2016東京デザインweek模型展
2016年東京デザインweek(以下TDW)が10月末から11月上旬まで神宮外苑の特設会場で開かれました。神宮外苑は学生スキー部時代にオフシーズンのトレーニングで1325mの外周を何周と走ったことか?!、銀杏並木沿いのテラスがあるレストランで何度も大切なデートをしたことか!?と感じる思い出深い場所です。
我が家の設計プランが実験住宅としての一端を担うということで、願ったり叶ったりです。そもそも、「実験住宅にしてくれ!」とは、建て主側がすすんで依頼することじゃないかもしれませんね、きっと。それは僕のフィンランド生活での体験に由来します。フィンランドの現代建築の巨匠であるAlvar Aalto(アルヴァ アアルト)の実験住宅であるKoetalo(コエタロ:フィンランド語で「実験住宅」)という名の夏の家を訪れた体験が記憶の中に住宅の印象に残りすぎてしょうがないのです。(前にもどこかで同じことを書いた気がするのですが、もっと詳しく書きたい気持ちなので許してください。物を書くという作業はあっちでもこっちでも同じことを書いちゃうというのはこの事なのだと実感!)
photograph©︎Shuhei NEZU
その建物は、建築家アールト自身の為の夏別荘で、ヘルシンキから300km程北のユヴァスキュラという学園都市近郊、湖に浮かぶ島の森の中に建てられています。建築家自身の為の実験住宅なのでやりたい放題です。やりたいことが随所に詰まっている感じがするんですね。ロケーションは森と湖の国フィンランドを象徴するほど自然の中。フィンランド中のレンガを寄せ集めて組んだ外壁と庭先に繋がる塀のパッチワークがとても印象的。コの字に囲まれたレンガの塀のおかげか、テント生活しているほどでも、森の中のログハウスよりも、人の(創造物の)気配を感じる。四角レンガという無機質な素材がメインなのに、有機的な印象をたっぷりと受けるのです。
建物の内部自体はとても簡素な作りです。サマーハウスですので、夏は寝ない!?というフィンランド人の格言ごとく、暗くならないフィンランドの夏を、外の光をたっぷり堪能することがメインの場所だったのでしょうね。ロフトの本棚にはキノコの本がありました。アールトはキノコ狩りもしていたみたいです。信州みたいですね。
16年前にフィンランド探訪した時の記録はリオタデザインの関本竜太さんのブログがまだ残っています。(上の写真もここから引っ張って来ました。当時の私の写真は、今見ると恥ずかしですね)その体験は16年前に刊行されたこの建築雑誌にぎっしりと詰まっています。リンクは吉祥寺のカフェmoi(モイ)店主の最近のツイートです。なんとタイムリーなのでしょう。光嶋裕介の著作である『建築武者修行』でのフィンランドを語るページのスケッチもこの実験住宅の外観です。
さて、TDWに話を戻しましょう。ここ数年連続で光嶋裕介設計事務所はこの模型展に出展しているそうです。この年の模型は我が家の設計案を、持ち面積一畳という広さで表現していました。私の撮影した写真が模型の周りを囲みます。
ジャジャーン!《森の生活》模型のお披露目です。これは完全に空撮の目線ですね。多様な草が生い茂っている現実の様子が伺えます。絵描きの光嶋裕介っぽさが出ていて嬉しいです。模型というと、見る人の想像力に任せる純白のものが多いみたいですが、これは違う方向性ですね。木の枝は、現地をリサーチ済みの光嶋事務所のツッチーが枝拾いをして模型に植えたそうです。葉を落とした樹姿も季節感バッチリでいいですね。
模型:光嶋裕介建築設計事務所 photograph©︎Shuhei NEZU
模型はTDWの為の"C’案"です。「ハザかけの家」進化バージョン。スケールの大きい三角が織りなす鋭角だけどどっしりしている印象を受けました。母屋から広いウッドデッキが繋がり、真ん中にはアアルトのコエタロを彷彿とさせる火起こし場。その続きには今後同じピッチで増築できるプランの土台と骨組みがありますね。大事な躯体は工務店に施工してもらい、後はDIYとして自分達で時間をかけて仕上げようというコンセプトかと思われます。全体のスケールも大きく、自由度が高くて楽しみワクワクするプランだなー感じたことを覚えています。
模型:光嶋裕介建築設計事務所 photograph©︎Shuhei NEZU
私の写真も綺麗にプリント、表面アクリル仕上げしてくれ、一畳スペースの作品全体的としていい感じに仕上がっていました。
photograph©︎Shuhei NEZU
実験住宅ということで書き出しましたが、《森の生活》の場合、何をもって実験住宅とするかはまだ分からない状況です。建築家にとっての実験住宅と、クライアントにとっての実験住宅は違うものになるのでしょう。建築家自身の為の実験住宅は正にやりたい放題ですが、クライアントがいる時点で、建て主の声があり、やはりそれを聞いてくれてしまうので、建築家にとっての実験住宅とは違うものになります。建築家にとっては、実験住宅と言わなくても、新しい環境で新しい設計をすること自体が全て実験かもしれないし、それはそう思うか、思わないかにも寄るところですね。
2016東京デザインweekでは学生の木材展示物から火災が発生し、5歳の子供の命が絶たれるという不幸な事故がありました。ご冥福をお祈りしています。火とは人が人として生活を営むことの原点である気がします。オール電化推進の現代、実際の火の豊かさ暖かさ、そしてそれに伴う危険性がますます身近に感じられない環境になっています。《森の生活》では、火のある生活を取り戻すことも重要な要素の一つです。この居た堪れない事故を受け、改めて気を引き締めて『火のある生活』を享受したいと考えています。