偉人『ベルト・モリゾ』
恵まれた環境に育ち、夫に支えられた芸術活動を行い、友人に励まされた印象派の女流画家ベルト・モリゾ。彼女の進んだ絵画の道は男性のものであり、女性には閉ざされた職業であった。女性が絵画界へ進めるのは父親が画家であるという世襲の場合であったがそれも極限られた数人の女性である。彼女のように上流階級の女性が男性中心のそして貧しい画家の世界に入っていくことはそう簡単なことではなかった。
今回は閉鎖的な世界で常に差別的なことが起こっていた絵画界を彼女はしなやかで折れない心で歩んできた。では彼女がどのようにしなやかな折れない心を作ってきたのかを考えてみる。
1841年1月14日フランス・ブールジュで県知事の要職を歴任し、建築家を志したこともあるた父ティビュルスと、財務検査官の家柄で音楽家を目指した母コネリーの三女として誕生した。
ベルト・モリゾは経済的に恵まれただけではなく芸術環境にも大変恵まれており、あの作曲家ロッシーニからピアノの手解きも受けている。そして母コルネリーの積極的な教育方針と熱心さが彼女の基礎を作ったのは間違いない。また何より18世紀のフランス・ロココ期のジャン・オレノ・フラゴナールが曽祖父に当たるのだから絵画の才能があってもおかしくはないのだ。
ある日母は娘3人に父の誕生日に子供達の描いた絵をプレゼントさせようと思いつき、娘3人を絵画教室に連れて行く。するとベルトと姉エドマに絵画的才能があることに気付き子供達も熱心に絵画に取組んだ。私なら誕生日間近になり即席で描かせてプレゼントにすることがあったが、母コルネリーは絵画教室に通わせて制作させようとしたのである。その価値観たるや本物志向であり、熱心な母親であったことがわかる。この写真からも凛とした表情に風格さえ感じる。
当時上流階級の子女が絵画を学ぶのは教養を身につけるためのものであったが、母は更に本格的に絵画を学ばせるためジョゼフ・ギシャールに師事させた。ギシャールは娘二人の才能に逸早く気付き「これ以上腕を磨くと画家の域に達してしまうがそれでよいのか」と母に伝えた。それほどベルトと姉のエドマは絵画の才能があり教室でも頭角を現し、熱心にルーブルへ通い模写に励んだのである。17歳になると父は庭にアトリエを建て彼女らの芸術を後押し、両親の愛情と理解を得て絵画をより学んでいくことになった。
画塾では女性が立ち入りを許されていない授業もあり、裸婦のスケッチする時間は教室を退室させられた。ベルトとエドマは男女差を盾にどうすることもできない状況に追い込まれたがただ不平不満を募らせるだけではなく、実際の女性が描けないのであればルーブルにある巨匠たちの裸婦を描く事を実行したのである。現実問題に直面してもそれを受け入れできることを考え行動するしなやかさを発揮したのである。
しかし彼女らだけで成立でいたことではなく、当時子女は付添い人なくして画塾やルーブルに通うことはできず自由に行動を起こせたわけではない。やはりそこには両親の援助があって成立した行動である。ブルジョワ階級で子女が学ぶ絵画は嗜みであることから特段な親の理解と配慮があったのは間違いない。
またルーブルで印象派の父と呼ばれるエドゥアール・マネに出会えたことはベルトの絵画に大きな収穫と落胆をもたらし、将来のよき理解者となる夫ウジェーヌ(マネの弟)に出会えた特別な場所であった。
上記の絵画はサロン応募のために母と姉エドマを描いたものであるが、なんとマネががっつりと手を加えてしまったのである。自分の作品が自分のものではなくなる瞬間に落胆し傷心のあまりスランプに陥ってしまった。当時姉の才能と自らの力との落差も感じ、また姉エドマの結婚により一人で芸術に向き合う孤独も重なり、摂食障害で憔悴しポキッと心折れる寸前までいくも絵画に対する思いからまたしなやかに再起を果たした。
女性が活躍できず古きものを重視するサロンへの思いを断ち切り、その古き伝統から突き放された印象派のルノワールやモネ、ドガなどと活動を共にすることでベルトの絵画は更に上昇気流に乗ったのである。
1874年にマネの弟ウジェーヌと結婚してからは彼が日常的に励ましを与え、絵の売買や展覧会のサポート、娘ジュリーの世話も率先して行いそのお陰でベルトは絵画に集中することができた。またルノワールやモネらと親交を深め印象派の仲間とし認められた充実した時期を迎えたのである。
彼女の作品には彼女の家族を中心に女性のならではの目線で描かれた人々の自然な仕草が描かれている。父子の幸せの瞬間を鮮やかな色彩とリズミカルな筆致で表現されている。母子の絵画はルノワールやモネも描いているが、父子を描く作品はベルトでなければ成し得なかった。
ベルト・モリゾが経済的に恵まれ家族の理解もあったにせよ、男性社会の絵画界に於いて活躍できたのは、彼女のしなやかで折れない心があったからだと強く思う。どのようなことに遭遇してもしなやかに現実や事実を受け止めて強い心で物事にあたることができるには、やはり育ちに関係している。
レジリエンス(折れない心)を子供に身につけさせるには子供が失敗したときや難しい局面に遭遇したときにこそ、マイナスな感情を受け止めて解決策を言葉にし、実行することが重要なのです。しかし子供は経験値が浅く現実のみが見え、そこから先を想像することが難しく先を見通す力がありません。そのサポートをするのが大人の役目ということになります。
子供が現実の壁を越えられず先を見通せない場合の導きは、解決方法に繋がるヒントを与えたり、幾つかの選択肢を提示したりしながら過干渉にならず適度なアドヴァイスで見守ることを心掛けなければなりません。解決の糸口のきっかけを与え決定権も子供に与えましょう。決して親が答えを教えるような誘導をしてはならなず、自分の考えで行動できるようにすることが必要なのです。