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7th heaven side B

から紅の恋歌 「恋歌 上の句 -2」

2017.09.30 14:30

恋歌 上の句2

2:蘭ちゃん、奔走する


「どうしたの、蘭姉ちゃん」

「あ、コナンくん」

ゴメン、起きちゃった?


大丈夫、喉かわいたなって思って、お水をも

らいに来ただけだから、と言うコナンくんに

聞いてみた


「ねぇ、新一は、服部くんが浮かれてたって

その理由、知ってるって言ってた?」

一瞬固まったコナンくんが、うーんと言った

後、私を見上げて言った


「和葉姉ちゃんには、まだ、内緒にしてくれ

る?」

頷くと、手を引かれて居間に向かった


「蘭姉ちゃんも気付いてるんでしょ?平次兄

ちゃんが、和葉姉ちゃんに告白するつもりで

居る事」

「もちろん」


それは、気づいていないのは、和葉ちゃん本

人だけだ

きっと、服部くんのご家族もお友達も、みん

なが「で、いつなの?」くらいの感覚でその

行方を見守っている


私が知っているだけでも、4回程既に玉砕し

ているのは間違いない


本当は、この間の秋の事件、紅葉さんが現れ

たあの事件の時が、最大のチャンスだったは

ずなのだ


本当に、びっくりするくらいの危機から、大

きな怪我もなく、ほぼ無傷で和葉ちゃんを救

出したのは、もう奇跡に近かったのだから


まぁ救助を待つ間、2人揃って水の中に居た

から、後日風邪で寝込んだらしいけどね


それだけの極限ロマンス状態だったと言うの

に、服部くん「逃げた」のよねぇ


「僕も、新一兄ちゃんから後から聞いて、ど

うしてあの場面で言わなかったのかなーって

思ったよ」

あゆみちゃんや光彦達もそう言ってたし


そうよねぇ、コナンくん達でも、そう思うよ

ねぇ、やっぱり…


「だから、変だなぁ、って思ったの

まだ告白もしてなければ、和葉ちゃんからさ

れてもいないのに、何で浮かれてんのかなっ

て」


コナンくんが言った


「あの脱出の時にね…」

「…えーーー!そんな事があったの??」


私は眩暈がしそうだった

それだけ、究極の現場だったのだ


救助が来るまで、1時間近くかかったと言う

のに

…何より、2人っきりだったと言うのに


「服部くん、何で言わなかったの???」

「ね、蘭姉ちゃんも、そう思うでしょ?」

ボクもそう思ったし、話を聞いた新一兄ちゃ

んも、どうなってんだよって、言ってた


「まさかと思うけど、服部くん、もしかして

和葉ちゃんの方から言わせるつもりなのかし

ら?」


「何か、最終手段はそれしかないとか思って

たみたいだったけど、オトコとしてそれは選

択したくないって言ってるみたい」


当然よね、それは

和葉ちゃんを護り抜けた事に、浮かれている

らしいのだ


あの緊迫した現場で、ちゃんとついて来てく

れた和葉ちゃんに

最後まで、信じて生命を丸ごと預けてくれた

和葉ちゃんに


今までで、一番、嬉しかったって


バイクで飛んでる最中、重ねられたその手に、

何より強い勇気をもらったって


「いやいやいや、服部くん、浮かれるの、早

過ぎだから」

ちゃんと、言うべき事を伝えて、ちゃんとし

てから浮かれようよ


「それ、新一兄ちゃんも、平次兄ちゃんにそ

う言ったらしいよ?」

「だよねぇ、みんな、そう思うと思うよ」


照れ屋さんにも、程があると言うか、何と言

うか


「でもさ、平次兄ちゃん、可愛いよね💕」

「本当だね💕」


そんなに、嬉しかったんだったら、和葉ちゃ

んの事、ちゃんと抱き締めてあげたら良かっ

たのに


きっと、嬉し過ぎて、そこまで頭が回らなか

ったんだろうな、服部くん


「さ、寝よう?蘭姉ちゃん」

そうだね、と言って、和葉ちゃんが眠る部屋

に私達も戻った


「和葉ちゃん?」

「あ、蘭ちゃん、コナンくん」


寝てると思ったのに、縁側の障子を開けて、

ひとりぼんやりと月を眺めていた和葉ちゃん


トイレに行こうと思ったらしいんだけど、私

とコナンくんが居なかったので、待っていた

らしい


キレイな月だね、蘭姉ちゃん

そうだね、コナンくん


秋が過ぎて冬が近い季節

明るい月が昇っていた


「ゴメンな」


パタパタと戻って来た和葉ちゃんも漸く揃っ

て、みんなで布団にもぐりこんだ


翌朝、もう既に服部くんのお父さんの姿は無

かった

朝早く、仕事の関係で出て行ったらしい


「蘭ちゃんちょっとええ?コナンくんも」

和葉ちゃんが台所に立ってる間に、私達は静

華さんに呼ばれて、別室へと連れて行かれた


「うわぁ、凄い💕」


部屋に並べられていたのは、着物だ

どうも、静華さんのコレクションの一部らし

くて、結婚前のモノがこの屋敷には納められ

ているらしい


「私の父が、着物好きやったんや」


女の子が生まれると判ってから、それはもう、

事あるごとに揃えていたらしく、静華さんが

誕生した時にはかなりの数になっていたそう


ちゃんと定期的に虫干しもしたり、クリーニ

ングもされていたらしく、いずれも嫌な匂い

すらしない


むしろ、何かほんのりと良い匂いがする


「静華さん、これ、何の匂い?」

鼻をひくひくさせていたコナンくん


「あぁ、匂い袋や」

少し甘い、優しい香り


帯の間から見せてくれたそれを、コナンくん

は眺めて、匂いを嗅いで笑った


「優しい匂いで、ボク、好きだな」

香水には及ばない、風に流れてふっと薫る程

度の優しさ


「伽羅を入れて、特別に調合してもろうてん

せや、今日みんなで行ってみよか?」


「うん、行ってみたい!」

「私も、行ってみたいです」


その後、静華さんに言われて、和葉ちゃんに

似合いそうなモノをピックアップした


「蘭ちゃん、コレ、どう?」

艶やかな碧い着物を静華さんが肩に掛けてく

れた


「蘭姉ちゃん似合うね!」

「コナンくんにはなぁ、平次が子供の頃に着

てたのもあるから、それで」


たまには気分変えて、出掛けてみましょうか、

と笑う静華さん


朝食の支度が出来た、と言う和葉ちゃんの声

に、みんなでご飯を食べた


服部くんの事は、変わらず心配していたけれ

ど、激しく落ち込んでいた様子からは、かな

り復活した様子

ちゃんとご飯も食べていたし、元気に話もし

ていた


「え?着物でお出かけ?めっちゃ久しぶりや

ー💕ほなおばちゃん、私、コナンくんの着つ

けやりたい!!」


和葉ちゃんは、帯締めの手前までは一人で出

来ると言うので、私はその間に静華さんに着

つけてもらった


和葉ちゃんは、さっさとコナンくんに着せて

行く


「いやぁ!懐かしいなぁ、おばちゃん💕平次、

これ着て木登りして、めっちゃ怒られたんよ

ね」

「いややわー、和葉ちゃん、忘れちゃったん

やないの?最初に登る言うたんは、和葉ちゃ

んの方やで?」

せやったっけ?と言う和葉ちゃん


「そうやで、和葉ちゃんのリボンが風に飛ん

でしもうて、それ、取るんやって」

私が脚立持って来るから、待ってなさい、言

うてる間に、平次が登ってしもうてんと言う

静華さん


「あの頃から、平次は和葉ちゃんの前やって

言うと、ええ格好しいやったで?」


そんなんちゃうって!おばちゃん、からかわ

んといて!

和葉ちゃんは、真っ赤になって静華さんに抗

議していたけれど

きっと、2人共愛らしかったんだろうなぁ、

と思う


「めっちゃ、愛らしかったで💕2人共な」

みんなあっと言う間に大きくなってしまうか

らなぁ、と静華さん


「成長してくれんのはありがたいけど、でも

成長し過ぎてしまうのも、淋しいわ」

「おばちゃん」


おしゃべりしながらも、和葉ちゃんの手はち

ゃんと止まらず、コナンくんはあっと言う間

に着替え完了


「いやぁ、可愛ええなぁ💕コナンくん、よう

似合うてるよ?」


きっちり着せられて、静華さんのOKを貰うと、

飛んで歩くコナンくん


「はい、蘭ちゃんも出来あがりや!」

髪も結い上げてもらって、私も着替え完了


和葉ちゃんのお支度が終わるまで、コナンく

んと遊んでて、と言われた


「蘭姉ちゃん、似合ってるね💕その着物」

「そう?コナンくんも、格好いいよ💕」

「そうかな?」


お支度が終わった和葉ちゃんが出て来た

いつもの髪型では無く、ちゃんと結い上げら

れて、コナンくんと一緒に選んだ柔らかなオ

レンジ色の着物も似合っていた


艶やかな花が一輪、といった様相だろうか

普段は可愛らしい女の子だけど、今日は凛と

してキレイな女の子と言った感じだった


「めちゃくちゃ可愛いね、和葉ちゃん💕」

「和葉姉ちゃん、キレイだね💕」


いややわー、からかわんといてや、と頬を染

め照れる姿なんて、私でさえ、悶絶モノの愛

らしさだ


服部くん、コレを見逃したのは、痛いよ?と

思うと、コナンくんも頷いていた


おかしいな、私、声に出してたかな??


一緒に写真撮ろう?と言うコナンくんに誘わ

れて、みんなで中庭で写真を撮った

優しい陽だまりの中、秋から冬へと移り変わ

る景色と、着物は良く似合っていた


昨日乗ったハイヤーがまた来て、私達はその

まま一緒に静華さんが案内する大人の京都を

楽しんだ

お茶のお店、匂い袋のお店、和紙のお店やら

飴屋さんにも立ち寄った


立ち寄った店の何軒かでは、お店の人が、幼

い頃の和葉ちゃんを覚えていて、


「いやぁ、服部さんの奥さんが連れていたあ

の和葉ちゃんですか!すっかりキレイになら

はって💕」

「ホンマやぁ、あの頃から愛らしい子やった

けど、こんなにええお嬢さんになぁ💕」


などと言って、みんな驚いていた


しかも、何軒かのお店には小さい頃の和葉ち

ゃんと服部くんと静華さんの写真も大切に保

管されていた


「平次兄ちゃんと、和葉姉ちゃん、この頃か

らもうすっかりお似合いだね!」


コナンくんは、隣に座っていた静華さんにそ

う言うと、静華さんは、目を細めて優しい笑

みをお店の人と談笑する和葉ちゃんへと向け

ていた


そして、飴屋さんで、私とコナンくんはとう

とう、ある写真を見つけたのだ


そう、服部くんの初恋の人の正体


静華さんに、コナンくんがこっそり耳打ちし

て、静華さんが1枚写真を貰ってくれた


和葉ちゃんに気付かれないように、みんなで

連携して手に入れた1枚の写真

私は、どうしても、あの人に見て欲しいと思

ったのだ


静華さんに耳打ちして、私はこっそり服部く

んの居場所を尋ねた


「府警の平蔵さんの執務室、や」

うふふ、と笑う静華さんは、車を手配してく

れて、蘭ちゃん頼むね💕と笑った

平蔵さんには、伝えておきます、と


和葉ちゃんには、お父さん達の事でちょっと

用事を済ませて、後から合流する、として、

コナンくんを預けた


車は、どうやら池波家のものらしく、府警ま

で私を送ってくれると、帰りも迎えに来ると

言う


運転手さんにお礼を言い、私は静華さんに預

けられたお土産を手に、府警に入った


「すいません、服部本部長にお逢いしたいん

ですけど」


受付で、アポがあると言えば良いと教えて貰

っていた

怪訝そうな顔で私を見る受付の人達


あ、そうよね、私、今日は振袖だった、と思

い出す


「毛利様、お待ちしておりました、どうぞこ

ちらに」

すぐに、服部くんのお父さんの秘書だと言う

方が迎えに来てくれた


案内されて、向かう途中、婦警さん達が、今

日は服部くんが居るらしいの何のと騒ぐ声が

聞こえて来た


「申し訳ありません、お見苦しいところを」

「いえ、大丈夫です」


警察官とは思えない柔らかな物腰の男性

そして、関西弁では無い事に驚いた

聞けば、自ら希望して府警に来たと言う


ある事件後、服部くんのお父さんに仕えたい

と思って、と笑った


佐藤刑事達のことも知っていた

そうでしたか、高木くんも佐藤さんも元気に

活躍してるんですね、と穏やかな笑み


「あぁ、毛利さんとこの」

「はい、父やコナンくんがお世話になってい

ます」


執務室で忙しくしていた服部くんのお父さん

は、おや、それは、と言って目を細めた


今日、和葉ちゃん達と撮った写真を見せて、

静華さんに借りた振袖の事を話した


「おぉ、和葉、今日はこれ着てるんか」

それは是非ワシも見たかったなぁ、と笑う


「これな、結納の時に、静華が着てたもんや

ねん」

「え?そうなんですか?」

「せや、仰山着物、あったやろ?」

「はい」


あれは、全部、静華さんの宝物らしい

私まで、袖を通させて貰って、申し訳ないと

思う


「ええんや、着物かて、偶には着て欲しい思

うてるやろ」


で、平次に見せたいモノって何や?と言う

そう言えば、服部くん、この部屋には居ない

ような

取り敢えず、静華さんから預かって来たあの

写真を見せた


「あぁ、和葉やないか」

ホンマ可愛ええやろ?と笑うその顔は、本当

に和葉ちゃんを可愛いがって来た様子がわか

る穏やかな表情


「もしかして、例の平次の初恋の話か?あい

つ、ホンマにアホやろ?」

「誰がアホやねん💢」


「服部くん!」


片手にバケツ、片手に雑巾、頭には三角巾

オマケにエプロンプラスマスク姿で現れたの

は、服部くん??


何や姉ちゃん、偉い気張った格好やん、と言

うその顔は、まるでケンカの後のようだ


バツの悪そうな顔で、昨日は、すまんかった

な、と言う


「謝る相手、違うでしょ?」


さらに、拗ねたような顔で、せやな、と言う

服部くんを、本部長である父親と、その秘書

が、クスクス笑っていた


「一発蹴りを入れたいところだったんだけど、

今日のところは、勘弁してあげる

こんな格好だしね〜」


そ、そら、おおきに、と言う服部くんの顔は、

何故か引き攣っていた


「で、服部くんは、何を、どう反省してるの

かしら?」


まんまと、カルタの姉ちゃんの罠にかかって、

へらへらしとった事やろ?

そんなん、言われんでもわかってるっちゅう

ねん


「本当に?本当に、わかってる?」


あぁ、わかってるって

そう言った服部くんに、言った


じゃあ、昨日の服部くんと和葉ちゃんの行動

を全部置き換えて想像してみた?


まずは、新幹線の中からよ

ハイ、スタート!


服部くんの端正な顔に、額に💢マークが

しっと言う本部長に従い、みんなでひとり妄

想の世界に浸る服部くんを見守った


*****

何や、和葉のヤツ、オレん事放して、何をチ

ャラチャラしとんのや?💢

か、和葉?

何を男の名前、呼び捨てにしてんねん💢

オマエの携帯は、オモチャか?

何で連絡、せえへんのや、アホ💢

映画、一緒に見る、言うたやろが💢

何を平然と腕なん組んでんねん!

今すぐ離れろ、言うんや、ボケ!💢

*****


「ボケは、オマエや、ドアホが!!💢」


服部本部長のカミナリが落ちた


それは、府警が揺れたかと思うほど強烈で


静から話は聞いてたけど、そこまでアホな行

動したんか💢

まだ、稽古、足らんようやな!平次💢


服部くんは、真っ青になってオロオロしてい

て、昨日、紅葉ちゃんと堂々と私達の前に現

れた時とはまるで別人の狼狽振り


「和葉ちゃん、昨日のWデート、本当に、ず

っと楽しみにしてたんだよ?」

一緒に映画、観るのはいつ振りかなぁって

観たら、一緒に色々おしゃべりしたいなぁっ

て言って


「平次は嫌がると思うけど、手、繋いで歩い

てみたいなぁ」

って、そう言ってたんだよ?


「昨日の服部くんは、それ、全部、紅葉ちゃ

んにしてあげてるところを、和葉ちゃんに見

せつけたんだよ、結果的に、ね」


その辺のこと、本当に、わかってた?


見せつけたつもりも無いし、悪意があってし

たつもりももちろん無い、と言った服部くん

は、酷く傷付いた顔をした


「この頃の気持ち、もう忘れちゃった?」


テーブルの上に置いた写真を見て、顔色を変

えた服部くん

これ、どこで?と驚いていたので、飴屋さん

の話をしてあげた


写真に在るのは、若き日の静華さんと、その

傍でくっついて嬉しそうに笑っている、赤い

着物を着た鞠を持った愛らしい女の子

和葉ちゃん、だ


普段とは違う髪型、薄化粧もしてるけど、絶

対に間違い無い


「姿形はともかく、普通は歌声でわかるっち

ゅうねん」

「それ、コナンくんも言ってました」


そうやろ?とイタズラっぽく笑う本部長に、一

方の服部くんは、口をへの字に結んで拗ねてる

幼い男の子みたい


きゅ、と唇を結ぶ服部くんに言った


「紅葉ちゃんのキモチ、知ってて、どうして

優しくするの?

もしかして、キモチに応えてあげられないか

ら、せめて、とか考えてる?」

「え?」

「だとしたら、紅葉ちゃんに失礼だと思う

紅葉ちゃんなりに、真剣に好きなんだよ?そ

れなのに、気を持たせたり、期待させるよう

な行動したら、それは紅葉ちゃんにも和葉ち

ゃんにも失礼だよね?」


「オマエはまったく、何をしとんのや💢和葉

の気持ち、少しは考えてやらんか!

静やったら、グーで殴るだけじゃ済まされん

ぞ?」


それとも、服部くんは自分に好意を寄せてく

れた人全員に、同じように接してあげるの?


「それは、絶対、無い」


和葉ちゃんは、名前で呼ばれるの嬉しいって

言ってたんだよ?

平次が名前で呼ぶのは、私だけだからって

特別な感じがして、ドキドキするって言って

たのに


それが、出会ってイキナリ、名前呼び捨てだ

ったでしょ?

コナンくんも、私もびっくりしたけど、和葉

ちゃんはもっとショックだったと思う


本人は、私は、私やからって、頑張ってたけ

ど、紅葉ちゃんから、夜通しガードしてもら

ったって聞いた時は、知らなかったと傷付い

てたし


それでも、服部くんは、彼女を護らないとい

けないからって、必死に我慢して頑張ったん

だよ?


「服部くんも、少しは和葉ちゃんのその姿、

見てたんでしょ?

だったら、どうしてちゃんと、感謝の気持ち

すら、伝えてあげなかったの?」


告白は無理でも、せめて、感謝の言葉はあっ

ても良かったんじゃない?


「いや、せやから、和葉、喜ばしてやろ、思

うて、出掛ける計画立てたんや」


で、その計画実行中に現れた紅葉ちゃんにさ

れるがままになって、和葉ちゃんの前にも平

然と現れたんだよね


「服部くんに、他意は無かった

和葉ちゃんを裏切っても無いし、特に意識し

てる相手じゃ無いから、気にも留めずに、平

然と私達の前に現れたんでしょ?」


くっ、と呟くだけで返事は無かった


「和葉ちゃんに、コナンくんが言ってた」


私は、コナンくんが和葉ちゃんに言った事を、

教えてあげた


和葉ちゃんは、まだ、服部くんを信じてる

そして、心配してる


「コナンくんの言うた通りや」


和葉には、何らかの形で詫びを入れな、とな

ワシも、静も、そう思うてる


それに、と言う本部長は、立ち上がり、はっ

きりと言った


中途半端な優しさは、周囲を傷付けるだけや

で、平次、と


大岡家が、多方面から圧力かけて、オマエと

紅葉っちゅうお嬢さんの見合い話を進める一

方、強引に和葉への見合い話も進めようとし

とることさえ、オマエは知らんよな


服部くんが急に俯いていた顔を上げた


和葉ちゃんには、警視総監の関係者との話が

かなり強硬に進められているらしい


「そんな!酷い!」

「お嬢さんは、純粋にオマエを好きなだけや

としても、お嬢さんを取り囲む屋敷連中は、

そうはいかん」

キレイ事で済まされへん状況やっちゅう事や


服部くんは、愕然としていた


「オマエの見合いはどうにかなってもな、和

葉の方は、そう簡単にはいかんのや」


わかるな、平次、と言われて、服部くんは顔

色を変えた


和葉ちゃんの場合、形式上、お見合いすれば

よいと言うわけにはいかない、と言う


警察上層部や、その周辺を巻き込んでしまっ

ている以上、断れば、多かれ少なかれ遠山刑

事部長の仕事に影響が出るだろうと言うのだ


「ひどい!和葉ちゃん、何も悪く無いのに

やっと、あと少しってとこまで、自分の力で

頑張り抜いて辿り着いたのに、何で!」


「蘭ちゃん、その事態を招いたんが、このド

アホ、張本人やねん」

 

ワシと静が奔走しとる原因を作って、その事

にすら気づかんと、まんまとお嬢さんの我が

ままに振りまわされ、狡猾な執事の罠に誘導

されっぱなしなんは、コイツや💢


「ある意味、お嬢さんも被害者や

あの子は、多分、執事や実家がどんな手を使

ったか、その全部を知ってるワケや無いやろ」


まぁ、手ぬるい意地悪の部分はちょっとは知

ってるみたいやけどな、と言って、青ざめて

動かない服部くんを一瞥した


教えてくれたのだ

昨日の一部始終は、ほぼ、リアルタイムで本

部長の元へも、おそらくは、和葉ちゃんのお

父さんの元へも映像が流れたと


誰かが、意図的に流した、と


「静が褒めてたわ

映画館で紅葉に挑発されても、このアホがど

んなに酷い事しても、気を乱さんかった和葉

は、ちゃんと自分がかるたで教えてやった事、

守ってるってな」


そう言うと、目を細めた


つまり、静華さんは、最初から全部を知って

いて、あのタイミングでコナンくんに電話を

してきたのだ


服部くんを、助けるために

そして、和葉ちゃんを、助けるために


「和葉と、遠山の事は、ワシが何があっても

護ったる!愚息のせいで、大事な親友もその

一人娘も失うワケには絶対に、いかんから」


そうやないと、和美さんに申し訳が立たん


服部くんは、可哀そうなくらい固まってた

服部くんにとっては、何気ない行動のその総

てを悪用されて、一番大事な人を傷つけ窮地

に追いやることに利用されたのだ


口惜しくないワケが無い


自分の生命を懸けたとしても、護り抜きたい

と願い続けている大事な相手なんだから


でも、知らなかった、ではすまされない


探偵たるもの、いかなる時も人を見る目を絶

対に、曇らせてはならない

真実が、見えなくなってしまうからだ


そして、それは時に生命を失うことに直結し

てしまう事もあるから


「ホンマに、申し訳ございませんでした」

絞り出すような声で、土下座した服部くん


「それは、遠山と、和葉本人に言え」

「はい」


服部くんは、仕事の続きをしろ、と言われ席

を立った

和葉の事、頼むな、姉ちゃん、と言って去る

背中は、悲しそうだった


「昨日、静が失踪届けを出したのにもな、ち

ゃんと理由があんねん」

服部家は認めていない、と言う意志表示のひ

とつや、と笑った


平次の意志で紅葉を選んだと、その証拠やと

言われんために、やで?と


それに、あのアホ、あの調子やと、屋敷に連

れ込まれても、事態の深刻さには気付かんま

まやろって思うてしたんや、と笑った


「大丈夫でしょうか、服部くん」

「さぁな、大丈夫や無かったら、平次はその

程度のオトコやったっちゅう事や

そん時は、愚息の責任をワシも静も取らざる

を得ないやろな」


心配せんでもええ、あんなアホやけどな、生

まれてから、和葉が懸った勝負事だけは

アイツ、一度も負けた事、無いねん

そう言って、本部長は不敵に笑った


私は、一生懸命執務室や仮眠室の掃除をする

服部くんを見て、そのまま失礼して

和葉ちゃんとコナンくんが待つ神戸へと戻っ

て行った


頑張れ、服部くん

和葉ちゃんは、信じてるんだからね

私や、コナンくん、新一も


遠ざかる府警の庁舎を見ながら、そう強く願

った


「恋歌 上の句3」へ

to be continued