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台本『探偵ベニーの真実〜スガル』

2017.10.08 00:44



登場人物

ベニー(黒羽ルイ)…紅谷探偵事務所の探偵。元警視庁勤務のエリート。『K事件』により、退職を余儀なくされた。

捜査能力が異様に高く。「全ての事柄を暴く」と言われている。

(作中では台詞前に、べ)

永山エイジ…今回の依頼主である。人柄が良く、愛嬌があり、中性的な仕草をする。

人に頼りやすい性格。それが原因で彼は全てを失い、ベニーによって救われる。

が、今回の事件での傷は深いようだ。

(作中では台詞前に、エ)


『探偵ベニーの真実~スガル』

脚本 紅谷伊織

夜。街灯の下。そこは人も寄り付かぬような公園だ。二人の人間がいた。

一人は放心したような表情で、目は虚ろな男。

もう一人は女性にも男性にも見えるような身なりをした人間が、無表情でもう一人の男を眺めていた。

虚ろな男は、語り始めた。

(照明とBGM『イメージはビョークのBlack lake』)

エ「ぼくは今までずっと他人にすがっているだけの人生でした。

その人さえいれば、自分の願望が叶って、その人がいないと何も出来ない。だからその人がいなくなれば、また別の誰かに依存する。

親にすがって、恋人にすがって、友人にすがって、他人にすがって。

結局、自分の人生を生きるのが恐かっただけなんです。

だって自分の生きる人生には、すべて自分が責任を追わなければならなくて、そのくせ死がいつもまとわりつく。

だから僕は他人の背中に乗っかって、安全な場所で、自分の得だけを考えて生きてきた。

その結果が、今です。

ベニーさん、人って何もかも失うと…涙も何も出なくなるんですね。

そして、僕はいま死を身近に感じています。

不思議ですね。ベニーさんに出会った時はあんなに死にたいって弱音を吐いていたのに、今は死ぬのが恐い…。

僕はいま、全てを失いました。これから立ち直れるかすら分かりません。

ベニーさん、こんな僕ですが…それでも生きている意味はありますかね?」

ベニーは、淡々とした口調で語り始める。

ベ「だけど、あなたは生きている。それが答えじゃないかしら?

この後、あなたが何もせずに泣き崩れながら死んでいくのなら、それも私は自由だと思うわ。

だけど、あなたは生きている。あなたはそれを選んだのだから。」

(ベニー語り、スポットライト)

~とある駅の路地。晴れた昼下がりに、彼は一人だけ世界の終わりのように道の隅に座り込んでいた。

私は彼に偶然声をかけた。そこから彼との物語が始まり、いま終わりを迎えようとしている。~

永山エイジの放心していた表情は、悲しみの色に変わり始める。

エ「僕はあの時、不幸が重なっていました。

婚約者が他の男に奪われたり

父は借金を背負って自殺しました。

しかもあらぬ噂が周りに流れて

僕は友人から仲間から見放されました。

そして、会社からも突然の解雇処分を言い渡され、僕は全てを失ってしまいました。

なぜ突然このような不運が偶然重なったのかはわかりません。」

(ベニー語り)

~永山エイジ。幼少期に両親が離婚。母親が他の男性と出ていく。

彼の父親はそれでも自分の息子に当たることはなく、むしろ過保護なほどに大事に育てた。

彼は人当たりがよい性格なので、周りには常に取り巻きが多く、

女性からも慕われて、付き合う女性も多数いた。

出世街道にものり、上層部の令嬢と結婚が決まっていた。~

そして永山エイジの悲しみの色は、さらに変化し、彼は突然開き直るかのように、悲劇のヒロインを演じ始める。

エ「ベニーさん、これが運命と言うものなのでしょうか?だったらあまりにも残酷だ。

周りに助けを乞うというのは、そんなにいけない事なのでしょうか?

だって、人は支え合って生きているのでしょう?

人にもたれかかる事の何がいけないのでしょうか…。

これから僕は、誰を頼っていきていけばいいのでしょう。」

彼の発言に、今まで無表情であったベニーの表情は、怒りを抑えるかのような瞳に変わる。

ベ「そう、あなたは何も悪くないわね。

偶然、父親が誰かに騙され、借金を作り自殺した。

偶然に、あなたの多数の浮気が発覚し、恋人は元々恋仲にあった人間に奪われた。

そして、偶然にその事実が上層部に発覚し、あなたは会社を追われる事になった。

偶然、そのウワサが流れて、あなたの周りには誰もいなくなった。

偶然声をかけた私がしてあげられたことは、あなたの不当に追った借金を消し、あなたの事を知らない土地で、新しい生活を提供した。

あなたは悲しい不幸が偶然に重なり…すべてを失ってしまったの。

でもあなたには、これから新しい生活が待っている。

あなたはきっと同じ過ちを繰り返すでしょうけどね…。」

長い間の後に、ベニーは突然大きな舌打ちをする。

ベニーはキレたのだ。

べ「…そんな偶然、あり得るわけがないじゃない。」

永山エイジはその発言に、呆気にとられた表情をする。

エ「は?」

ベニーの怒りの感情は突然あらわになり、彼に真実を語りはじめる。

ベ「ドラマや映画じゃあるまいし…そんな不幸が偶然重なるわけがないでしょ。

永山エイジさん、人の罪はね…必ず罰になって返ってくるの。

あなたは、人にすがる。言葉巧みに人を利用し、金銭面や生活面、仕事面。どんな事でも人を利用した。

そんなあなたを恨まない人間がいないわけがない。

あなたは多数の人間から恨まれ、あなたを陥れる情報提供の依頼を、どこかの探偵事務所が受けたの。

あなたの父親は母親に似ていた貴方を恨んでいた。それを隠し、過保護に育てた。

あなたは憎しみによる過保護で育てられたが故に、人の善悪がわからない。

だからあなたは欲しいものがあれば、誰かから奪ってでも手に入れようとした。沢山のものを得たあなたに群がる人間を、あなたは利用し、あなたは人から大事なものを奪い続けた。

あなたは、それを人の情の世界だと思い生き続けてきた。それは同情するわ。でもどこかでは分かっていたはずよ。あなたの世界がおかしいという事に。

あなたを突き落とす事なんて簡単なの。あなたの権力を奪い、真実を晒し、あなたに利用価値がないという事を認識させればいいだけ。」

永山エイジは、絶望と悲しみに満ちた表情で、必死にベニーに抵抗した。

エ「…ふざけないでください、なんだよその話。じゃあこれは…最初から仕組まれた事だったって言うんですか?

僕は誰からも愛されていなくて、ただ人に寄生して、人を傷つけて生き続けてきたって言うんですか?

ベニーさん。僕はあなたの話を信じません。もしあなたの話を信じてしまったら、それは僕の全てを否定する事になるから。

あなたの言う事は全部嘘だ。僕はずっとみんなから、愛されていた。絶対に信じない。」

そう言い放つ永山エイジに、ベニーは冷酷に、彼を見下すように、こけ下ろすかのように話し出す。

ベ「だったら、何も失わなかったはずよ。

あなたが間違っていなければ、何も崩壊することはなかったのよ。

人の絆は、そんなに簡単に崩れるものじゃないわ。

あなたは、真実を見ようとしなかった。真実から逃げたの。

あなたは人を愛したつもりで、人を傷つけ続けた。

そのツケがいま回っただけよ。」

ベニーの言葉にぐうの音も出なかった。彼は現に全てを失ったのだ。そして、心のどこかでその真実に気づいていたからだ。

ベニーの言葉が、彼にとってはこれまでのどの出来事よりも絶望的だった。

エ「信じたくない…信じたくないです。僕はあなたの言うことを信じない。

気づいていましたよ…なんとなく。父の様子が昔からおかしかった事も。周りが僕を利用しようとする目も。彼女達は僕の内面なんて見ていない事も。

僕の中の真実がどれかわからなくなっていた事も。

でも、それがわかったところで、コレが僕なんです。僕は生きる価値のない人間なんですね。生きていてはいけない人間なのですね。

でも…それでも生きたい。

死ぬのが恐い。こんな終わり方をしたくない。

ベニーさん…僕はこれからどうすればいいんですかね?」

ベニーの怒りは頂点に達する。だけど、ベニーは決して人を見捨てたりなんかはしない。ベニーはそういう人間なのだ。

まるで悪い子どもを強く叱るかのように、畏怖を含み、それでいて優しさを孕んでいた。

(BGM、突然切れる。)

ベ「し、る、か。

自分で考えなさい。よく考えなさい。どうしたらいいのか考えなさい。

あなたは、何も考えなさすぎなのよ。

あなたの人生は、あなたにしか救う事が出来ないの。

あなたが自分で、希望も幸福も見出さなきゃいけないの。

誰かからもらったような光はね、簡単に消えてしまう…。

だからあなたが自分で、自分の人生に落とし前をつけなさい。

大丈夫、それでもあなたは生きる事を選んだ。

生きてればいいことあるわよ。」

そういうと、ベニーは今にも泣きそうな表情をしていた。

そんなベニーを見て、彼はふと事件間のベニーの行動を思い出した。

ベニーは優しかった。例えそれが仕組まれた事だったとしても、ベニーは優しすぎたのだ。

彼はここまで言われても、ベニーを恨む事は出来なかった。

エ「真実を見て、真実を知らされて…

あの日、あなたがいたのは偶然じゃないんですね。

これは全部仕組まれた事だったんですね。

依頼を受けた探偵事務所は、あなたの事務所だったんですね。

それなのに…なんで、僕を助けたんですか?

なんで、あなたはそんなに哀しい顔をしているんですか?」

ベニーは涙を堪えるように、無理やり笑ってみせた。

ベ「…さあ、言ったでしょ?人の罪にはね、必ず罰がおとずれるって。

私は私で、自分に落とし前をつけてるの。」

彼は何かを悟った。ベニーは、自分を陥れるような事の出来る人間ではない。

きっと自分に言うことが出来ない事情があったのだ。

だってベニーの顔は、彼に「ごめんなさい。」と何度も何度も謝っているように見えたからだ。

エ「…ベニーさんの顔を見ていたら、なんか何に嘆いたらよいのか、よくわからなくなってしまいました。

コレが全部仕組まれた事でも、ベニーさんは優しすぎましたよ。

あなたと過ごした時間は、人の優しさに触れていた気がした。真実を見ていた気がした。

僕は、それでもベニーさんを信じます。

もういいです。僕には新しい明日があるんで。

これから僕は生まれ変われるんで。

ねえ、ベニーさん。生きてれば、いいことありますかね?」

そんな彼に、ベニーは母親の様に優しい表情で答えた。

ベ「ええ、もちろんよ。」

(ベニー語り)

~半年後、強く前を見つめて歩く男の姿を見た。

私は横を通り過ぎて行く彼に「何かいいことでもあった?」とたずねると。

彼は「ええ、沢山」と言って、私に素敵な笑顔で笑いかけてその場を去って行った。

そしてこの物語は幕を閉じる。

この探偵事務所は、一人の大きな罪から成り立っている。紅谷幸太郎。この探偵事務所の創設者で、もうこの世にはいない人。

(BGMオリジナル曲『ENDROLL』)

すべては一つの事件に繋がっている。

その話は、またいつかの機会にしましょう~

歌と共に、暗転。