「鳥居肩」w/ヤーレンズ
あるところに、神社に強いこだわりを持っている男がいた。
暇を見つけると全国津々浦々の神社に足を運び、熱心にお参りをしていた。
しかしあるとき、男が神社で拝んでいると、どこからか声が聞こえてきた。
「あなたの熱意は異常です。ちょっと正直、私も引いています。なので、あなたがもう神社に来なくなるように……おっと、あなたがわざわざ通わなくてもいいように、あなたの肩に神社を授けることにします」
すると、男の肩が眩い光に包まれた。次の瞬間、その右肩には小さな鳥居が、そして左肩にはその他一式ができていた。
この日から、男は神社と共に暮らしはじめた。
翌日、彼の友人がやってきて、この神社をひどくおもしろがった。友人は、彼女が欲しいと五円玉を投げ込んで柏手を打った。するとだ。次の日、なんと友人に念願の彼女ができたのだ。しかも、いまでいう新垣結衣的なとびきり美人の。
この噂は口コミで一気に広がりを見せた。さらに、いまでいうTwitter的なものを介し、いまでいうジャスティンビーバー的な者にも拡散されて、連日男のもとには参拝に来る人が後を絶たなくなった。人々は賽銭箱にどんどんお金を投げ込んでくれるので、男はお金に困ることはなくなった。
ちなみに、それを見た隣の意地悪じいさんが真似をして、肩にお寺一式をつくって町を歩き回った。結果、大量のお賽銭が集まったのだが、その重さに耐えられず命を落としたりもした。
さて、お金に困らなくなった男だったが、別の深刻な悩みを抱えるに至っていた。ひどい肩凝りのこともあったけれど、問題は神社の向きだった。鳥居をはじめ、すべてが後ろ向きに建てられていたので、他人は参拝できても、自分で自分の神社に参拝することができなかったのである。
その年の正月、男は虚無感に襲われていた。年に一度、最も人々が自分をちやほやしてくれる日が正月だ。けれど、自分だけは参拝できないのだ。後ろにできる行列に、男の虚しさは募るばかりだった。
「なるほど、一方的に参拝に来られる神様の気持ちは、こんな感じだったのか。このままでは、私はただの足の生えた神社じゃないか……」
そのときだった。正面からこちらへ近づいてくる人影が見えた。
それは女性で、男は、また新しい参拝客が来たのだろうと思い、こう伝えた。
「参道なら、後ろですよ」
しかし、女性は何も言わず立ち尽くしていた。最近は外国人も多いので、言葉が通じないだけかと思った矢先、彼女の肩に何かが乗っかっていることに気がついた。
目を凝らすと、それはなんと男のものとは色違いの鳥居だった。
女性は突然、身体を後ろに向けて言った。
「私に参拝していいよ」
こうしてここに、互いに互いを参拝しあう男女が誕生したわけである。
二人がそれぞれ参拝を終えた直後だった。 二つの鳥居が光り輝き、二人のあいだに見るからに純度の高い、霊験あらたかそうな小さな鳥居が生まれ落ちた。
その後、二人がそれを大切に育てはじめたのは言うまでもない。
年月をかけ、鳥居はすくすく大きくなった。
そして鳥居は二人の肩にあるもの以上に話題となり、参拝客もひっきりなしに訪れて、それはそれは有名な神社へと成長していくことになる。
これがのちの伊勢神宮である。
※この作品はフィクションです。
ライブの様子はこちらからごらんになれます↓