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WUNDERKAMMER

これは、天国からの放送を録音したテープです

2017.10.13 09:29

そのカセットテープは、ある日、突然郵便や宅配便で送られて来るそうだ。

もちろん、差出人の名前なんかない。 

テープ自体はどこででも手に入る安物なのだが、小さなカードが同封されている。


「これは、天国からの放送を録音したテープです。空中にはたくさんの放送電波が飛び回っていて、その中には天国からの放送も混ざっていますが、ふつうの状態では受信できません。 

私たちはその、天国からの放送を録音することに成功しました。繰り返し聞いてください。

必ず天国からの声が聞こえます」 


昔に流行った不幸の手紙もどきかと思い、大抵の人は馬鹿馬鹿しく思ってこのテープを捨ててしまう。 そうでない人も部屋の片隅に投げ出し、ホコリまみれにしてそのまま忘れてしまう。 

好奇心に負けて、あるいは趣味の良くないジョークのつもりで、実際にこのテープを聴く人は、ほんの僅かだ。


テープには、最初何も入ってはいない。

それでも我慢して聞いていると、そのうち微かに雑音が響いてくる。そうして段々その雑音が大きくなってくる。 「ザーッ」とか「ブーン」とか「キーン」といった、ただのノイズだ。 

聴力検査の時に聞こえてくるあれだと思えばいい。そのノイズは延々と続く。…何十分も。  

いくら我慢強い人間でも、このあたりで停止ボタンを押すことになる。 「なーんだ、やっぱりハッタリか」 「クズテープじゃない、こんなの」 というのが、大方の感想だろう。もっともだ。 今度こそゴミ箱に放り込む人もいるだろう。 

ところがである。 ここからが本筋なのだが、このテープを一度聞いた人間は、また聞きたくなるらしいのだ。 

何の内容も、価値もない、ノイズしか入っていないクズテープをだどうしてそんなガラクタに惹かれるのか、実のところ本人にも解らない。 『もう一度アレを聴いてみるか…』 そんな考えが頭の中でどうしようもなく膨らんで、再び手を伸ばすのである。もちろん、この時点でテープが手元に残っていればの話だ。

そうすると奇妙なことに、最初ほどノイズが気にならなくなる。

それどころかノイズがなんとなくある種のリズムを含んでいて、聞いていると気持ちが良いような気さえしてくる。 

その上なんだかノイズの間に色々な音が混ざっているように思えてくるのである。 


それは、正体の判らない動物がうなるようなものだったりする。男女の会話が途切れ途切れ聞こえてくる気もするが、はっきりしない。  

「もう、間に合わないよ」とか「だめだよ」とか言っているようだが、何が間に合わなくて、何がだめなのか、さっぱり解らない。 

やがてそれは、遠くで怒鳴っている声や、けたたましい笑い声、金切り声としか言い様のない絶叫、 「イヒヒ、ヒヒヒヒヒヒヒヒ…」 といった嫌らしい含み笑いなどを何の脈絡もなく交えると、唐突に途切れてしまう。

あとはまたノイズだ。 大部分の人は気味が悪くなって、テープを今度こそ手放してしまう。

残ったほんの少しの人だけが、まるで取り憑かれたようにテープを聞き続けることになる。 もう、友達にも家族にも相談せず…何度も、何度もだ。

テープのノイズは、聴けば聴くほど心地良くなっていく。 そして、ノイズの間の声は次第にはっきりしてくるという。


そんなある日、その声は唐突に聞き手に向かって言うのだ。はっきりと。

そうして、ウンともスンとも言わなくなるのだ。ノイズだらけの、ただのクズテープに戻ってしまうのだ。 

 一体、何を言うのだろうか?

 聞くところによると、それは8桁の秒数であるらしい。

それが何を意味しているかは、自由に解釈してもらうしかないのだが。 いずれにしてもそれは、いくら長くても8桁以上になることはなくて、とにかくよく “当たる” そうである。

8桁の秒数は最大でも3年と少しぐらいだ。