ぷつん(岡田靖幸)
2017年の10月にもなると、ブレードランナーの続編の話になったり(あのララランドの人とハリソンフォードのW主演!!)、セルゲイパラジャーノフのざくろの色の話とワイルドスピードのスピンオフの主演がジェイソンステイサムとうわー名前が思い出せない。あの、確かお笑い芸人のラジオで大統領にさせられてた、うわーこれも名前が思い出せない、って話で盛り上がるわけない。
元々が色盲なので、色に関してのこだわりが一切なく、名画を観ても色使いに感動した試しがなく、ジブリの緑がなんか凄い! みたいな薄そーな話にも相槌すら打てずに大学のクラスでは最初の飲み会で浮いた。メリーポピンズ(観たことない、Netflixにあれば観るけど、TSUTAYAを使う気にもなれない)のように実際にフワンと空を舞っていたのではなく、カーストが地に着いた瞬間だ。
「てか俺たけしブルー観ると俺泣いちゃうんだよね」
「抱いて!」
要約しても俺が2回出てきてしまう自分語り。その賛同者。こんなような会話に、
「俺青がわからない」
なんて呟く隙間すら俺には見えない。わちゃわちゃした配色の膝丈のコートに、茶髪の男が、その場で一番化粧の上手い女を違う場所へと運んでいった。イザナギやイザナミのように尊い感じで木更津住みの健太がイザナイとそれを呼んでいる。吉祥寺のハモニカ横町の焼き鳥って看板出しといて全然焼き鳥メニューにない安居酒屋で行われた哲学科のクラス会には、主に2種類しか人類の参加が認められておらず、
「この後カラオケ行く?」
がすんなりと言えてしまう将来安泰型と、
「一言もつまらん言葉は吐くな!」
ってそのまま言っちゃうお先真っ暗型。俺は決めかねていたが、
健太と、皆からもう邪神と呼ばれ始めた石神というブロック塀に顔がついたような男の
「ここにいるやつら、どうせサンバの意味すら知りやしない」
「意味なんて求めることすら俺はしない。生きたい奴だけがやればいい。俺はしない。俺は死にたい」
「なんでさっきからここジャミロクワイなんだよーやる気出ないわ」
「俺はnegiccoしか聴かない。他は知らないし、俺は死にたい」
会話にも発展しないポツリポツリとした音飛びレコードみたいなやり取りに降参してそっちになった。親には入学金を払ってもらって、そん時に、勉強に費やすこの四年、とスローガンを掲げさせられたがもうそれも叶わない。店の柱に刻まれた、擦れて出来たような傷達がどのように付いていったのかが、その後の乱れ方で判っていった。これはこの不毛な飲み会に参加しないと判らなかったことなので、実際に体験して知ってほしい。
金を稼ぎたいと思って始めたアルバイトだったが、まずアルバイトじゃたかが知れていて、時給1000円前後で、1000円を得る度に1時間を売るってことが、手塩にかけて育てた豚をベーコンにして焼いて食べた銀の匙って漫画より、無意味でしかなかったので(いやあれは良いものだったかも)、小ちゃな時に観ていた魔法陣グルグルのキタキタ親父が踊っていたキタキタ踊りを踊って、それが実は魔法陣のヒントになっていて、すんげぇ奴召喚する感じに大金が手に入る、って方にシフトした。つまり労働は終わった。勿論、働いた43000円ばかしのアルバイト代は、それなりに感動したが、それは映画2時間で得られる感動よりは欠けていたし、1800円で得られる感動を(レンタルで観て同じ感動が得られるなら108円!もしくは、他人のアカウントで見るNetflixで殆どタダ!)何故43時間も売って得ちゃったんだろう、ってもう目も当てられないでいた。金が大事なのは判っていて、でもそれはお金持ちの…あ、もうやめやめ。ほれはイントネーションやニュアンスすらやれやれ、と同じようだった。ジョジョ3部の承太郎の真似にもなっていたと思う。
俺は街を練り歩いた。総菜屋が無くなって駐車場になっていたり、後は見慣れないテナントビルが建ってて、前までどんなのがあったのか全く思い出せず、ゲーセンか古着屋だったような気もした。お気に入り、とまではいかないけど、商店街に行った際には必ず寄っていた本屋がなくなっていて、コンクリートの塊になっていた。まるでおかしい。隅から隅までは見れないが、ドアというものがない。見える範囲で、の話だがこの建物?(どデカいオブジェ?)には入り口がない。というか、人が入ることを想定してない。質感からして、もう真面コンクリート。表面10センチくらいがってことじゃなくて、この本屋だった場所にゴポゴポ生コン注ぎ込んでその空間奪ったみたいに、見た感じは中に空間がなさそう。充填されたコンクリートの物体。が、これだった。
少し叩いてみた。コンクリートだった。この馬鹿さ加減はなんだろう。裏に回りたいが、隣のドラッグストアとカルディに挟まれている為に、脇から抜ける事も出来ず、よく観察してみると後ろにも背の高い倉庫のような建物があるので、そもそも裏なんてないのかもしれない。ふと、ポマードの匂いが漂ってきた。急な吐き気が押し寄せ、この場所から小走りで去る。生のレバーを目の前に持ってこられたような血を連想させる喉のムカつきがパチンコ屋に向かわせた。といっても付き合いで2度ほどやったことがあるだけなので、パチンコなんてやらない。タバコの匂いとしこたま煩えその店を歩いているだけで浄化される。これはドブがあったら入りたい! と同じ感情で、雨に濡れる中学生よりももっと救えない。が、リセットできる。パチンコ屋は出入り口がいくつかあり、通りと通りを移動するのに良い場合があり、この店もそのようだった。
店から出ると、雨が降ってきた。雨というとやっぱりなんとなくブレードランナーを思い出す。デッカードだったっけな、そんな名前の主人公なんだけど、あの映画で残るのはあの街で、やっぱあの求心力でもって映画が成り立ってると思うんだけど、その街もイメージずっと雨が降っていた。実際雨が降っていたのかは覚えていないけど、観ていて湿気が多い映画だった。デッカードがスッキリした表情なんて一度も見せなかったようにも記憶してるし、だから雨ってイメージが出来て、いやそれかあの街に晴天が似合わないディストピア感を抱いてー、ってそんな実は興味がない。ブレードランナーなんてこっちからしたらダークシティと同じだ。そして俺はダークマンのが好きだ。
で、紺色の膝丈のジャケットを使って雨を避けて歩いていると、まただ。また在る。今度は3度ほど行ったことがある、歯科医院だ。ネットで歯石の話を聞いて3度ほど歯石取りをしてもらった。5階建てビルの3階に入っていたのだが、その3階の部分だけコンクリートの塊に変わっている。これはさすがに、何か法に引っかかりはしないのか? なんか消防法的なさ!! でも、消防法の実態俺知らないし、バレなきゃOKなのかも、俺も今まで気付かなかったわけだし、お役所仕事は遅いというし、俺の消防関連の知識はバックドラフトしかないし。気になって仕方ないので、エレベーターに乗ってみると、3階の部分だけテープで押せないようになっていて、
「コ」
と書かれているふざけている。テープを無理矢理剥がして押してみる。押してみて判ったことだが剥がす必要はまるでなかった。
3階に着くとエレベーターの扉が開いた。そこには扉いっぱいにコンクリートが在った。勢いに任せて俺は飛び蹴りを浴びせたが、エレベーターに押し戻されるだけだった。やはり空間はなかった。みっちりとコンクリートが詰まっていた。扉が閉まろうとするので手で開き、この壁を殴ってみる。ホント、めっちゃ痛かった。ビルを出て、また歩く。膝がベキョベキョと音を立てた。が気にせずに歩く。
ふと高い所に登りたいなぁ、と思って、一度もやったことがなかったが電柱に登ってみる。あの最初のとっかかりが高くて難儀ー! って叫んででもどうにかひじや二の腕を傷付けながら上がれた。割に意外と緑がまだあるなーって感想より、それは寝る前に少し思い返して出てきた感想で、最初に飛び込んできたのはある巨大な白い(雨に濡れて実際には鼠色の)デカい物で、見えちゃってから『諦め』って文字が頭から離れなかった。その日は、もうヤメにして、家に帰ってピザを頼んだ。ホントなら中華の出前があればよかったが、中華の出前なんてここら辺ではどこもやってないだろう。
そこから3週間、学校にも行かず、炊事もせず、ただボーッと「ぼくらの」とか「GANTZ」とか「ウシジマくん」を観たり、何か新しい画期的なオモチャを作ろうとノートに向かってみた。健太が来たかもしれないが、奴の形跡といったら冷蔵庫のシュークリームが無くなっていたり、洗濯物が増えていたりぐらいなもんだったので、もしかしたら邪神だったのかもしれない。邪神はコンクリートに詳しそうだったので、3週間ぶりに学校に行ってみると、既に邪神は学校を辞めていた。九州のどっかに引っ込んだと健太が言った。その健太も3日後にバラバラの死体になってしまった。
結局、ずっと拭い去れない『諦め』に向き合うしかなかった。ほしたらなんか勝手に身体が動いて、あの場所へ向かってる。白い巨大なドームのような、でも次の瞬間には曇り空と同化して境目なんてないようにも思える、あの国立公園があったはずの場所。しかし考えてみれば、途中なのかもしれない。3週間の間にまた多くなった。カルディもミスドもローソンも「アレ」になっている。全部そうなっちゃうんじゃないか? それでももう俺らは困りはしない。今ではAmazonで家から出なくても良いし、もうコンクリートで街中が充填されても問題はないのだ。白い巨大なコンクリートは俺が近づくよりも速く俺に近づいている。国立公園はここまで広くはなかったはずだから、タガが外れたのだろう。しかし俺も歩く。おおお、これスゲー。