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俳句のプロたちが本気で語る「要素配分の黄金比」

2022.11.19 10:00

https://toyokeizai.net/articles/-/432854【俳句のプロたちが本気で語る「要素配分の黄金比」 総重量「2.0」を一句の中で分け合う?!】より

岸本 尚毅 夏井いつき : 俳人 2021/06/26 16:00

TBS系テレビ番組「プレバト!!」の人気もあって、俳句に関心を持つ人が増えています。「NHK俳句」の選者をつとめる岸本尚毅さんと、「プレバト!!」の夏井いつきさんに、俳句上達の秘訣を直撃。

今回のテーマは「詰め込みすぎの解消でランクアップ」。岸本尚毅さん・夏井いつきさんの新刊『ひらめく!作れる!俳句ドリル』から一部抜粋してお届けします。

一句の中に、「キーワード」は1つ

岸本:一句の中に使う「キーワードはいくつ?」という問があるんですね。

夏井:キーワードって……要素のこと? 私は、メインは1つだと思うんだけど。

岸本:たとえば、刺身の盛り合わせだったら、赤身と白身とイカとか、単品の卵料理だったらオムレツとか、カレーの肉は1種類であとは野菜だとか、料理には統一感や中心の素材があるんですね。俳句も同様に、まず中心は1つと決めたほうがいいでしょうか?

夏井:「豚肉」というキーワードが1つあったとき、「生姜焼き」なら生姜は出てくるけど、豚肉ありきの生姜焼きだし。さっとお湯をくぐらせて大根おろしとポン酢でいただくのだって、主役は「豚肉」。小さな付け合わせや調味料は、俳句の音数でいえば三音分の味付けなわけですね。実はその三音分が「えっ、ここでキムチ!?」みたいに強烈だと、そこに食いついてくる人もいる。

だから「キーワードはいくつ?」と聞かれたら、やっぱりキーワードはひとつで、そこにスパイスとか調理法とかが、三音分ぐらいの個性になっていくという感じかな。

岸本:一般的に、題詠は1つの言葉です。1つの言葉に補助的な言葉を組み合わせて一句に膨らますわけで、取り合わせといっても「1」があっての「2」だと言ったほうがわかりやすい。あと、季語については、季語を添え物として使う場合と、季語=キーワードの場合と両方あります。また、キーワードは名詞以外もあるかもしれませんが、基本は名詞ですね。

夏井:はい、最初は名詞からやってみましょう。自立語の中でいちばん脳が整理しやすいのが名詞ですから。でも自分が心惹かれる言葉であれば、いつか、形容詞や動詞や、時には助動詞でも「これが使いたい」となるかもしれないし、さらに中七に「なり」を使って句を作りたいとか言い出すようになりますよ。

岸本:「まずは名詞」という入り口を決めたほうが、初級の方にはいいでしょう。

夏井:トレーニングなら、「目の前にあるものの名前を1個、書いてみましょう」からでいいんです。たとえばコップ、牛乳。そしたら、もう上五ができちゃってますよ。

「牛乳は」とか、「紙コップ」とか、そこから練習していきません? はじめに言葉ありきですよ、聖書が言ってます(笑)。

総重量「2.0」を一句の中で分け合う

岸本:キーワードを1つ決めたとして、第2キーワードって作りますか?

夏井:メインを1ポイントとしたら、その半分の0.5ポイントぐらいのものを第2キーワードとしてくっつけていきます。サブ的なものですね。

紙コップなら、どこに置かれているとか、何が入っているとか、誰が置いたとか。朝ですか、夜ですか、とか。周辺を見回して2つ目のキーワードを探します。連句の発想法と一緒ですよね。紙コップで飲んでいるんだろうか、握りつぶしているんだろうか、捨てようとしてるんだろうか、というように連想して2つ目のキーワードを探していきましょう。「探す」と言うと難しいですね。「線でつなげていく」と言うほうがぴったりきます。

岸本:ひとつの花を摘んで、もうひとつ別の花を摘むこともあるし、ビールを買ったら、そのつまみを何にしましょうというふうな感じですよね。それでも、やっぱり2つなんでしょうね。俳句のサイズからすると、3つは多い?

夏井:2つでしょうね。1と0.5ぐらいかな。「1」があって「0.5」が何かを添えてくれるっていう感じ。

岸本:どっちかが季語になるのかな。

芭蕉の「古池や蛙飛びこむ水のをと」は何グラム?

夏井:季語が「1」のときもあれば、そうでない場合もありますよね。芭蕉の「古池や蛙(かわず)飛びこむ水のをと」では、「古池」が1で「蛙飛こむ」と「水のをと」が0.5ずつ。

この句は「蛙」が季語としてあまり匂わないというか、春の季節感を感じないのは、「古池」が1で、「蛙」や「水のをと」が0.5になっているからかもしれない。

岸本:「山吹や蛙飛こむ水のをと」を「古池」に変えたわけで、「山吹」という季語から自由になって「古池」というキーワードを見つけた。この句の本質は「古池」と「水のをと」なんですね。「蛙」は軽い。

夏井:「古池」が1、「水のをと」が0.5、「飛びこむ」とか「蛙」が0.2とか0.3とか。俳句って全部で2グラムあれば何とかなる。1グラムはキーワード。残りをいくつかの言葉が分け合う。

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岸本: 言葉の重さですね。季語が0.3でも別に問題ないわけですね。では「遠山に日の当りたる枯野かな 高濱虚子」は、どうでしょうかね。

夏井:うん、すごく面白くなってきた。これは「枯野」が1で。「遠山」もある程度の……。

岸本:0.7ぐらい……。

夏井:そしたら「日の当りたる」が0.2で、「かな」が0.1。でも、この最後の0.1の「かな」が、とても大事な0.1グラム分なんです、みたいな感じですね。

岸本:この0.1は、納豆のネギみたいなものなのかな。

夏井:ここで総量「2.0グラム」の話が出て、わかりやすくなりました。

岸本:自分の句を見直すときに「2.0グラム」という目で見ると、詰め込みすぎかどうかよくわかりますね。

夏井:言葉には質量がある。俳句にちょうどいい言葉の質量は、2グラムぐらいではないか。2グラムしか入らない器に、初心者は山のように言葉を盛ってしまう。「俳句2グラム説」は、その量を客観的に捉えるためのわかりやすい説明となりうるのではないでしょうか。

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