夢の女VS峠の女
俺は幽霊は見たことがないのだけど、夢とそれに関する不可思議な話。
中学3年生くらいの頃から、変な夢を見るようになった。
それは、ショートヘアで白いワンピースを着た二十代くらいの女性が、無表情で俺を黙って見ているという夢。
夢の中で俺が話し掛けても、何も言わず黙ったまま。
今でも月に二、三回ほど見るのだが、当時は週に五回は夢に出てきた。
その夢の女なのだが、全く見たことが無い顔で、家族に話して心当たり無いか聞いても、誰も知らないと言う。
少し月日が経り、高校の頃。法事で親戚が集まった時に、叔母さんに声を掛けられた。その叔母さん曰く、偶に一瞬だけ俺の後ろに女が見えると。 少し前から、盆正月会っていた時に見えていたらしい。 でも気付いた時には居ないから気のせいだろうと思っていたが、今日も一瞬見えたから言ったのだと。
これが聞いてみると、どうも特徴が夢の女のようで…。
その場でこれを聞いてた母親がビビって、地元に住むホウニンさんという婆さんの所に連れて行かれた。
このホウニンさんという人はイタコのようなシャーマンらしく、何やら俺の前で30分くらい拝んでいたが、話によるとどうも俺は夢の女に惚れられたらしく、それがもうベタ惚れで、祓う事が出来ないらしい。
俺に危害を加えるような事は恐らく無いから、俺に飽きて夢の女の方から居なくなるのを待つしかない。
いつ消えるか分からないが、結婚は難しいだろうと。
結局どうする事も出来ず、そのままずるずると今に至る訳だが、ここまでが前置きの話。
俺は現在大学生で、この間、友達三人と一緒に肝試しに行ったんだ。 肝試しと言っても、夜中のドライブがてら、ある峠を通るだけなのだが…。 この峠は旧道になっていて、近くにトンネルが出来てからは滅多に車が通らなくなった道。 何でも、夜にここを車で通ると、女が上から降って来てフロントガラスから睨み付けるとか。
その日、友達のAが運転席、BとCが後部座席で、俺は助手席に乗り、深夜1時頃にその峠へ行ってみた。 道中は流石に真っ暗で、みんな雰囲気に呑まれて無言だった。 もう少しで道の半分くらいという所で、いきなり後ろの二人が騒ぎ出した。
「後ろから女が追い掛けて来る!」
そんな事を言いながらかなりパニクっている。 俺も後ろを見るのだが、暗くてよく見えない。と言うか、そんな女は居ない。 でも後部座席のBとCは、後ろを見ながら「もっとスピード出せ!」などと叫んでいる。
運転しているAも俺と同じでそんな女は見えないらしく、「マジかよ」などと言いながら車の速度を上げた。 でも何せ見えないので、どれだけスピード出せば振り切れるのか分からず、Bに「もっと上げろ!追いつかれる!!」と言われるまま全力で峠を走らせていた。
どうやら峠の道を突っ切った辺りで女は消えたらしく、そのまま具合が悪くなったCの家へ行き、怖いので朝方までCの家で話をする事に。
そこでBが言うには、女が長い髪をなびかせながら宙に浮いた状態で、凄い形相で追い掛けて来たと。 Bは気付かなかったが、Cはもっとよく見ていて、その女は頭から血を流していたらしい。
そして朝になって各自解散。 俺はそんなもの見なくて良かったとホッとしていたが、ある形で見てしまった。
その晩、夢の中で。
夢の中で、長髪の女が俺を睨み付けるように立っていた。 その顔は顔面血塗れの状態で、何やら呟いている。 俺は即座に峠の女だと直感し、動けずに居ると、俺の横から誰かが出て来た。
それはいつも見る夢の女だった。
いつもはただ立っているだけの夢の女は、峠の女に近付いて行き、向き合う形に。
「スパアアアアン!」
夢の女が峠の女に物凄いビンタを張った。 もう何と言うか、峠の女がグラついて蹌踉めくほど。
そこで俺は強制的に瞼を開け、無理やり目を覚ましたのだが、もう心臓がバクバクの状態。
その後も、夢の女がいつものようにただ立って俺を見ているだけの夢を見る。今も見る。
蛇足になるが、峠の女はどうも、俺達と一緒にCの家に憑いて来ていたらしい。
やはり肝試しの次の晩、Cが寝ていると、部屋を誰かが歩き回る音がする。 Cが目を覚まして見ると、峠の女が顔面血塗れで睨んでいて、Cと目が合うと何やら呟き始めたらしい。 Cは布団を被って震えていたが、呟きが止んだので見てみるともう峠の女は消えて居なくなっており、それっきりらしい。
長くなったが、最初に言ったように俺は幽霊を見たことは無い。
見たのはただの夢だけ。 そう、ただの夢。だけどねぇ……(´Д`;)