Ⅲ.新規指導をどう捉えるか
前述のとおり、不正請求をしていないかのチェックを兼ねて、保険診療についての指導をする事が主な目的です。
私がこれまでの経験から思うのは、決して理不尽だったり、不合理だったりするものではなく、むしろ歯科医師にとっては経験しておかなければならないものだと考えています。
確かに、行き過ぎた指導により自殺者がでるなど、問題点も指摘されています。 ですが、こう考えてみてはどうでしょうか。
明日、先生の患者さんが突然診療所にやって来て、「治療に不満があるので訴えます!カルテを今すぐ開示して下さい。」と言われたとします。 どうしますか? 現在カルテは、患者さんから求められたら開示しなければならない事になっています。
裁判で判例も出ています。 カルテには診療行為に関する先生の所見や処置の理由、患者さんの経過が書かれていなければなりません。 もし書かれていなければ、先生は処置についての理由を説明できず、自分を守るべき処置をした時の状況を証明する資料がないわけですから、負けてしまうかもしれません。
仮に「診療がある為準備するのに2、3日の時間が欲しい。」ということになったとして、先生はカルテが書けますか?
もうお分かりだと思いますが、新規指導は正にこのようなケースの予行練習と捉える事ができます。
そう考えると、新規指導がとても有り難いと思えてきませんか? 新規指導でチェックされることは、正に訴えを起こした患者さんの弁護士が、重箱の隅をつつくように、先生の過失を探す行為ととても似ているのです。 私は新規指導に同席していてそう感じていました。
「お~良く見てるな。」とか「え!そこを言ってくるの?」なんてこともあり、たくさん勉強させてもらいました。
ですからこれから新規指導を受ける予定の先生方も、そのように捉えて自分の身を守る為のカルテがどういうものなのかを学んで頂きたいです。
最近良く目にする「新規指導時にカルテを見せる法的な根拠はない」と言うものがありますが、そんなに行政機関に盾突いて何の意味があるのかわかりません。 逆に見せられないようなカルテを書いているのではないかと、疑わしささえ感じます。 さらに言えば、行政指導を受けないことで、監査対象になり、手痛いしっぺ返しを受けるはめになる可能性があるなら、素直に指導を受けるほうが自身のためだと思います。 行政指導には確かに法的拘束力はありませんので、行政側は強制することはできません。しかし、監査となれば法的に保険医停止の行政処分に直結することになります。
さらに言うなら、一切の過誤請求がなく、カルテも全て書きあげられていて、完璧であれば盾突いても問題ないですが、そんなことは非常に稀です。 また、現在はほとんどの医院で電子媒体によるレセプト請求をしていますので、支払基金や国保連合会には電算データーが残っています。
そして、その電算データーから疑わしい請求がわかるようになっています。 いくつもの医院のレセプトを見てきた経験から、まったく疑わしい請求が見られない例はほとんどありませんでした。 単月ではなく、連月に渡って、縦覧点検をされれば、さらに多くの過誤請求が出てくるのは当然と言えますし、1法人の事務局が見るよりも審査委員達は更に多くのレセプトを見ていますし、彼らはレセプトのプロです。ほとんどのことが把握されていると考えた方が良いです。 全てを把握したうえである程度のさじ加減をしているのです。 ですから、処分に至ることのない指導のうちに素直に従い、勉強しておいた方が、後々自分の為になると私は思います。