デートしようか 02
スーツのままでぷらぷら歩くには、だいぶ場違いなところに来てるよな、と思う。
電車を降りれば、ここはもう夢の国の入り口なのだ。
改札を出ると、鬼さんはすぐに物珍しそうに「おおー……」とあたりを見回した。
それをなぞるように目を動かすと、そこに広がるのは見慣れたビル街ではなく、駅から降りる人間を出迎えるように開けた視界、見慣れないが不思議とどこかで見たことのある城を思わせる建物、南国にしか生えていないような木々と低く広がる森や茂み。
ビルや普通の家がどこにも見当たらない、少し不思議な風景だった。
「こりゃあ見事なもんですね、徹底されてるっつーか」
「すげえなあ、もう異世界だな」
「それを言うなら夢の国ですよ夢の国」
ああそうか、と笑う鬼さんはまだ駅を出たばかりなのにも関わらず、何だかすでにアトラクションに乗ったみたいにめちゃくちゃ楽しそうだ。
案内板を見ると、ここは本当に夢の国への玄関口で、ここから更に専用列車に乗って夢の国へと向かうらしい。ふうむ、と鬼さんは腕を組んだ。
「焦って見て回るのもなあ」
確かに園内はかなり広そうだ。
明日も仕事があるし、帰宅にかかる時間を考えるとせいぜい二時間が妥当なところか。
「ああ、でも」
「ん?」
「ここにもなんか、いろいろあるんですかね」
ほら、と白い建物を指差した。
専用列車に乗り込むための駅に向かう人たちの他に、もうひとつ、人の流れができている。
カップルも、友達も、ひとりで訪れた人も、薄闇と夕暮れの混ざる空を眺めながら、いつもよりもだいぶゆっくりとした足取りで、俺が指差している映画のセットのような建物の中へと吸い込まれていく。
「覗いてみます?」
「そうだな、前哨戦といくか」
鬼さんは腕まくりでもしそうな顔を俺に向けて笑う。
夢の国の前哨戦ってなんだよ。野球じゃねえってのに、と思ったら、何だかおもしろくなってきてしまって、ふは、と笑いがこぼれた。
鬼さんは笑う俺を見て、静かに目を細める。今ここに広がっている夕闇のように、ただ静かに、それから穏やかに笑った。
「また、ちゃんと来よう」
そう言って、にっと笑う顔は次にはもう、夏空のような、子どもみたいな溌剌さばかりが広がっていて、俺はなんだかうまく返事ができなかった。
かく、と顎を引くのが俺にできる精一杯になってしまって、それこそ何だか夢みたいな色あいの空の下で、夢みたいな次の約束をした。
くるりとゆるいカーブを、音もなく静かに列車が進んでいく。
次がいつになるのかはわからないが、今度は俺たちがあの専用列車に乗るのかもしれない。
あの先には何があるのか。夢や、おとぎの世界だろうか。
列車は光を引きながら、俺のまだ知らない向こうに走り去って行った。