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WUNDERKAMMER

バースデーケーキ

2017.10.17 08:44

俺が高校の頃に見た、かなり鮮明で怖かった夢。


その頃かなりの反抗期で、親、いや、家族全員が俺にとって邪魔者という感じだったのだ。

母はいつもおせっかいがうるさくて、何よりしつこい。弟も弟でウザい。

父はまだ何も言わない方なのだが、母がいる時だけに限って厳しくなる。

そんな家族に俺はだんだん嫌気がさしてきたのだ。


学校から帰宅する。

「おかえりなさい。ご飯できてるわよ」

「いらねーよ」

そう言って俺は部屋にこもった。いつもの事だ。イライラし過ぎて腹も減らない。

俺はベッドに入り、一人憂鬱になっていた。

 そして寝ようとした時、俺の部屋のドアが開いた。

何故か家族全員いる。しかも、みんな俺を見て、いかにも作り笑いという感じでニヤニヤしている。

…もうイヤだ、本当にウザい。俺の眠りまでを妨げる気なのか?…もう…イヤだ…。

すると母が言った。

「ねぇ、ねぇ、明日…」

「ウゼーんだよ!毎日毎日…!お前等の顔なんて、二度と見たくねえんだよ!早くドア閉めろ!」

俺はついにキレた。家族は悲しそうな顔をして、ゆっくりドアを閉めた。

「はぁ…」

再びベッドに潜り、眠りにつく…。


気付くと朝になっていた。

どんなに家族の顔を見たくなくても、やっぱりメシは食わなければ死ぬ。

俺はしぶしぶ居間へ行った。

母は台所で朝メシの準備をしている。父は新聞を広げて読んでいる。

弟は朝からテレビに向かってアニメか何かを見ている。

「メシは?」

母が振り返った。

……母の顔が無い。

まるでツルツルの、のっぺらぼうの様な…。


「もう少しでできるわ」

「うわあああ!」

俺は叫んだ。それに驚いたのか、父も弟も振り返って俺を見てきた。

しかし、二人ともやはりのっぺらぼうだ!

「どうした?」

「お兄ちゃん、大丈夫?」

俺は怖くて急いで家を出て、なりふり構わず走り続けた。


「ハァ、ハァ…」

息を切らすと共に、心臓は驚きの為かバクバクと鳴っている。

「あいつら化け物だ…!何で顔が無いんだ…!?街行く人たちはみんな普通の顔なのに…!」

怖い!あんなの人間じゃない!あんなのとこれから一緒に暮らせるわけがない!あの化け物たちに何されるか分からない!

俺の心はだんだん黒く染まっていくのがわかる。


「殺らなきゃ殺られる!」


そう思った時、俺の手元にはいつの間に鋭い出刃包丁があった。

「殺らなきゃ、殺られる。」

俺の頭の中にはその言葉だけが渦巻いていた。


そっと、家に忍び込む。

後ろに出刃包丁を隠して、まず父の後ろに忍び寄り…。

その時、弟の声がした。

「お兄ちゃん!何持ってるの…!?」

しまった!バレた!俺はあせり、とっさに父をメッタ刺しにしたのだ。

「ギャアアアア!」

父はのっぺらぼうの顔のまま背中から大量の血を流し、死んだ。

のっぺらぼうだから、死んだ時の表情は見えないので苦痛は少し軽減した。

俺は少し恐怖心もあったが、殺ってしまったプレッシャーに勝てず、続いて弟もグチャグチャに刺して殺した。

弟は少し足をジタバタして、それから息絶えた。

そして俺は、一番憎たらしい母がいる台所へ向かう。

母は背を向けてまた何か作っている。

俺は憎しみを込めて、母の背中を「ザクッ」と刺した。

母は声をあげず、震えながらゆっくり振り向いた。

……のっぺらぼうじゃない…母の顔だ。

母は苦しそうにして、俺にただ一言残して息絶えた。

「ごめん…ね…」

その台所には大きなケーキが一つ。

真ん中に乗ってるプレートには『たんじょうび おめでとう』と、母らしい乱雑なつなげ字で…。


俺は急いで父たちの所へ行った。

父も弟ものっぺらぼうなどでは無く、何が起きたのかよく分からないような表情で、

何か悲しそうに口から血を流して死んでいた。

弟の手には、まだスイッチが入ったままのゲームボーイが、電子音を鳴らしながら動いている。


「うわあああ!」

俺は叫んで泣き崩れた。

俺はただ一つの大事な家族を…俺の手で…みんな…!

俺は頭を抱え、顔を手で覆った。涙が止まらなかった。

俺が見ていた顔は幻覚だったのか?本当はみんな…こんなに俺を思ってくれてたんじゃないか!

俺は気付くのが遅すぎたんだ…。


ハッとそこで目が覚める。現実でも泣いていた。

一瞬あせってすぐ居間に行ったら、いつも通り家族全員いる。

よかった。俺は何て夢を見てしまったんだ。


それから反抗期も去り、家族を嫌う事は無くなったが、その2年後。

母は急に発作で亡くなった。

何とその日は、偶然にも俺の誕生日だった。

『たんじょうび おめでとう』

母が死ぬ寸前まで作っていたバースデーケーキは、あの夢に出てきたものと完璧と言っていいほど同じものだった。


何か分からないがものすごい寒気がした。

ちなみに、父も弟もまだ生きている。