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有限会社株レモン

賢明なる投資家 その2

2017.06.06 03:41

本書を読むときの注意点は、以下の3点でしょうか。

★1点目

 第4版が書かれた1972年は、債権利回りが7%を超えていたという異例の時代。そのような時代背景があることを念頭に読まなければならない。(株式投資の本だと思って読み始めると、本書の中で、債券の話が占める割合の多さにきっと驚くと思います。)

 グレアムは、債券と株を 債券:株=50:50 の割合で保有することを基本とせよ(場合によっては、債券:株=25:75(株式市場が弱気すぎる場合は株の割合を増やす)又は債券:株=75:25(株式市場が強気すぎる場合には、株の割合を減らす)に変動可能)、というアドバイスをしている。

 しかし、このアドバイスを、債権利回りが0%に近い現代の日本でグレアムがするであろうかというと、はなはだ疑問を感じる。

*グレアム自身、「代表的株式銘柄よりも優良債券の方がより良い収益を得られるという現在の状況は、債券の比率を増やすことに対する強い論拠となる」(92頁)と述べており、逆に、債券の利回りが低い現代日本では、債券の比率はほとんど無いようなPFを推奨するように思える。

 もっとも、この「債券」を「預金ないし現金」と読み替えれば、現代日本でも利用できるアドバイスかも知れない。

★2点目

 資産価値を非常に重視する点は、収益力を考慮するという視点を外してはいけないと思われる。赤字の会社では、資産価値が劣化していくため。要するに、100億円持って会社でも、毎年赤字が30億あれば、あっという間にそのプラスの資産100億は吹き飛んでしまうということ。

 また、高PBR銘柄に対する強い警戒心をグレアムは抱き続けているが、会社の収益力の源泉として、現在では、簿価に現れてこないものがたくさんあるのであって、簿価の大きさがそのまま収益力に直結した時代(グレアムの時代は、そのような時代のイメージがあります。厳密ではありませんが)とは、同じ議論がしにくいように思う。

★3点目

 グレアムは、会社の質にはほとんど注目せず、数量的なことのみを極めて重視している。これは、魅力であると同時に、グレアムの限界でもある(この限界を超えたのがバフェットですね)。

 以上のような、種々の限界がある書籍であるにもかかわらず、なぜか、私は、この「賢明なる投資家」がとても大好きです。なぜか、何度も読んでしまう。

 なぜなのか、何に惹かれるのか考えてみました。

 考えた答えは、本書から、グレアムの、一般の投資家を導こうとする情熱や熱意が、ひしひしと伝わってくるからだと思いました。バフェットが、本書の序文で、グレアムの特色の一つとして、知識や時間や精神を他人に与えることについての寛大さを挙げていますが、もはや「寛大さ」というレベルを超えて、知識や情報を読者に与えよう、読者を投資の世界で導こうという、すさまじい熱量の情熱ではないかと思います。その情熱的な姿勢が本書の文章の行間に迸(ほとばし)っています。

 また、恐らく1929年~32年の大恐慌を経験しているためでしょう、投機熱に浮かされ人生を棒に振ってきた人々を見てきたであろうグレアムは、投機に対する強い嫌悪感を抱いているようです。読者には繰り返し投機を戒めます。証券会社が投資家を食い物にするような悪質なIPOなどにも強い嫌悪感を抱いていると推測されます。不誠実な会社の開示に対しても、控えめな表現ながら、強い反対の意思を表明しています。これらの記載ぶりからは、株式投資が健全なものであってほしいというグレアムの願いと、尽きることのない投資への愛と、誠実さとを感じ取れるのです(大げさでしょうか)。

 このようなグレアムの凄まじい情熱と、真摯な姿勢が、今もなお、私を含め多くの読者を引き付ける理由ではないかと思います。

 投資の手法という意味では、上記の3点目の問題点とも密接に関わりますが、グレアムの手法は、企業の定量的な情報を極めて重視するものです。定量的であるということは、数字だけで判断できるということであり、判断基準が極めて明確で、客観的だというメリットを有しています。

 投資の基準に確固たる判断基準を与えてくれるという意味で、個々人の主観(往々にして、根拠のない不安定なものが多くなる)に比べて、非常に安心感があります。企業の定性的なものにほとんど関心を払わないので、限界はあると思うのですが、それでも、大きな魅力でありますね!

 言うまでも無く、有名なミスターマーケットの話が出てくる8章や、安全域に関する20章なども、未読の方は必読だと思います!