濃淡のみちのり(岡田靖幸)
歩いていると錆の入った腰程の高さのポールが側にあり、地べたには円で囲むように蟻が行進している。町内のであろうステッカーが貼ってあって所々齧られたように欠けてしまっている。そこからちょっと右に行ったところにとても大きなネットが張ってあって、公園内で投げたボールが外の車へと関連付かないように対策した大人の後ろ姿が見える気もする。
公園内では子供達がキャッチボールをしながら歌を歌っていて、3人いる子供の内、グラブを使っているのは1人だけだった。後の2人は防災頭巾を器用に使いこなして、ボールをいなしてキャッチボールを成立させている。
「一年生になったーら、一年生になったーら、あの娘とSEXできるかな」
住宅街にぽつんとある公園は、周りに家を持つおばさん達の耳に入りやすいので、俺はこれ以上無垢な口から言葉を聞きたくないと思いながら、でもそこには自由とか制約とかすらなかったので羨ましくもあった。
道路の脇には生えて茎の折れた白っぽい花がけっこう咲いていて、少し前をマイペースに歩いている犬とランニングのおじいちゃんが立ち止まって匂いを嗅いで、休憩も兼ねていた。俺はそれを抜かして、横にいる立花君と加奈ちゃんにカフェラテを回して、
「季節って考え方も出来るけど、気分って考え方もできないかな」
と言った。立花君は何かを決めかねているようでカフェラテを飲んでいたが、加奈ちゃんは真っ直ぐ前を向きながら、
「春だったら、春の気分てこと?」
と言った。別に間違いではないけど、
「そうじゃない」
と俺は言って、
「季節ってまるで俺たちが決めているような感覚にさせるじゃん。こっから夏で、こっからここまで冬みたいな。カレンダーだったり気象上のデータが左右するような」
と言った。加奈ちゃんは靴の紐のバランスを整えている。
「でも、ホントは地球の気ままなわけでしょ。冬って言ってはみても寒い訳じゃなかったり、実は常に冬ってわけじゃなかったりってことは考えられないかな?」
「それは、人間の小ささと地球の大きさの比較? それとも人生への讃歌へと繋がるんか」
立花君はやっとそう言ったけど、位置付けは相槌程度で、もっと話が聞きたいのだろう。
「私が思うに、季節のよーに四季って分けることもできるけど今年の6月1日って天気が1度きりってことだと思うの」
「大体そういうことかな。俺らは決定するってよりも、てことにしようって体を欲しがってて、でもホントは季節も時間もない」
日が少し落ちてきて、影が伸びる。今日の夕飯は3人で鍋にしようか、それとも駅前のラーメンでも食べようかと悩んでいると、立花君が
「これもさっきの話と実は繋がっていて、鍋とラーメンどっちかを選んでどっちかを食べたとしても、俺らがラーメンや鍋を選んだんじゃなくて、選んだ体を欲しがってるだけって考えはできない? ホントーはどっちを食べるのかは鍋やラーメン側の気分で、俺らはそれに付き合わされているだけってこと」
俺と加奈ちゃんはすぐにそれは違う、と否定して、ラーメンにして今度は塩と醤油で迷ってまた立花君のたわ言を聞いている。