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鈴木桂一郎アナウンス事務所

令和4年1月13日(木) 「新橋演武場、海老蔵のプぺルを見る」

2022.01.13 07:28

令和4年、歌舞伎座、国立劇場を全部観て、最後に残ったのが、市川海老蔵の新橋演舞場のプぺルだった。木曜日ながら、演舞場は、満員の客で、若いカップルや家族で見に来ている客も多く、子供からお年寄りまで、普段は歌舞伎座では、見かけないお客さんが目立っていた。

ベストセラー絵本、『えんとつ町のプぺル』を下に作られた新作歌舞伎である。絵本を見た事がない私には、今日見た芝居だけで判断するしかないが、はっきり言って、何が何だか分からないまま、芝居が進められていく。絵本を見ていないだけに、取り残され感が半端なかった。ごみを、護美と書き、海老蔵が護美人間プペル、熊八、田沼意次を早替わりで演じた。

芝居では、黒い煙が空にたなびき、星が見えない江戸の町の人々が、暗い雲の上には、星が輝いていると考えると、これが何と取り締まりの対象になり、取り締まりの元締が、田沼意次という悪人になっている。老中を務めた田沼意次である。でもなんで、田沼が、江戸の空、黒煙がたなびく、その上には、青空があり、星が輝くと考える人々を、異端と考え、厳しく取り締まるのか、その理由が良く分からない。海老蔵演

じる護美人間プペルと、勧玄が演じる、はるが友達になり、友情を育んでいくストーリーである。まだ5歳の勧玄と、大人の?護美人間プペルに友情が生れるというのだが、どこに引かれて、それぞれが友達になったかわからず、しかも親子の?年齢差がありすぎて、ぽかんとしてしまった。更に護美人間という存在が、いったいどんな存在なのかも、よく分からなかった。

この芝居、どこがセールスポイントなのか考えてみた。

海老蔵が三役を早替わりで演じるところが、まず第一の魅力である。海老蔵が護美人間プペル、熊八、田沼意次を演じたが、プペルと、田沼の早替わりが、何回もあり、歌舞伎を見慣れぬ観客は、驚き、大きな拍手を送っていた。ただ海老蔵の早替わりは、確かに、猿之助並みに早いが、台詞を特に言う訳ではなく、役の性根を出す芝居がなく、ただ衣装が変わるだけなので、早替わりで、役の性根までも変えるという、早替わりの本来の面白さは欠けていた。

第二のセールスポイントは、海老蔵の長男の勧玄に、新橋演舞場の舞台出演の機会を作り、役を与えて、舞台上でたくさんのセリフを言わせ、役者として成長させるのが狙いだと思う。5歳の子供だから、海老蔵の子供だからと言って、歌舞伎では役が限られてしまう。しかも子役は、感情をこめて台詞を言うのではなく、平板的に言うだけで、台詞に感情は入らない。そこで海老蔵が子供の成長を第一に考えて実施した芝居だと思う。勧玄の台詞は、海老蔵の長男で、注目されているから、観客は拍手するが、海老蔵の子供でなければ、拍手が起きたかどうかは分からない。まだまだ演技は、子供レベルで、決して上手いとは言えないが、テレビに出てくる、こまっしゃくれた子供の演技よりは、堂々としていて好感を持った。声を張って大人数の観客の前でセリフを言い、見得をする度胸は、将来に、大いに期待していいと思う。

舞台は、期待をして見に行ったわけではないので、まあ、こんなものだろうと思ったが、観客は大喜びで、6回に渡り、カーテンコールがあり、最後は、観客総立ちで拍手を送っていた。私も付き合って拍手を送ったが、勧玄が幕を引きながら手を振るシーンもあり、観客は大喜びだった。これから二十年も経ち、勧玄、改め新之助が、20歳半ばの花形役者になった時に、「私は勧玄君が5歳の時の、プペルを見たのよ」と、自慢するためには、見ておいた方がいい芝居である。