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「制限」が創造性を高める理由

2022.11.19 07:18

https://wired.jp/2011/11/22/%25e3%2580%258c%25e5%2588%25b6%25e9%2599%2590%25e3%2580%258d%25e3%2581%258c%25e5%2589%25b5%25e9%2580%25a0%25e6%2580%25a7%25e3%2582%2592%25e9%25ab%2598%25e3%2582%2581%25e3%2582%258b%25e7%2590%2586%25e7%2594%25b1/ 【「制限」が創造性を高める理由】より

パズルなどを解いているときに「障害物」があったほうが、物事を大局的に眺める傾向が高まり、発想が拡大するという研究結果が発表された。

人間の創造性に関してはたくさんのパラドックスがあるが、そのなかのひとつは、制限があるほど創造性が高まるらしいということだろう。われわれは、想像力は完全に自由な状態を必要とすると思いがちだが、実際の創造的プロセスは、厳密な約束事や形式上の条件と深く絡み合ったものなのだ。

おそらくその最もよい例は詩だろう。一見すると詩は、文脈や文法に従う必要はないので、普通の文章より自由に見えるが、ほとんどの詩人は既存の詩の形式を尊重している。俳句やソネット[十四行詩]やセステット[十六行韻文]などだ。彼らは、自由に詩を作るよりは、構造的な条件を求める。それはなぜだろう。

この問いに、『The Journal of Personality and Social Psychology』に掲載されたアムステルダム大学のジェニナ・マルグクらによる研究は、興味深い回答を示している。障害物があることによって、人の精神的な視界が広がるというのだ。

障害物というものは、目の前の問題から途中で逃げ出す気持ちを起こさせるのでない限り、人間に対して、一歩うしろへ下がって、より全体的でゲシュタルト的な処理方法をとるように促す効果があると考えられる。その結果、人間は物事を大局的に眺め、一見すると無関係な情報を概念的に結びつけて考えることが可能になる。

彼らはこの仮説を確かめるため、いくつかの実験を行っている。最初の実験では、学生25人に、アナグラム(言葉のつづり変え)を使った一連のパズルを解かせた。学生たちの半数は、「障害物」のある状況下(アナグラムとは無関係の言葉を淡々と繰り返す声を聞かせる)に置かれた。その後、学生たち全員に認知テストを受けさせ、物事の全体を捉えた思考をしているか、局所を捉えた思考をしているかを評価した。

すると事前の予想どおり、音という障害物を与えられた被験者たちのほうが、大局的な視覚的ターゲットへの反応が有意に優れていた。すなわち彼らは、細かい部分よりも、全体に注意を向けていた。

例えば、「ネイヴォン(Navon)課題」と呼ばれる下のような図を見せられ、どんな字が含まれているかと問われたとき、学生たちは自動的に(左上から時計回りに)「E」「S」「H」「A」と読む傾向を示した。これに対し、事前に障害物を与えられなかった被験者たちは、これらの図を「A」「H」「S」「E」と読み、細部に注意を向ける傾向を示した。研究チームはこの変化を「知覚的視野」の広がりと呼び、障害物の存在が、被験者が気づくことのできる範囲を広げた可能性を示唆している。

また、障害物は知覚的な視野を広げるだけでなく、概念的な視野も広げる。実験において、アナグラムを解く間、数字をランダムに読み上げる声を聞かされるという不快な障害を与えられた被験者たちは、概念的分類を柔軟に用いる能力においても優れた成績を示した。例えば、電話は普通、家電やコミュニケーション機器とされるだけだが、障害を与えられた被験者は、電話の概念をより広くとらえ、「家具の一種」としても認識することができた。こうした柔軟性は、人が新しい概念を思いつくときに必要なものだ。そういうとき人は、慣れ親しんだ思考の境界を超えなければならないからだ。

最後の実験では、被験者たちはコンピューターの迷路ゲームを行った。一部の被験者が遊んだゲームでは、障害物が道をふさいでいるため、迷路を抜けるルートの発見は格段に難しくなっていた。その後被験者たちは、創造性の標準的尺度として知られる「遠隔性連想検査」を受けた。検査では、例えば「嫉妬」「ゴルフ」「豆」など、画面上に3つの単語が表示され、被験者はそれらすべてを結びつける4つめの単語を答えなければならない。この例の場合は「緑色」だ。[英語には「green with envy(ねたむ、うらやましがる)」等の表現がある]

興味深いことに、事前に障害物のある状況に置かれた被験者は、そうでない被験者に比べて、遠隔性連想問題の正答率が40%高かった。障害物があることで、彼らはより創造的な心理的状態に向かったのだ。

この研究結果が示す大きな教訓は、脳とは無限に近い可能性をもつ神経の集合体であり、「何に注意を与えないか」という選択に、実は多くの時間とエネルギーを費しているということだ。その結果、効率性を重視すると、創造性が犠牲になる。われわれは通常、散文的に考えており、象徴的で詩的な思考は行っていない。そして、予期せぬ障害物、簡単には乗り越えられないハードルに行き当たって初めて、認知の連鎖がゆるめられる。それによって、無意識の中にかすかに光る、普通では考えつかないつながりに至る新たな道を発見することが可能になるのだ。

このことは、詩の形式がいつまでも廃れない理由を説明している。ソネットという形式があるおかげで、より大局的な思考が行われ、平凡な連想を超えた、オリジナルな詩が生み出されるのだ。きっかり3音節で韻を踏んでいる言葉を見つけたり、弱強格に合う形容詞を思いついたりしなければならないおかげで、詩人はありとあらゆる予想外の連想に出合うことができる。

ポール・ヴァレリーが言っていたように、「芸術が固有に備える制限によって、その想像が鈍ってしまうのではなく刺激される時、人は詩人となる」。彼らは、束縛に進んで入りこむことによって、拘束を超えているのだ。

更新:読者の「DW」は、チェスタトンの素晴らしい警句を教えてくれた。「芸術は制限のなかにある。絵画において、もっとも美しい部分は枠だ」