」と何度も言われました。

正直、こんな時間に電話なんか非常識。

もしかしたら何か複雑な事情があるのでは・・・?

嫌な予感がしましたが電話越しの相手が半泣きの様な声になってきたので急いでスケジュールを伝えます。

やはり急いで欲しいのか明日の午前に決定しました。住所を聞こうとすると「こちらが迎えに行きます。」と仰います。

ますます嫌な予感が強まる。しかし一度受けてしまった依頼だ。断れない・・・。

その日はいつもよりご本尊に向かい、長く深く手を合わせました。


次の日の朝、電話の相手様(Tさん)とその奥様がいらっしゃいました。

電話越しとは違い至って普通な雰囲気。

車に乗り、出発します。

私「今日はお墓の移設の件でお呼び頂いたと思っていますが、その故人様はご家族様でしょうか?」

Tさん「いえ、私達には関係ない人間なんですが、ちょっと複雑なので電話では話せませんでした。周りにも聞こえたら良くないし」

・・・周りって?子供とかかな?

すると奥様が「貴方の事はDさんから聞いたんです」と仰いました。

Dさんとは昔、教育関連の仕事で一緒にお仕事をしたことのある人です。


Tさん「Dさんが、貴方なら優しいので引き受けてくれると言ったので…」

「お墓とは言いましたが、お墓の様なものなんです。」

えっ

私「お墓の様なものとは、どういうものでしょうか?」

思わず口調が強くなってしまったのかもしれません。

奥様が「すみません。騙すつもりとか、そんなんじゃなかったんです」と慌てて仰いました

私「いえ、そうは思っていませんので大丈夫ですよ。お墓みたいなものって位牌とか、石が積み上げているものとかですか?」

明らかにこの話になってから車内の空気が重くなっている。

Tさん「私たちにもお墓みたいなのとしか表現できないんです」

すみません、と何度か頭をさげます。

奥さん「でもお坊さんなら見てくれればわかると思うし、大丈夫だと思うんです。」

正直、ヤバイ事案だと感じました。正直逃げ出したい。

加持祈祷禁止されてるけどもっと勉強しとけばよかった・・・。


私「私に依頼する前に地元の僧侶に依頼はされなかったのですか?」

Tさん「もちろんしました。しかし隣の町まで探したのですがやはり宗派が違うとか、檀家じゃないからと断られまして…」

奥さん「なので今回引き受けてくれて本当に感謝しています」

私「…そのお墓みたいなものを移設するんでしょうか?それともそこで経読みをすれば良いのですか?」

Tさん「出来たら移してほしいです」


結局、話の核心には触れられず、目的地に着きました。

とても綺麗な場所です。

特に変わった所はないな、と思った瞬間気が付きました。

繁華街からココ周辺一歩手前まで住宅が点在していたのに、急に家が無くなりました。

場所も特に悪くは無いはずなのに、依頼者のTさん宅以外に人家が不自然なほどありません。


Tさんの家に着き、リビングに通されました。

私「ここにお仏壇があるなら最初に拝ませていただきたいのですが」

Tさん「我が家に仏壇はないんです」

私「左様ですか。お子様や他の同居の方は?」

Tさん「いえ、私たち二人暮らしです」

えぇ・・・。じゃああの「周りに聞こえたら」ってなんなんだ?

周辺に家は無いし、なにか非常にヤバい気がする。


私「…えーっと、では今回の詳しいお話をお聞きしてもよろしいですか?」

Tさん「はい。ここは牡蠣や海苔などの海産物が有名ですよね。あとこの地域では豚や鶏、家畜も地産品なんですよ。私たちは引っ越ししたてで知らなかったのですがここには古い屠畜場があるんです。」

…家畜の供養かな?

Tさん「…私たちが最初、お墓だと言い切ったのは、最初からこのお墓みたいなものの話をすると必ず断られたからなんです」


突然、座っていたフローリングの床が平手打ちでもしたかのような「バァン!!!」という大きな音が鳴りました。

職業柄ラップ音などは聞いたことはありましたがこんなにハッキリと大きな音、そして振動を感じたのは初めてでした。

私「うわっ」奥様「ぎゃっ」

間髪入れずにキッチン奥の窓がガタガタ揺れます。まるで、誰かが揺らしているような。

私「なんですかこれは?」

Tさん「これもその一つなんです」

「これだけじゃないんです。助けてください!」

え?一つ?これだけじゃない?

そのうち窓の揺れは収まりました。

私「…わかっていることを全て話してください。私に何か出来るか分かりませんが、今の状態だとまったく理解が出来ません」


Tさん「…去年の秋口、畑にする予定だった場所を耕していた時、地面から大量の牡蠣殻が出てきました。困ったな、と思いつつ別の所を耕すと今度は鶏などの小動物の骨が出てきました。だったらと、最初の牡蠣殻の場所にその骨を移そうと深く掘ったら今度は中型動物、豚ですね。豚の骨が大量に出てきたんです。

もしかして昔ここは屠殺場だったのかと思い役所で調べてもらうと、そんな記録は無いと言われました。なんで写真をとってそれを見るだけ見てもらったんです。」

と、その時の写真を見せてもらいました。

大量の骨と牡蠣殻。

大小様々で、新しい骨と古い骨が混ざっていました。

私「これは酷いですね、でも対処してくれたんでしょ?」

Tさん「それが…役所の人が来る日になったら綺麗に消えていたんです。」

私「え?」

結局、ないものはしょうがないと対応はしてもらえなかったそうです。

写真も信じてはもらえませんでした。

私「近隣の人の嫌がらせとかそういうのは?」

Tさん「それも考えましたがさっきのガタガタの音、あれ人間ができますかね?」


Tさん「役所の人が帰った次の日、やっぱりあるんですよ。骨が。今日もあると思います。一緒に見てください」

玄関で靴を履いている最中にも「バン!」という音が鳴り響き、どこかの窓がガタガタ揺れている音がします。


庭に出ると敷地の端っこにブルーシートが広げられていました。

そこを捲ると、Tさんの言う通り大量の骨がありました。

骨と牡蠣殻。不快感が広がります。しかしなぜか無臭。

Tさん「ほら、あるでしょ、見えるでしょ?ここ、これ」

私「見えます見えます。写真とってもいいですか?」

Tさん「どうぞ撮ってください。」

シャッターが下りないとかもなく無事に撮影できました。

ついでにそこらにあったスコップで骨に触ってみました。

コツン。

やっぱり普通の骨です。


奥様「あっ!」

声の方を見るとTさんの窓枠を両手で握って振っている灰色の作業服の男がいます。

雰囲気で、それが生きていない事はわかりました。しかしあまりにもはっきりと見えています。

Tさん「あのシャツの男。あれも一つなんです。」

私「え、シャツですか?灰色の作業服ではなく?」

Tさん「汚れたTシャツじゃないですが…泥まみれの」

服の皺、白髪なのか乾いた泥なのか白髪交じりに見える頭部、やや日焼けしていると感じる腕と首周り、腕の汚れまでハッキリと見えています。

しかし見え方が違う。

そして印象的だったのが顔が良く見えなかったことです。

普通なら横顔ぐらい見えそうな場所にいたのですが…。


私の宗派では加持祈祷やまじないは一切禁止されています。

しかし今望まれているのはあの存在を退かせる事。どうしようかと思った時、以前友人からもらった金剛杵を持ってきていたことを思い出しました。

それと念珠を袖から取り出し、そのままその男に向けて梵字を唱えました。

(これは正しい作法ではありません、咄嗟にやってしまった滅茶苦茶な自己流です)

目を閉じ、ご本尊を強くイメージする。

どうか浄土に・・・。

そう願っているとTさんの「消えた」という声が聞こえました。

目を開けると作業服の男は居なくなっていました。

そういえば、ブルーシートの骨は?

もしかしたら一緒に消えてるんじゃないか?

そんな期待も虚しく、まだ骨はそこにありました。

じゃあ作業服の男とこの骨は関係性はないのか?


うーむと悩んでいると奥様に促され、一旦リビングに戻りました。

取りえず、さっきのはまぐれに近いものであり、退魔師ではないと伝えましたが

偶然、たまたまでもいいからと仰います。

私「他に悩まされている事はありますか?」

Tさん「無人の場所から男の声であー、うーんのような声が聞こえます。」

私「なるほど。そういえば先ほどの男性ですが、私には作業服の男に見えました」

Tさん「私はこれまで同様に汚れたTシャツでした」

奥様「私も汚れたTシャツを着ているように見えました」

私「顔は見たことありますか?」

Tさん「一度も見たことないです」

なんで見え方に違いがあるんだろう?

そういえば部屋から揺れた窓を見たとき、男の姿は見えなかった。

庭で見た様な掴み方をしていればこちらから丸見えのはずなのに。

なにか矛盾している。

私「この土地って元はどういう土地だったんですか?」

Tさん「私も調べたんですが、もともと耕作地だったそうです。それが宅地に転用されたんですが本格的に家を建てたのは私たちが初めてだそうです。」


正直、早く解決させて、完了させて早く帰りたい。

もしかしたらブルーシートの下に作業服の男の骨があるのでは?

それを解決すればすべて収まるのでは?

この旨を二人に伝えました。もし出てきたら警察沙汰になることも。

Tさん「なるほど。とにかくやらないとわからないし、一旦掘り起こしてみよう」


私は法衣を着ていたので手伝いは出来ませんでした。その代り近くで合掌。

1時間後。4畳ほどのスペースにぎっしりと骨が敷き詰められました。

しかし人骨らしきものはありません。

私「正直この中に人骨があるのかはわかりません。しかしこの量の骨はやはり異常です。とりあえず今日はこの骨をまとめて弔いましょう。」

Tさん「まさかここまで出てくるとは思わなかった。でも不思議とこれだけ骨が出てきてもここから引っ越す気になれないんです。なんか、これだけのものを見てしまったら可哀想になってきて。」

奥様「私もあれだけ嫌だったのに、なぜか急に可哀想だと思えてきました。」

先ほどまでの重い空気がだんだん和んでいきます。

骨は敷地の木の下に埋めました。

「あっ!」突然Tさんが叫びます。

「あっ!」逆の方向で奥様も叫びます。

どっちに行こうか迷い、「こっちこっち」と呼ぶTさんの方へ行きました。

Tさん「穴!穴の中にさっきの男が私に向かって拝んできたんです。突然出てきたからびっくりして」

しかし私が来たときにはもう何もなく、ただ穴が開いているだけでした。

先ほど叫んでいた奥様の方へ走りました。

奥様「さっきあの木の上にあの男がいたんです。驚いて叫んでしまって…主人を見ていました。でも、お坊さんが近づいたら消えてしまって。天国にいったのでしょうか?」

私「私たちの言葉では浄土ですね。ともかくそういった処へ行けたならいいですよね。」


骨を埋め終えた後、自分なりのこの場にふさわしいと思う経を唱え、私なりのお弔いを致しました。

白檀を焚き、二人に経本を渡し、先ほどの骨に対し祈ります。


やっと全部終わった…

奥様「庭の件は、本当に助かりました。ありがとうございます。」

Tさん「本当にありがとうございます」

奥様「それでですね、最初に主人がお話しした『お墓の様な物』のことなんですが…」

    え?

私「ちょっと待ってください。今庭で行ったのは?」

Tさん「すみません。あれはその一つなんです。お墓というよりは骨捨て場ですし。」

奥様「お墓みたいなものは、二階にあるんです。」


さっきの出来事で十分不思議な体験したし、さっき相当頑張ったのに。

これ以上のがまだ…。

Tさん「お願いします。さっきもお坊さんのおかげで救われたんです。」

私「あの…正直に仰って頂きたいのですが、庭のと2階のと、後他にもあるんですか?」

Tさん「いえ、本当にお願いしたかったのは2階の方でした。なにせ来て早々あの男が出たものですから…」

その現象も庭の骨が出てきてからだそうです。

2階のも居なくなっているかもしれないが年の為一緒に来てほしい。


私「2階で起きている事を具体的に、教えてください。」

Tさん「はい…庭を掘った日から突然、お墓の様な物が部屋に浮かんでたんです。上手くは言えないのですがCGのようにぼんやり浮かんでるんです。しかもそこから音や声が聞こえてきて。さらには人の様な物も出てくるんです。」

たまにそれが下に来ることもあるとか。

絵に描いてもらいましたが確かにお墓の様で大きさは30~40㎝ぐらい。

Tさん「身体に不調がでるとかは無いんですがストレスが酷くて、何しろ怖いんです。」


私に解決できるかは本当にわからないと伝え、2階に行きました。

・・・・

Tさん「あっ!変わってる!前よりもはっきり見えるようになってる!」

奥様もうなずきます。

しかし私がそこに見たのは墓石ではなく蛹でした。

蛹が浮いている。

私「さっきの絵と形違いますね」

Tさん「えっ、一緒ですよ。墓石っぽいのが浮いてますよ」

私「私には蝶の蛹に模様が入ってるものに見えます」

Tさん・奥様「えっ」


とりあえず携帯で写真を撮ってみました。

するとその蛹がブルブルと震えるような動作を始めました。

Tさん・奥様「うわっ!」

私は庭の時と同様に念珠をもち、経を唱えます。

するとこの家に来た時の様な「バン!」というラップ音がしだし、急にものすごく臭いにおいが漂い始めました。

夢中で経を唱える。

庭の時のように強くご本尊をイメージし、どうか浄土へと願っているとなにか空間がグニャッと曲がった気がしました。

Tさん「あっ!消えました!消えましたよ!」

目を開けると蛹が居なくなっており、何かいいにおいが漂います。

これは・・・庭で炊いた白檀の香り?

奥様「本当にありがとうございます!本当に、本当に」

私「多分なんですが、私たちは『嫌なものを払う』事はできません。私は庭でもこの2階でも成仏してほしい。そう願ったんです。それが良かったのかもしれません。なんでお二人もそう一緒に願っていただけませんか?」

といって庭と同じようにまたお弔いいたしました。


何かスッキリしない。本当にこれで終わったのかな?

そんな気持ちを抱えつつ、帰路に着きました。


帰りもTさん夫妻が送ってくださいまて、車内でいろいろな話をしました。すると、

私「あっ」

Tさん宅から遠く離れた家、一応Tさんと隣人になるのでしょうか。

その御宅の屋根に見たこともないぐらい大勢のカラスが留まっていました。

写真を撮ろうと窓を開けると何故か一斉に飛びだってしまいました。

Tさん「…今のって何か関係があるんですかね?」

私「わかりませんが、飛んでった方向がTさんの家では無かったんで大丈夫ですよ」


携帯が鳴りました。

なにか連絡かな?と思っていると留守電着信やメールがどんどんたまります。

何故Tさん宅では届かなかったんだ?特に圏外だった訳でもないのに。

連絡は帰りの遅い私を心配した家族からでした。

とりあえず今帰ってると連絡をしました。


無事、家に着きTさんに「何かあればまた連絡を」と伝え、別れました。

その日はいつも以上にご本尊にお礼を伝え、寝ました。

そういえばあの夫妻ってどういう人なんだろうか。Dさんに私を勧められたって言ってたけど。Dさんとは3年以上会っていないのに。


Dさんに連絡しようと電話してみました。しかし出ません。

数時間後、翌日、翌々日と電話しましたが呼び出し音のみ。

その日も何度か電話したところ、昼過ぎのタイミングで出てくれました。

私「もしもし?Dさんですか?」

「いえ?違います」

あれ、と思い再度電話を掛けますが出るのは同じ人。

電話番号変わったかなと思い次は名刺の電話番号に掛けました。

出たのはDの奥様でした。

私「お久しぶりです。―――Dさんをお願いします」

奥様「あの、申し訳ありません。Dは3年前に亡くなったんです。知らせ届いていませんか?」


ぞっとしました。じゃあDさんはいつ私をTさんに紹介したんだ?

Tさんに連絡します。

Tさん「先日はありがとうございました。家の空気がすっかり変わって。何故か家の中にあの時の白檀の香りがするんです。」

私「あぁ良かったです。それで少し聞きたい事がありまして。あの…Dさんはいつから私をTさんに紹介したんでしょうか?」

Tさん「・・・・・」

Tさん「もう全部解決したんですから終わりにしましょうよ。お坊さんはウチを助けてくれた。それでいいじゃないですか。終わりにしましょう。」

私「え?」

Tさん「では失礼します」

私「あの・・・」

電話は切られてしまいました。

そしてあの時Tさん宅でとった写真なんですが、保存はされていたのですが、最後のカラスの写真以外真っ黒な状態になっていました。

コントラストを上げてみても真っ黒な状態。


この数日後、家族から昼間に仏事のお尋ねの電話が私指名であったそうです。

「Dさんからの紹介なんですって」

それから2日経ちましたがまだそのお問い合わせの件に電話できていません。怖くてできません。