Epilogue - クリザンテーモと薔薇の花 -
2017.11.03 13:15
- クリザンテーモと薔薇の花 -
マッシミリアーノには恋人がいて、
ある日突然、倒れたまま
目を覚まさないことを聞いていた。
教会の入口をくぐると辺りの空気はひんやりと冴えかえり、
モザイクで彩られた大きな円形の柱は歩く速度にあわせて
ゆっくりと僕の視界の中を移動した。
彼の恋人は美しい白髪(はくはつ)の老紳士だった。
柩の中はまるで天国の片隅のように
やさしい色のクリザンテーモと彼が生前好きだったという薔薇の花で飾られていた。
あどけない顔で眠る老紳士は、それはそれは安らかな姿で横たわり
とてもいい人生だった、
彼にそう言いたかったに違いなかった。
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僕が立ち去った後、
彼は痩せた老紳士の中指の指輪を
元通り左手の薬指に戻し
長年連れ添った恋人にお別れのくちづけをするのかもしれない。
やがて白髪の紳士は火葬され
空へと迎えられる。
あの夜、
眠ってしまった舟の中で
握りしめていた指輪を
今はまだ手持ち無沙汰に思いながら、
それでも時折
僕は湖のほとりに立ってあの島を想う。
もしも、
流星の流れる夜に
島の発電所の明かりが灯るのが見えたなら
その奥の青い森の中では何か不思議なことが起こっている。
あの日、僕が夢で見たような
やさしい不思議な出来事が。
そしてあの黒い髪の女が誰なのか、
それは誰も知らない。
~ おしまい ~
The tales of "A thousand spells" jewelry
from another world🌛