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走る!受付嬢。

2005.08.03 14:09

京都まであと10分ほどで到着するころ、大粒の雨が降り出した。


電車が午後の京都駅に滑り込んだころには本降りになっていて、ホームの屋根と電車の隙間から

すらシャワーのような雨が音を立てて降りかかってきた。


「今日とというだけで雨も風情がありますね」と同行したY君。


確か風情がある。

そして夕立特有の土ぼこりの匂いが混じった雨は好きだ。


しかし、雰囲気に浸っている猶予はなく、約束の時刻を意識しなくてはならなかった。

初めて訪れるその会社は、さらに電車を乗り継いだひとつ先の駅から程近いところにある。

急がなければならなかった。


だが、この雨とそして出張先だけに重い荷物が移動手段を考えさせる。

「この雨じゃ傘を買っても役に立たない。タクシーで行こう」

軽いいい訳が混ざった選択だった。



雨を迂回しながら地下街を抜け、タクシー乗り場を目指す。

初老のドライバーに会社名を告げるとすぐにわかったようだった。

「どのくらいで着きますか?」

「この大雨で急に込みだしましたから、ちょっとわかりませんが、、まあ20分ほどでっしゃろな」

よかったそれなら充分間に合う。


我々が急いでいることを察したようにドライバーは抜け道をくねくねと走らせる。

「ココへいきたいんですが、間違いないですね」用意した地図を見せて確認する。

「へー、新しい方のビルでんな、ようわかってます」ドライバーが覗き込んで答える。



幸い道中に雨は上がった。

新しくない方のビルの前を通り過ぎすとすぐに、20分よりも早くその新しい方のビルに着いた。

大きくて立派なビルである。



中に入ると清潔で広々とした空間の一角に受付がある。

立ち上がってにこやかに微笑む受付嬢に会社名と名前を告げると、表情が変わる。

その表情は「あら、大変」と読み取れた。


「申し訳ございませんが、○○はこのビルではございませんで、、、」

間違ったのはこちらなのに誤っている。それも本当に「申し訳ない」という気持ちが伝わってきたのだ。


「お乗りになってきたタクシーはまだありますでしょうか?」

「はい、そこに」初老のドライバーはまだ玄関の前に止まっていた。

「では、止めて参りますので」そう言い残すと彼女は猛然と走り出したのだ。

ところが、タクシーはタイミングを同じくしてそろそろと走り始める。

さらに彼女は走る。走る。走る。



追いつかなかった。


軽く息を弾ませ彼女が戻ってくる。

すごい人を見つけた!


「気づいてくれませんでした」

あっけに取られる私をよそに彼女は一枚の地図を示しながら道順の説明を始める。

「ホンの5分ほどの距離なんですが」

5分とはいえ、京都独特のまとわり着くような暑さの中、雨上がりで少しはしのぎ易くはなっていたが、

遠路訪れた私たちに最大限の歓待を施そうとするこの人は受付のプロである。



さわやかな笑顔、タクシーを追いかけて走る姿、地図を渡すさりげないしぐさ、すべてが美しい。

そして、正しい新しくないほうのビルにキチンと連絡しておいてくれた配慮がさらに印象的だった。



「お待ちしておりました、○○さま」の一言で表されるとおり、こちら側の受付嬢の応対もすばらしい

ところをみると、よほど教育が行き届いている上に会社全体にホスピタリティーの精神が根付いている

ように端々で感じた今回の訪問だった。



ちょっとした間違いがあったからこそ、こんな体験ができたのだが今日の出来事は一生忘れることは

ないだろう。そして、あちこちでまたこの話をすることに違いない。それほど、感動的であったのだ。



最近、我が社も所帯が大きくなりビルが二つに分かれた。

まもなく、受付に地図が登場することだろう。