令和4年1月4日(火) 「国立劇場歌舞伎、南総里見八犬伝」
正月の国立劇場は、お馴染み尾上菊五郎が中心になった正月興行で、今回は、南総里見八犬伝の通しである。菊五郎劇団総出演の舞台で、今の時代の流行を取り入れた笑いあり、大掛かりな立ち回りもあり、正月らしい肩の凝らない、楽しい舞台だった。ドローンが出てきたり、オリンピックでのドローンの活躍を、歌舞伎に取り入れて、文字を書いたりして、歌舞伎に今を取り入れるのは、毎年の事ではあるが、楽しめた。
国立劇場の正月興行で、いつも感じるものだが、芝居の時間内では、楽しめたが、見終わったら、それでお仕舞いで、どんな筋か思い出せない。今年もそうだったが、次第に私の考え方が変わり、歌舞伎は、もともと見た目本位の芝居なので、芝居が行われているうちは、楽しく、芝居をたっぷりと見せてくれれば、それでいいのだと思うようになった。菊之助の水も滴る前髪の美少年姿を見られただけで、眼福を感じた。男と女を超えた、美少年の中性的な美しさを見せられ、演じられるのは、今の時代菊之助だけだから貴重だ。吉右衛門が亡くなり、がっかりとしている私には、立ち振る舞いに大丈夫かなというところもあったが、菊五郎の元気な姿を見られて嬉しかった。今年も菊五郎が、世話物で泣かせてくれる芝居をたくさん見たい、まずその体力はありそうだ、大丈夫だという期待感を持てたので、それだけで十分なのであった。
八犬伝は、里見家の8人の勇者の物語だから、立ち回りが多く、色々と工夫されていて、楽しかったが、特にお城の屋根での立ち回りは派手で、菊之助と松緑、そして殺陣に絡む役者たちの動きは、きびきびとしていて見事だった。八剣士が集まる、だんまりは、役者が揃っていて、圧巻だった。
総じて、芝居の始まりと共に、見た本位に面白く時間が過ぎていき、飽きはしなかったが、舞台が跳ねた後、さてどんなストーリーだったかと思い出すと、もう思い出せない。お正月の国立劇場の歌舞伎は、肩がこらず、エンターテインメントに徹して作られるので、これはこれでいいのだ。正月気分で、初芝居を見に来て、楽しかったという思いを胸に帰路につくことができるのは、素晴らしいことだ。日本に生まれてよかったと、つくづく思う。目を瞑ると、やはり菊之助の美しさ、そして梅枝の可憐さ、哀れさが、蘇ってくる。