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石川県人 心の旅 by 石田寛人

富士山の色

2022.01.23 15:00

 新年おめでとうございます。またコロナ感染が全国的に急拡大してきました。感染力の強いオミクロン株の広がりのようで、我が故郷の様子も気になります。ここで、気を引き締め、しっかり対応して、今年をコロナ禍がしっかり克服された明るい一年にしたいと存じております。

 さて、新年につき、富士山について語りたい。無数の日本人が富士の絵を描いてきたが、その代表は葛飾北斎である。富岳三十六景を描いた北斎は、広く世に知られている。米国のある雑誌で、この千年間で世界に最も大きな影響を与えた百人に、日本人としてただ一人選ばれている。北斎描く富岳三十六景46枚の富士山のうち、「赤富士」こと「凱風快晴」、「黒富士」こと「山下白雨」、「ウエーブ」こと「神奈川沖浪裏」の三枚は三役と呼ばれて人気を呼んできた。北斎の富士山は、山の両側の稜線を上に延長すると、かなり鋭い角度で交わることになり、実物とはかなり違う。しかし、それが北斎の富士をいかにも富士らしくしている。北斎は、ものにひそむ本質を実に的確に画面に表現している。

 「凱風快晴」の「凱風」とは南風。それを受けて堂々と聳える「赤富士」。我が国を代表する風景だ。赤富士は、実際はどこからどの時刻にあのように見えるか、研究が重ねられているようだが、私は赤富士を実見したことがない。

 この赤富士と構図が似ているのが「山下白雨」の黒富士である。こちらは、山頂は晴れているのに、山の中腹から下は雲が覆っていて、雷光があたりを引き裂き、轟然と雨が降っているようだ。これまた富士の大きさと高さを極めてよく表現している。

 しからば、「青富士」なる絵は、富岳三十六景にはないのか。そもそも富士山の絵は、山頂の冠雪部分以外は、青色に塗られることが多く、北斎が青く描いた富士はいくつもある。私は、「江尻田子の浦」や「甲州三島越」あたりは、かなり青が印象的な絵と思うが、一般に青富士とは呼ばれていない。

 ところが、「凱風快晴」に、青く色づけられた全く印象の違う別摺が数枚あり、それが青富士と言われているようだ。あまり世に出ていない作品で、私はネット上でしか知らないので、何とか実物を見たいと思っている。

 さて、「白富士」はどうか。富士山頂には大体雪があるから、北斎もそうであるように山容の上の方は白で表現されることが多い。北斎の絵ではないが、私の身近にすばらしい白富士がある。それは、本田技研の創立者本田宗一郎の描いた雪深い冬の富士である。浜松の天竜川のあたりで生まれ育った宗一郎は、富士を仰ぎながら成長したので、その崇高さに刺戟されたのが、後年、大きな事業を興した理由の一つと思いたい。

 かくして、富士は、赤くもあり、黒くもあり、青くもあり、白くもある。

 しからば、我が故郷の白山はどうか。子供の頃、いつも二階の部屋から松の木越しに仰いでいた白山は、時に青く、時に黒く、時に白く、時に夕日を受けて赤く輝いていた。いずれの白山もすばらしいが、私はやはり雪に覆われた白山が好きだ。

 2022年の文藝春秋の新年号は、村上裕二画伯描くところの力強い「紅富士」である。北斎の赤富士同様山容全体が赤く塗られている。下の部分は雲か水か白く塗られ竜が駆け抜けている。新しい赤富士だ。美しく色づく我が国の山々の気高さに圧されてオミクロン株が速やかに退散することを切に願っている。(2022年1月16日記)