#141.なぜ練習をするのですか?
前回の記事では「音楽は聴く人がいて初めて成立するので、練習の時点からその意識を持つようにしましょう」というお話をしました。
詳しくはぜひ本文をご覧ください。
さて、そのあたりも含めてのことですが、唐突に質問です。
「あなたはなぜ練習をするのですか?」
難しい質問ですね。考えてみてください。
この答えはいろいろあると思います。
・ミスしたり演奏できないことで迷惑をかけないようにするため。
・好きな曲を演奏したいから。
・恥ずかしい思いをしないようにするため。
・周りから褒めてもらいたいから。
・たくさんの拍手をもらいたいから。
・自分自身が納得したいから。
・コンクールで良い賞をもらいたいから。
あなたはいかがですか?答えはひとつではありませんし、場面や置かれた立場でもいろいろ違うと思いますが、あらためて質問されると、考えたことないな、という方が多いかもしれません。
演奏者それぞれがどのように思うかは自由ですが「音楽が成立するために」と考えた場合はこのように言えると思います。
「聴く人に作品の存在を正しく伝え、奏者としてその作品をどのように受け止めたのかを伝える」
いわゆるクラシック音楽では、作曲家は作品を楽譜として記し、奏者はその楽譜を見て演奏をする構図が基本です。したがって、作曲者のイメージや解釈を奏者は楽譜から読み取ることになります。
そしてさらに、その作品に対して奏者自身が感じたこと、思うことを演奏に込めて聴く人へ伝えるるわけですが、その際、誤解のないように届けるために演奏技術が必要になるわけです。
演奏技術は高いほど伝えたいことを誤解なく、そして的確に届けることができます。練習をする目的はここにあります。
では技術がなければ演奏は成立しないか、披露してはいけないのか、もっと言えば、作曲者の考えや作品の解釈ができていなければ演奏をしてはいけないのか、と言えば当然そんなことはありません。
演奏技術は、例えるなら言葉をどれくらい喋れるか、言葉を使って相手にどれだけ自分の意思を的確に伝えられるかと似ています。
英語があまり喋れなくても、アメリカに行って身振り手振りで一生懸命伝えれば、勘違いや誤解をされるリスクは高いですが、結構理解してもらえると思います。
同じように音楽でも、例えば幼稚園のおゆうぎ会で園児たちが一生懸命タイコや鍵盤ハーモニカを演奏している姿を見て、決して演奏レベルが高いとは言えない合奏であったとしても、聴いている人が笑顔になったり、もしかすると感動して涙するかもしれません。心が動かされるというのは、その子たちが一生懸命だったり楽しそうだからです。
このようなことから考えると、演奏技術は高ければ高いほど相手にメッセージを伝えやすくなりますが、それ以上に大切なのは奏者が心から音楽や作品を愛し、楽しむことであると考えます。
聴衆がいなくても音楽は成立するのでは?
今回のお話で、このように感じた方もいらっしゃると思います。「音楽は聴く人がいなくても成立するのでは?」と。例えばひとりカラオケとか、家の中で誰に聞かせるでもなく楽器を楽しむなどを指していると思います。
一見、聴く人が見当たらないため、演奏を届ける構図が成立していないように見えますが、ひとりカラオケをしている人の頭の中はどうなっているでしょうか。もしかしたらその人は武道館のステージで演奏して、たくさんのお客さんから歓声を浴びているかもしれません。家の中で楽器を演奏している人は、もしかしたら満席のサントリーホールでリサイタルをしているかもしれません。
このような、いわば想像をしている時点で、すでに誰かに届けようとする意思が生まれているのです。
「いやいや、そんな想像なんてしていないよ!」と頑なにおっしゃるのであれば、それは「聴衆=自分」であるはずです。自分が自分の演奏を聴いて「今のいいね!」とか「演奏しているの楽しい!」と思っているのは自分に向けて気持ちを届けているわけで、やはり音楽の構図は成立しているのです。
したがって、結局どこまで行っても、「作品」「奏者」「聴衆」はセットになっているのです。
ぜひ一度「自分はなぜ練習をするのか」考えてみてください。
荻原明(おぎわらあきら)
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