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城田実さんコラム 第14回 「独立記念日に思う」 (メルマガvol.26より転載)

2017.09.30 07:20

 毎年8月17日が近づくと町中が紅白の国旗で飾られ、様々な独立記念の行事で華やいだ雰囲気に包まれる。外国人である我々も少し心が浮き立つ気分になったものだ。今年の記念行事は例年の晴れやかさがさらに明るくなる趣向があったようだ。新聞やテレビが大きく伝えているので周知のことで繰り返しになってしまうが、やはりここでも取り上げておきたい興味深いニュースがある。


 毎年8月17日が近づくと町中が紅白の国旗で飾られ、様々な独立記念の行事で華やいだ雰囲気に包まれる。外国人である我々も少し心が浮き立つ気分になったものだ。今年の記念行事は例年の晴れやかさがさらに明るくなる趣向があったようだ。新聞やテレビが大きく伝えているので周知のことで繰り返しになってしまうが、やはりここでも取り上げておきたい興味深いニュースがある。

 特に注目されたのは、多くの政府高官が敢えて自分の種族でない衣装を着用したので、美しい民族衣装で彩られた会場は文字通りインドネシアの多様な文化が花開いたようだったとある出席者は評していた。ジャワ人のジョコウィ大統領は南カリマンタンの民族衣装を着ていた。式の最後には出席者のファッションの品評も行われるという演出の妙もあって、大いに盛り上がったらしい。ベストドレッサーには二アス族(西スマトラ)の民族衣装をまとったヤソナ法相(北スマトラのバッタク族出身)が選ばれた。受賞者らには大統領から賞品として自転車が贈呈されたというのも面白い。


 大統領はしばしば地方を訪問して住民との対話をしているが、その際に子どもたちを含む参加者を舞台に呼んで、クイズをしている。「インドネシアの州の名前を5つ答えなさい」とか、「パンチャシラを全部言いなさい」とかいう簡単な質問だが、正解すると自転車がもらえる。それでも間違える人がいて会場は笑いに包まれる。その後に大統領が、インドネシアはいかに広大で、いかに多くの言葉や文化からなっているかをかんで含めるように説明するのだが、その自転車を大臣クラスの受賞者への賞品に選んだところが心憎い。あたかも小学生でもわかる民族多様性のクイズにあなたも正解できますよね、と言われているようだ。二重、三重の絶妙な演出だった。


 懸案の選挙法がようやく成立してから、急速に政治ムードが高まってきた感がある。与野党の政党幹部が「あの政党は共産党と同じだ」と批判すれば、その政党の幹部は「そっちこそイスラム国家標榜の過激派を擁護している」と非難を返し、互いに警察に訴えている。

 ジャカルタ州知事選挙で受けた社会の傷をいやすべき時期に、党の幹部が亀裂を広げるような発言をしているようでは、末端の活動家はどうなるのだと多くの人が眉をひそめている。この国は社会の一体感を取り戻せるのだろうかという懸念が現実感を持って広がっている。そうした中での独立記念日とその記念式典だった。 


 独立という言葉が呼び起こす特別な民族感情にも助けられて、社会の多様性は敵愾心(てきがいしん)ではなく民族の豊かさの源だと気付かせる契機にしようとした今年の演出はまさに心憎いばかりであった。ある先輩が、インドネシアの政治には知恵者が多いし、それを可能にする舞台の奥が深いと感心していたことがある。そのことを改めて実感する独立記念日だった。 


 総選挙と大統領選挙を再来年に控え、来年には有権者の半分近くを擁するジャワ島3州の知事選挙が行われる。これからは選挙モードが高まるばかりであろう。選挙戦が厳しくなれば、社会の調和を犠牲にしても安易な戦術に走るのは先のジャカルタ州知事選挙で見た通りだ。インドネシアの政治の奥深さや良識は次の選挙の試練に耐えられるのか。期待を込めて見守りたい。 (了)