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-難病と共に活きる-「ありがとうの手紙」

『あの時、僕はどうすれば良かったんだろう……』

2017.10.17 05:23

僕は病気の影響で足を上手く動かせないため、いつも杖をついて歩いています。


ある日。

仕事も無事に終わり帰宅するために電車に乗りました。

それほど混んではいなかったんですが、シルバーシートも含めて座席は全て埋まっていました。


仕方がないので、つり革を握って立っていると。

斜め前に座っておられたご高齢の着物姿のご婦人が、僕の杖に気づかれて座席を譲ってくださいました。


『替わってもらっていいのかな?』


ちょっと考えたんですが、せっかくのご好意を無駄にするのは失礼だと思い、替わってもらうことにしました。


丁重に御礼をして、座席に座ろうとしたんですが。

電車が動き出した影響で、車両が揺れ始めました。

いかんせん、足に踏ん張りが利かないため、フラついて動けません。

つり革に掴まりながら、なんとか体制を落ち着かせるまで数秒間を要しました。


その時!!


小走りに走ってきた中年くらいの男性が、椅子とりゲームよろしく、ご婦人が譲ってくださった席にサッと座りました。


『えっ!?』

と思い、しばらく呆然としていると。


『なにが悪いねん! 早い者勝ちやろう!』

と、言わんばかりに睨みつけられました。


確かに。

全て自由席なので、早い物勝ちなのは間違いありません。

それについては、何の異存もないです。


ただ。

お席を譲ってくださったご婦人の想いを考えると、心が潰れそうになりました。

お見受けしたところ、戦争をご経験されておられるお歳だと思います。

ご自身だって、ゆっくり座っていたかったであろうところ、足が悪いとはいえ僕みたいな若造にお席を譲ってくださったのに……。


ショックを受けたご様子で、何も言わず無言で歩いていかれるご婦人のお背中を見たときに、完全に心が潰れてしまいました。

本当に申し訳のないことをしてしまったと思いました。


その後、僕も何も言わずにその場を離れました。

あの場合。

僕はあの男性を批難するべきだったんだろうか?


しばらく、ずっと考えました。

でも、あくまでもルールとして考えたら、あの男性に落ち度はなかったといえばそうだし……。


残念ながら、未だに答えは出せていません。

ただひとつ。


ハッキリと言えるのは、僕はあの男性のような人間にはなりたくない。

心の底からそう思います。


そして。

どこかでもう一度、あのご婦人とお会いできるのなら。

ご好意を無駄にしてしまった謝罪と、改めてちゃんとお礼を言いたいです。


物事は全て多面的です。

それぞれの立場で、きっと言い分も変わってくるのでしょう。

だからこそ。

どっちが正しいとかではなく。

自分がやられて嫌なことは、やっぱり人にもしない人間でありたいです。


もし同じようなことがあったとしたら、みなさんならどうしますか?