Ameba Ownd

アプリで簡単、無料ホームページ作成

肺がんと共に生きる

2023.12.24 13:54

https://www.haigan-tomoni.jp/positive/sotoiko/haiku/haiku01.html 【ゆるっと俳句散歩 Vol.1<基礎編>】より

四季折々の美しい自然を楽しむ俳句。日本語やことばの美しさを再発見できる趣味としても注目を集めています。1回目となる今回は、<基礎編>として、俳人であり、俳誌「鷹」の編集長である高柳克弘先生に、俳句の楽しみ方を伺いました。

ゆるっと俳句散歩 Vol.1<基礎編>

ものの見方をポジティブに変えていく俳句の魅力

最近、テレビのバラエティ番組で「俳句」が取り上げられるようになって、俳句に興味を持つ方が増えています。出演者が意外な才能を発揮する様子や、専門家による添削を見て、「俳句を始めたい」「自分でも作れそう」と感じている方もいるかもしれません。俳句は、私たちが普段の生活の中で目にするものや、耳にすることばなどを題材にすることも多く、専門的な知識がなくても、特別な季語を知らなくても始められます。

俳句を始めるきっかけは、人によってさまざまでしょう。私の場合は、好きな作家が俳句を詠んでいるのを知り、軽い気持ちで俳句を始めました。当時は大学生でしたが、大学とアルバイト先、自宅の往復で生活が単調になっていました。ところが、いざ俳句を始めてみると、それまであまり気にしなかった季節の移り変わりや、道端に落ちているものに面白さを見出している自分に気づいたのです。普段、目に留めなかったものや、本来は「よくない」こととされている情景であっても、面白く美しく捉えるのが俳句です。

俳人として有名な正岡子規は、結核を患っていましたが、そんな自分自身をホトトギスに例え、俳句を生きる糧にしていました。病気と向き合いながらも、俳句を通して新しい自分、新しいものの見方を身につけていったのです。私は、俳句には、ものの見方をポジティブなものに変えていく不思議な力が宿っていると考えています。

高柳克弘先生

監修:高柳克弘先生

俳人。俳人協会、日本文藝家協会会員。俳誌「鷹」編集長。これまでに数々の賞を受賞し、現在は「NHK俳句」、読売新聞夕刊「KODOMO俳句」の選者を担当。

これから俳句を始めるための準備

これから俳句を始める方に、最初におすすめしているのは、歳時記を読んでみていただくことです。四季を表す「季語」を集めたものが歳時記です。俳句は「季節の詩」と言われるように、四季の移り変わりと密接な関係があります。さまざまな種類の歳時記がありますから、書店や図書館などでぜひ一度ご覧になってみてください。購入する場合は、持ち運べる文庫本サイズのものを選ぶといいでしょう。

次に用意するのがメモ帳です。「句帖(くちょう)」とも呼ばれますが、メモができればノートや手帳でも十分。俳句になる材料は、いたるところにあります。散歩の途中にことばを思いついたり、病院で診察を待っている間に「これだ」と感じたりすることもあります。そこで思いついたフレーズは忘れないうちに書き留めておきましょう。その他に、電子辞書や国語辞典があれば、ことばの意味や正しい使い方を改めて確認できます。

カメラまた、カメラ付きの携帯電話やカメラなどを持ち歩くのもおすすめです。散歩やどこかに出かけるついでに、気になったものを写真に撮っておくと、あとで俳句作りに役立ちます。被写体だけでなく、その周りにあるものなどの「構図」を意識しながら撮影しておけば、句を作りやすくなるでしょう。

俳句の題材を探しに出かける際には、目で見たものだけでなく、鳥の声や風の音、花の香り、草花や土の感触など、五感を働かせることで、詠みたい季語や題材が増えてくるはずです。

俳句の作り方のポイント

俳句は五・七・五の十七音から成り立っています。また、必ず、「季語」という季節を表すことばを入れます。

松尾芭蕉の有名な句、「古池や蛙飛びこむ水の音」を例にみていきましょう。

まずは、「ふるいけや・かわずとびこむ・みずのおと」というように、五・七・五の音数を意識しましょう。この中で、「蛙」が春の季語として用いられています。

俳句を作る際には、「きれい」「かわいい」というような主観的なことばを交えずに、対象を表現するのがポイントです。俳句の世界では「姿先情後(しせんじょうご)」ということばがあります。これは、説明しなくても、映像や情景、姿が浮かぶように表現するという考え方で、詠み手の主観を交えないという作法です。

花 主観を交えないのがポイント ×かわいい ◯桜の花びらが小さい ×きれい ◯石蕗の花が日差しを浴びている「古池や蛙飛びこむ水の音」には、感情を表現するようなことばが見当たりません。それにもかかわらず、蛙が飛びこむのどかさや静けさが伝わります。つまり、そこから生まれる感情は読者に委ね、詠み手の主観を表現していないのです。これを踏まえて、「きれい」を表現するのであれば、「石蕗(つわぶき)の花が日差しを浴びている」、「かわいい」を表現するのであれば、「桜の花びらが小さい」といった要領です。対象を客観的なことばでスケッチするように表現をする練習をしてみましょう。

俳句が上手に作れる? 「切れ字」とは

五・七・五の音数にうまくことばを当てはめられないという場合には、「切れ字」を用いて音を合わせる方法があります。切れ字とは、句の中で、終わり(切れ)の働きをする字やことばで、「や」「かな」「けり」などがあります。切れ字をつけることで、ただことばを並べるだけでなく、ことばとことばの響き合いが生まれるという効果があります。この切れ字を季語を組み合わせて使うことで、ぐんと俳句が作りやすくなります。

ケーキ屋の 看板白き 枯れ木(季語) かな(切れ字)

例えば、

詠みたい季語の音数を数える

(枯れ木(かれき)…3文字)

季語に合う音数の切れ字をつける(「や」「かな」「けり」)

かれき(3文字)+かな(2文字)

「枯れ木かな」という5文字が完成

「枯れ木かな」とする場合は、残りの句では枯れ木について触れずに、右の句のように他のことば(ケーキ屋の・看板白き)で情景を表現するという型があります。これを「取り合わせ」と言い、初心者の方でも個性的な句を作りやすい手法のひとつです。

俳句を始めるなら句会へ

俳句は絵や写真と同じように1人で楽しむことができますが、同じ趣味の人同士で集まればより楽しくなり、上達も早いでしょう。特に、自分が作った句が誰かの目に留まったり、コメントをもらったりするだけで、俳句を続けるモチベーションにもつながります。最近はテレビ番組や雑誌などでも俳句の投稿コーナーが数多くあるため、それらを利用するのもいいでしょう。また、さまざまな人たちが集まる句会に足を運ぶのもおすすめです。五・七・五の世界を通して色々な人とコミュニケーションを取ることは、日常では味わえない新鮮な面白さがあります。俳句を通して同じ趣味の仲間との出会いの楽しさを味わってください。


https://www.haigan-tomoni.jp/positive/sotoiko/haiku/haiku02.html 【ゆるっと俳句散歩 Vol.2<実践編>】より

俳句を始めてみたいけど、何を詠んだらいいのかわからない、という人も多いのではないでしょうか。そんな時は、俳句の素材を求めて戸外を散策する「吟行」に出かけましょう。前回に引き続き、俳句雑誌「鷹」の編集長である高柳克弘先生と一緒に公園を歩きながら、吟行の楽しみ方、自然観察のポイントを伺いました。

ゆるっと俳句散歩 Vol.2<実践編>

自然は季語の宝庫。見て、触れて俳句の世界を体感

今回は公園を散歩して自然に触れながら、身の周りにある季語を見つけたり、目にした情景をことばに書き留めたりしながら、実際に俳句を詠んでみるところまで挑戦します。でも、初めての吟行でどこに行けばいいのかわからないという方も多いかもしれません。

「歩くところは、山や湖、神社仏閣などの名所旧跡でもいいですが、わざわざ電車や車で出かけなくても、近所の公園や庭園をぐるっと一周するだけでもいいでしょう。そこで自然や風景を見ていると、意外にたくさんの季語が存在していることに気がつくはずです」と高柳先生。

俳句を詠もうとすると、つい家の中で黙々と作るようなイメージがありますが、できるだけ外へ出て俳句を作る習慣を身につけると俳句も上達するそうです。

「普段目にしているものや、自分の知っていることばだけで俳句を作ろうとすると、ありきたりの句になってしまいがちです。自然は俳句の材料が溢れる宝庫。花、樹木、空、鳥など、たくさんの季語に出会うことができます。自然の風景に身をおいて、どんなことばが思い浮かんだか、どんな景色に感動したのか、しっかり観察するのが吟行の第一歩。はじめから句を詠もうとする必要はありません。例えば、鳥が飛んでいる、花が咲いているなど、目にしたもの、触れたものなどをありのままに書き留めておくことが大切です」

<観察のポイント>

観察のポイント 木→木の触感や枝の状態、連なり方など 空→天候、雲、空の色、日差しの明るさなど 池→水辺にいる鳥がどのような様子でいるのかなど 植物→どんな植物がどのように生えているかなど 人→どんな人がいるか、どんな服装かなど

目に見える範囲だけでも、観察のポイントがたくさん!

見つけたのは一本の大木。いたるところに季語が

一本の大木

落ち葉(おちば)

木の下で見つけた「落ち葉(おちば)」は冬の季語。

今回訪れたのは東京都内にある国営昭和記念公園。池や森、庭園、運動場にサイクリングロードと、広々とした敷地に花や樹木などの自然が溢れ、吟行にぴったりの場所です。

公園に入って初めて出会ったのは一本の大木。すると、先生がなにやら木に鼻を近づけていますが…。

「この木も立派な冬の季語『枯れ木(かれき)』になります。この公園には落葉樹がたくさん見られますが、『冬木立(ふゆこだち)』『寒林(かんりん)』という季語にもなります。俳句の世界では、四季折々に咲く花や木はそのまま季語になることが多いものです。外に出かければ季語に苦労することはありません。

次にこの木に触れてみましょう。どうやら昨日の雨で湿っているようですね。匂いを嗅いでみると、古い木の香りがします。続いて木の周りを見渡すと落ち葉がありますね。こうした目についたもの、感じたことなど、気づいたことはメモ帳(句帖)に書き留めておきましょう」

ゆるっと俳句散歩

公園を散歩する親子

高柳先生は公園を散歩する親子に注目。なんと、子どもの持つ「なわとび」も冬の季語なんですって!

着ぶくれて(季語)自転車四人連れ立ちて 枯れ枝(季語)を引きずり片言でしゃべる

高柳先生が即興で詠んだ俳句。

俳句は即興の文学だと改めて実感します。

先生にお話を伺っている最中に、偶然自転車でサイクリングコースを走る人たちが見えました。先生は早速メモを取っています。

「観察するのは何も植物や花だけではありません。公園を行き交う人も観察の対象です。例えば、どんな自転車に乗っているか、どんな服装をしているか。特に防寒のためのコートやブーツ、マフラー、手袋も冬の季語になります。『厚着(あつぎ)』『着膨れ(きぶくれ)』などは、少しユーモアのある季語。

見たままの映像や思い浮かんだことばを忘れないようにメモに残しておきましょう」

でも、季語を一つひとつ覚えるのは大変です。覚えるコツはあるのでしょうか。

「季節の季語を集めた歳時記を使うのがおすすめです。吟行に出かける前に、どんな季語があるのか事前に調べておいたり、散歩中に見かけたものが季語になっているかどうか見てみたり。

歳時記には季語だけでなく、季語の言い換え方が載っているため、五・七・五の音数にうまくことばを当てはめられない、使いたい季語が今の季節に合っていないというときに、代わりの季語を見つけることができます。吟行の際にはメモ帳と一緒に持ち歩くと便利です」

季語を言い換えると俳句を作りやすくなる!

ボート

写真撮影

気になったものはどんどん写真に撮りましょう。

「被写体だけでなくその周りにあるものなど、『構図』を意識しながら撮影することで句を作りやすくなります」と高柳先生。

先生のアドバイスのもと、自然を観察するうちに少しずつ吟行のポイントがわかってきました。

ふと私たちの目にとまったのは、水辺に浮かぶ色とりどりのボート。人は見当たりませんが、暖かい季節なら人で賑わう場所だけに、その様子が気になりカメラ付きの携帯電話で写真撮影。

早速、歳時記で「ボート」を調べてみるとどうやら夏の季語のようです。

「確かに『ボート(ぼうと)』は夏の季語であるため、今の季節には合っていませんね。そんな時は、先ほどの歳時記の使い方でお話したように、『冬のボート』と言い換えても問題ありません。

こうした言い換えの仕方を知っておくと、俳句を作りやすくなりますよ」

カラスは年中いる鳥であるため、季語になりませんが、季節を感じさせる「寒」と合わせれば「寒鴉(かんがらす)」に。

赤い花をつけていた「ツバキ」は春の季語ですが、同じように「寒」と合わせれば「寒椿(かんつばき)」というように次々と季語の言い換えに成功しました!

カラス 寒鴉

同じところに止まったままじっとしているカラス。

「寒鴉」とすることで冬の季語に。

ツバキ 寒椿

春の季語「ツバキ」も「寒椿」とすることで冬の季語として読むことができます。

一期一会の出会いを探す

一期一会の出会いを探す

先生のガイドのもと、季語を探しに公園内を散策してみると、常緑樹が目につきます。俳句の材料を集めるには春や夏のほうがいいのでしょうか。

「そんなことはありません。どんな季節にも必ず季語はありますし、この季節は少しずつ花のつぼみが膨らみ始め、春の訪れに立ち会えるのもこの季節ならでは。また、冬には冬の珍しい季語に出会うこともあります。例えば、あの木の上を見てください」

先生に促されて木の上を見てみると、お正月の風物詩「凧」が木の上に引っかかっているのが見えます。

凧(たこ)いかのぼり

赤いポスト 枯園(かれその)

「『凧(たこ)』は春の季語ですが、『いかのぼり』と詠めば新年の凧を指し新年の季語として使うことができます。こうした風景は春や夏に見ることはできませんよね。おそらく新年早々親子で凧揚げをしていて、風に飛ばされて偶然この木に引っかかってしまったのでしょう。その時の子どもの表情や想いを思い浮かべると一気に俳句の世界観も色濃いものになります。

また、ポツンと立っている赤いポストの背景には『枯園(かれその)』が見えますが、色が明るいものと暗いものを対比させることで、新鮮なイメージを与えてくれます。俳句だからといって、無理に難しいことばを使おうとする必要はありません。大切なのは、自分の心が揺り動かされた小さな感動を、日常生活で使っていることばで素直に表現することです。こうした一期一会の偶然を大切にすることで、吟行の楽しみが広がると思います」

冬の公園で見つけた花の季語

臘梅(ろうばい)

臘梅(ろうばい)

晩冬

水仙(すいせん)

水仙(すいせん)

晩冬

三色菫(さんしきすみれ)

三色菫(さんしきすみれ)

晩冬

梅(うめ)

梅(うめ)

節分草(せつぶんそう)

節分草(せつぶんそう)

初春

冬の公園にも季語を表す花がたくさん! 自然の中を散歩しながら、季語を探したり、自然の変化を見つけたりするだけでも気持ちがいいものです。俳句の世界では基本的にその季節を詠むのが一般的ですが、これからやってくる季節を題材に俳句を詠むのもおすすめだそうです。

俳句を詠んで先生に添削してもらいました!

俳句を詠んで先生に添削してもらいました!

吟行した後は句会に俳句を持ち寄って、指導者の選を受けたり、参加者同士でお互いに批評し合ったりします。そのため、通常の吟行では添削は行いませんが、今回は特別に高柳先生に添削していただき、アドバイスをいただきました!

詠んだ句

高柳先生の添削

「この句はこのままでも良いと思います。ただ、“跳ねる子ら”という表現が、この場にいない読者にも、なぜ跳ねているのかが伝わるかどうか、というところはありますね。“寒鴉”と詠むと、自然に木から見ている様子は伝わるため、思い切って割愛してもいいかもしれませんね」

次の句を見ていただくと、「一輪だけ咲いた梅の花を見つけたという発見を描写できていてとてもいい」という評価をいただきました!

詠んだ句

高柳先生の添削

「ただ、俳句の世界では、なるべく内面的な感想や主観的なことばを交えずに表現することが良しとされるため、“可憐”ということばを使わずに可憐さを表現したほうが良いでしょう。

例えば、悪条件の中で懸命に咲く梅の花の『健気さ』を表現したいのであれば、“可憐かな”を“くもり空”や“水の上”とするのはどうでしょう。自分が詠もうとする対象の背景や情景など、周りにあるものを詠むことでよりいっそう表現の幅が広がりすっきりと引き締まった句になります」と高柳先生。

詠んだ句

高柳先生の添削

「これは、お花見の季節になると人で賑わうベンチの立場になって、花(桜)が咲くのを待ち遠しいという気持ちを詠んだ句と思います。気になるのは語順ですかね。文章のようになってしまうと、句が説明的になってしまい面白みが欠けてしまいます。例えば倒置法のように、“空ベンチ”と“花を待つ”を入れ替えると、俳句らしく変わります。

高柳先生のアドバイスをもとに句を推敲すると、難しい季語やことばを使っていないにもかかわらず、自然や人の表情、躍動感が生き生きと伝わるから不思議ですね。

今回の記事を俳句作りのヒントにしながら、吟行を通して自然を観察してみることで、きっと新しい発見があるはずです。

監修の高柳先生からメッセージ

吟行に参加する際に、その土地の歴史を予習していくことは大切ですが、予備知識をもとに句を読もうとすると、先入観に縛られてしまい、視点がせまくなりがちです。できる限り心を白紙の状態にして、自分にしか発見できないような対象や偶然の出会いを見つけましょう。

俳句の材料を探しに出かける吟行は、初心者もベテランも同じ立場で、誰でも体験できる遠足のようなもの。ぜひ気軽に参加してほしいです。



https://www.haigan-tomoni.jp/positive/sotoiko/haiku/haiku03.html 【ゆるっと俳句散歩 Vol.3<応用編>】

肺がんを治療中の方散歩・外出

3回目となる今回のテーマは、複数の人が集まって俳句を作り、批評し合う「句会」。俳句雑誌『鷹』の編集長である高柳克弘先生が主催する句会に参加して、句会を楽しむポイントを伺いました。

年齢や立場を問わず、誰でも参加できる楽しい勉強の場「句会」

年齢や立場を問わず、誰でも参加できる楽しい勉強の場「句会」

高柳先生が句会を開催するとお聞きし、今回は句会の様子を紹介します。句会では、詠んだ俳句を他の人に見てもらったり、反対に他の人が詠んだ俳句を批評したりするそうです。でも、これまで句会に参加したことは全くありません。そもそも句会とはどのようなものなのか、高柳先生に伺いました。

「俳句を作るうえで、句会は大切な勉強の場です。俳句を趣味とする仲間が集まり、ただ俳句を作るだけでなく、俳句を見る目を養うために、鑑賞や批評も行います。俳句は絵や写真と同じように1人で楽しむこともできますが、詠んだ俳句が相手に伝わるかどうかを、自分自身で判断することは難しいものです。そのため、俳句を人に見てもらって、良い俳句なのか良くない俳句なのかを確かめる場所が必要です。それが句会です」と高柳先生。

句会

現在は、テレビ番組などで俳句が取り上げられる機会が増え、喫茶店から公民館、カルチャーセンターまで、いたるところでさまざまな句会が開かれています。参加者の年齢や職業もさまざまで、老若男女が楽しんで句会に参加しています。

「最近は仕事をしている社会人のために、平日の夜間や土日祝日に開催する句会も増えています。まずは、インターネットなどで興味のある句会を探し、句会の雰囲気を味わった上で、自分に合った句会に参加するのも良いでしょう」

句会には参加したいけど、上手に詠めなかったらどうしよう、失敗しないか不安、という人も多いかもしれません。初心者でも参加できるのでしょうか。

「そんなに心配しなくても大丈夫です。むしろ、ほとんどの句会では、新しいものの見方や感性を取り入れるために、初心者の方を歓迎しています。初心者や上級者、若者、年配の方、レベルや年齢問わずさまざまな人たちが入り交じった句会ほど楽しい句会はないと思います」

いよいよ句会がスタート!5つのステップでわかる句会

いよいよ句会がスタート!5つのステップでわかる句会

句会

今回、句会が開催されたのは東京都武蔵野市のとある公会堂。20代から60代まで幅広い年齢層の方が集まりました。句会は既に発表された作品について意見を述べたり、鑑賞したりする場ではありません。その場でお題が出て、その会場で俳句を作るとあって、少し緊張気味の参加者も見受けられます。

今回の句会は「当季雑詠(とうきざつえい)」が2句、「席題(せきだい)」が1句で行われました。当季雑詠はあらかじめ出される宿題のようなもので、その季節の俳句であれば題材は問わないのに対して、席題はその場でお題が出されるため、何がお題になるかは参加するまでわかりません。

初めて句会に参加する方は、即興的に作らなければならない席題なんて絶対にできないと思うかもしれませんが、意外にも良い俳句が生まれるとのこと。適度な緊張感がいい刺激になるのかもしれません。

早速、先生からお題が出されました。今回のお題は「汗」です。

早速、先生からお題が出されました。今回のお題は「汗」です。

「『汗』も立派な夏の季語です。汗は暑いときや運動したときに体温調節のためにかくもの。ひどく恥ずかしかったりしたときに出る『冷や汗』や、緊張しているときに出る『あぶら汗』もありますが、本来の季語の使い方とは異なります。『汗』という言葉を使って、実際に俳句を作ってみましょう。1句につき10分から15分程度の制限時間が目安です」

今回開催した句会の参加者は20〜60代の方。

今回開催した句会の参加者は20〜60代の方。さまざまな年齢の人と触れ合えるのも句会の魅力です。

指を折りながら五・七・五の音数に言葉を当てはめる参加者も。

指を折りながら五・七・五の音数に言葉を当てはめる参加者も。どんな俳句ができあがるのでしょうか。

句会の進め方はいくつかありますが、一般的に、投句(出句)・清記・選句・披講(点盛り)・講評の5つのステップで進められるようです。

ステップ1:投句(出句)

「俳句ができあがったら、配られた3枚の短冊に、当季雑詠の2句と席題の1句を書き写してください。このステップは、俳句を場に投げる(提出する)ことから、投句(出句)といわれています。読みやすい字でていねいに書き写しましょう」

ステップ1:投句(出句)

俳句を短冊に書き写して提出。

俳句を短冊に書き写して提出。参加者から集められた短冊は、誰の俳句かわからないようによく混ぜます。

書き終えた短冊は、高柳先生によって回収されます。でも、このままだと、誰が書いた俳句かわからなくなってしまうのでは?といった疑問がわきます。

「事前に作者の名前がわかってしまうと、参加者が余計な気を遣って、俳句の良し悪しだけで意見を言いづらくなってしまいます。そのため、句会では作者が誰なのかを極力わからないようにします」

ステップ2:清記

清記用紙に清記者名と清記番号を記入。

清記用紙に清記者名と清記番号を記入。みんな書き誤らないように真剣な様子で書き写します。清記したことで、誰が詠んだ俳句なのか全くわからなくなりました。

「次に『清記用紙』を配ります。清記とは清書のことです。全員で手分けして、先ほどの短冊に書かれた俳句を、清記用紙に書き写しましょう。ポイントは、短冊に書いてある通りに書き写すこと。誤字・脱字がないように気をつけることはもちろん大切ですが、誤りがあるからといって、清記者が勝手に書き直してもいけません」

ステップ3:選句

すべての句にじっくり目を通して吟味。

すべての句にじっくり目を通して吟味。自分が良いと思った句や好きな句をチェックして、『選句用紙』に記入します。 

「先ほど書き写した『清記用紙』には、1枚につき3句書かれています。その中から好きな句を1句選んでメモ帳などに書き留めておきましょう。書き終えたら隣の人に清記用紙を回してください。全ての俳句の中から1人3句を選んで『選句用紙』に記入しますが、その3句を選ぶ前の予備の俳句を選びます」

俳句を作るのも難しそうだけど、人の俳句を選ぶのはもっと難しそうな気がします。選ぶポイントはあるのでしょうか。

「選ぶ基準はいくつかありますが、はじめは『表現がおもしろい』『共感できる』『情景が思い浮かぶ』など、良いと感じた俳句を主観で選んで問題ありません。ただ、句会ではお互いが相手の俳句に対して意見を言い合うため、自分が作った俳句は選ばないようにしましょう」

ステップ4:披講(点盛り)

選句が終わったところで、次は「披講(ひこう)」が行われます。披講とは、各自が選んだ俳句を読み上げる発表の場のこと。

「みなさんはただ聞くだけではなく、読み上げられた俳句が手元の清記用紙にあったら、その俳句の上に『○』などのチェックを入れてください。

この作業は『点盛り』ともいわれ、披講が終わった段階で、どの俳句に何点入ったかがひと目でわかります。この印は『合点(がってん)』とも言われ、納得するという意味で使われる『合点がいく』の由来にもなっています。つまり、合点が多い俳句は、多くの人が納得した良い俳句の目安になります。句会にはこうしたゲーム性もあるので、それを楽しみに参加するのも良いですね」

ステップ5:講評

披講が終わったら、高柳先生と参加者全員で選句作品を批評します。参加者からの率直な感想や批評、疑問はもちろん、俳句に対する考え方や俳句をめぐるエピソードなどの話に発展することも。自分が詠んだ俳句に対するコメントだけでなく、他の人が詠んだ俳句やその俳句に対するコメントにも耳を傾けることが大切です。

主催者・参加者全員でお互いの俳句を批評

ここからは、高柳先生が選んだ入選作品と特選作品を中心に、作品のどこが良かったのか、参加者同士で批評し合いました。どんな意見が飛び出すのか楽しみです!

主催者・参加者全員でお互いの俳句を批評

日盛りや静まりかえる井の頭 道喜 作

「今回句会を開催しているここ井の頭を題材にした俳句ですね。普段人通りが多い井の頭も、暑さのせいで人通りが少ないという意外性を詠んだおもしろい俳句です。

このように、この場所だからこそ、この仲間と一緒だからこそ、生まれる俳句があります。こうした偶然の出会いを大切にすることで、俳句の表現がよりいっそう生き生きとしたものに変わります」(高柳先生)

立呑みの汗の背中に喋りかけ 正人 作

「連用形の『喋りかけ』で終わることで、『立呑み』の気取らなさ、この2人の親しげな関係性が、より際立つ俳句です。変に力が入っていないところが良いと思います」(若之さん)

「本来は『立呑みで汗をかいている人の背中に声をかける』ことを詠んだ俳句ですが、『汗』というひと言で省略しているのが上手だと思いました。そのため、や・かな・けりといった切れ字を使っていないのにもかかわらず、俳句自体にキレを感じます」(みおさん)

句会

父が言う汗をかくほど酒うまし 勇樹 作

「『汗をかくほど酒うまし』という表現で、父親の性格をストレートに言い当てた俳句。この俳句からは、どんな仕事をしている父親なのかはわかりませんが、きっと仕事に打ち込む人だったのでしょう。作者は今は亡き父親を偲んで詠んだのかもしれません」(高柳先生)

翼竜を空は忘れて真昼の汗 若之 作

「翼竜とは、恐竜と同じ時代に生きた翼を持つ爬虫類のこと。かつて、自由に飛び回っていた翼竜のことを忘れている空と、同じく翼竜のことを忘れている人間(作者)とを対比させることで、スケールの大きさを感じる作品になっていると思いました」(正人さん)

「本来、空は何かを記憶したり、忘れたりする存在ではありません。ですが、空を主語に置くことで、一気に詩的になりましたね。おそらく、作者の心の中では翼竜が飛んでいる空を見上げているのではないでしょうか。汗を通して、太古の空と現代の空を結びつけたおもしろい俳句だと思います」(高柳先生)

袖足らず拭いし汗の腕高く 貴宏 作

「外回りをしている営業担当や、部活帰りの高校生が袖で汗を拭う光景が想像できました。確かに半袖で額の汗を拭おうとすると、腕が高く上がります。こうした細かい動作や描写に着目するのが、俳句的なものの捉え方のような気がします」(道喜さん)

「『腕高く』がこの俳句の躍動感を演出しています。そう考えると、『袖足らず』を例えば『袖をもて』など、別の言葉に置き換えてもいいように思います」(若之さん)

句会

「若之さんが言うように、『袖足らず』を使うと、袖が足りないから腕が高くなる、という説明的な俳句になってしまうかもしれませんね。俳句は詩の1ジャンルであることを踏まえると、『こうだから、こうなる』などと論理立てない方が、より俳句らしくなります」(高柳先生)

逃げて逃げて逃げて逃げ得ず西日中 克弘 作

最後に、今回の句会で最も多くの点を集めた俳句を紹介します。やはり高柳先生の俳句でした! 高柳先生の俳句を詠むと、「西日中」という季語以外は、それほど難しい表現を使っていないのに、生き生きとした躍動感が感じられます。

「『逃げて逃げて逃げて』の言葉のリズムから、作者が西日から逃げている様子がありありと伝わります」(勇樹さん)

「『逃げて』という一つの言葉をくり返し使った俳句はこれまで見たことがありませんでした」(貴宏さん)

病と向き合いながら、「新しい自分」を発見するきっかけとしての句会

このように、句会では主催者や参加者が分け隔てなく、この表現がいい、この言い回しを直した方がいいと、本音で意見を交わします。

「人の意見を聞いて、時には『そういった季語もあるんだ』『そういう捉え方もできるんだ』と気づかされることもあるでしょう。句会の醍醐味は、今まで出会ったことがない年代や職業の方と親睦を深めることで、今まで知らなかった言葉や表現に気づくこと。また、相手の考え方や生き方、価値観に触れることで感性が磨かれ、刺激を受けることにあります。句会の楽しみとは、良い俳句を作ること以上に、これまでにないものの見方や新しい自分に出会うことにあるのかもしれません」

肺がん治療中の場合、句会に参加することが難しいという人も多いでしょう。そんなときはどうすれば良いでしょうか。

「最近は句会に参加できない人のために、インターネットを通じて句会を行う『ネット句会』『メール句会』というものがあります。参加条件はお題の俳句を作ることだけ。他には何も必要ありません。気軽に参加できるのが特長です。病気と向き合いながらも、こういった場を利用して、新しい自分を探すきっかけに役立ててほしいです」

監修の高柳先生からメッセージ

句会で一番大事なのは、作った俳句にどれだけの点が集まったかということではありません。もちろん、点を集めたり、入選したりすることは、俳句を作る上での励みになりますが、句会に参加するメリットは他にもたくさんあります。

例えば、自分の選んだ俳句が主催者に選ばれないこともありますが、講評の際になぜ選ばれなかったのか、また、他に選ばれた俳句の良さはどこにあるのかなどの話を聞いて、上達につなげることもできます。俳句の楽しみは句会にあり。句会に参加してそのことを実感してほしいと思います。

高柳 克弘先生

俳人。俳人協会、日本文藝家協会会員。俳誌「鷹」編集長。これまでに数々の賞を受賞し、現在は「NHK俳句」、読売新聞夕刊「KODOMO俳句」の選者を担当。