虫の穴
子供の頃の出来事。
同じ小学校に通っているA君という子がいた。
暗くって喋っている印象があまりない、正直友達がいないような子だった。
近所の公園で遊んでいると、端っこの草むらの方にそのA君が屈んで何かをしている。
「…なにしてるの?」
「虫を…虫を穴に詰めてる」
子供の頃はみな残酷。
A君は横たわった木の傍にしゃがみ込み、木にあいた穴に虫を詰めていた。
バッタを穴に押し込み、木の棒で詰める。
カマキリを持ってきて押し込み、詰める。
「ふーん。面白いの?」
「うん」
そういったA君はの顔は学校では見れないような笑顔だった。
しばらくその公園に行くたびにそこへ行き、A君の作業を見る事が日課のようになっていた。
ある日、今日もいるかな?とその場所に行くもA君はまだ来ていなかった。
…この穴の中ってどうなっているんだろう。
そっと覗く。
カマキリと目があった。
バッタと目があった。
クモと目があった。
何匹もの虫がそこにいてこっちを見ていた。
穴はほんの2cm程。
A君は虫を詰めるとき、ギュッギュッと潰していたので形が残るわけがない。
「穴の中には確実に虫の死骸がある」といった先入観なのか、物理的に絶対見る訳の無い光景が穴の中には広がっていた。
言葉が出ない。
そこに突っ立っているとA君がやってきた。「あれ、また来たの?」
またあの作業が始まる。
「あ…」
A君を止めようとしたとき、穴からフワッと粉?の様な物が出てきた。
A君もそれを見ている。
フワフワとその粉がA君の顔に近づいたかと思うと、突然A君の鼻に吸い込まれた。
どちらかと言えばその粉が鼻の穴に入りに行ったという方が正しいかもしれない。
「ブファッッッ!!!」
その直後、A君が苦しそうにせき込みだす。
「A君!A君!」
どうすることもできず、A君の背中をさすっていると、
「ゲホォ!!!」
A君の口から一匹の大きい蛾が出てきた。
次の日からA君は一週間学校を休んだ。
生死をさまようような熱が出たらしい。
一週間後A君は学校に来たが、虫を見ると発狂に近いほど拒絶をするようになった。
叫びながら口や耳、鼻を塞いで顔を真っ青にし、ガタガタと震える。
一方自分はA君を恐れるようになった。
ふとA君の鼻や口、耳を覗いてしまったとき
またあの虫たちがこっちを覗いてきそうだから。