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令和4年度税制改正法案について(参議院浜田聡議員のお手伝い)

2022.02.03 06:48

そんなぜぃぜぃ言わず、ぜい一杯頑張るしかない、かな。

というわけで令和4年度の税制改正法案について検討してみたいと思います。

 税には大きく区分すると個人所得課税、資産課税、法人課税、消費課税に分かれます。また、納税環境に関してもその整備が重要な要素となります。昨年の12月には自民党税調委が税制改正大綱を取りまとめました。その内容が閣議決定されて衆参議会の法律案として提出されています。自民党の宮沢洋一議員は「かなり良い賃上げ税制ができた」と胸を張る実際はどうなのでしょうか。順を追ってその内容のアウトラインを確認していきます。

資料:財務省、令和4年度税制改正資料

①まずは個人所得課税についてです。一番大きな改正は住宅ローン控除の見直しです。昨年に私のブログ内でも問題点として指摘しました金利の逆ザヤについて是正されています。元々、住宅ローン控除は金利負担の軽減を目的としたものですが、民間の住宅ローン金利が住宅ローン控除の1%を下回ることから、現金があっても住宅ローンを組んで節税に利用する、もしくは繰り上げ返済はしない、という逆ザヤを得る行為が横行していました。今回、一律0.7%の控除となりました。よって、逆ザヤを得ることは難しくなったことから是正と言えるでしょう。ただし、是正とは結局は増税を意味しています。併せて、対象者の所得要件が3000万円以下であったところ今回からは2000万円以下となりました。高所得者層を排除する形となっています。控除率の引き下げと所得要件の引き上げがされたことから、政府は今後の住宅ローン控除に関しては条件を引き上げていく方向に舵を切ったと考えて良いと思います。

資料:大倉税理士事務所作成

②株式の配当など金融所得に関しては所得税と住民税の課税方式を一致させるようになります。また、上場株式保有割合が個人の保有分とその個人の同族企業保有分を加算して3%以上である場合は総合課税のみの取り扱いとなります。個人または同族企業で分けて保有することで3%以下の保有割合にして申告分離課税とすることは出来なくなります。この改正によって課税の判断基準が明確化することができます。ちなみに総合課税と申告不要課税の区別があり、申告不要課税は優遇税率が適用されます。金融所得に関して申告不要課税を受けるには申告不要課税の適用の申告が必要です。申告不要課税というネーミングは優遇漏れを狙った財務省のトラップなのでしょうか。

資料:AZネットワーク作成

③次に法人課税についてです。給与等支給額の増加率に応じた税額控除の基準が一昨年の基準に戻されています。去年はコロナ禍での雇用悪化を予想し新規雇用者給与支給額が前年度増加率で2%以上としていましたが、令和四年度案では継続雇用者給与支給額の対前年度増加率3%となっています。また、令和4年度から従業員への収益の還元や取引先への配慮を行うことを自社ウェブサイトにて公表することも税額控除の前提となりました。控除額の基準は15%で前年までと同じです。その上で継続雇用者給与総額が対前年度増加率4%以上であった場合は税額控除が10%加算されます。教育訓練費が対前年度から20%以上増加した場合は更に5%の税額控除の加算を受けられるのはこれまで通りです。令和4年度案では給与総額の対前年度増加額の最大30%の税額控除が可能となります。ただし、控除の上限は例年通り、当期の法人税額の20%までとなります。

給与等支給額の増加率に応じた所得控除について中小企業者等への上乗せ要件についても変更があります。新規および継続雇用者等支給額の対前年度増加率1.5%以上で増加額の15%の税額控除を受けられるのは前年同様です。さらに対前年度2.5%以上である場合は15%の控除が加算できます。教育訓練費が対前年度増加額10%以上である場合は税額控除を10%加算できます。よって、中小企業等の場合は最大40%の税額控除を受けられます。ただし、当期法人税額の20%が上限です。

 大企業に対しては要件が特別に加わります。次に当てはまる場合は税額控除を受けられません。前期の所得額を当期の所得額が上回っている、当期よりも前期の方が継続雇用者給与支給額が大きい、当期の設備投資額より当期の減価償却費の3割に相当する額の方が大きい場合は税額控除制度の対象となりません。収益が拡大しているにも関わらず賃上げや投資に消極的な姿勢の企業だからです。この場合の大企業とは中小企業と個人事業者以外を指しています。資本金10億円以上かつ従業員1000名以上で前期よりも収益が拡大している企業は、前述の3つの要件に加えて、当期の継続雇用者給与支給額の、前記の継続雇用者給与支給額に対する増加率が1%の未満の場合も税額控除制度の対象となりません。

④スタートアップ企業と自社との技術やノウハウを組み合わせて収益を拡大しようと試みる協業への投資をオープンイノベーションと言います。このオープンイノベーションを促進する優遇税制に関しても改善がされます。出資を受ける企業の要件が設立10年未満の未上場企業であることに加えて、売上高に占める研究開発費の割合が10%以上の赤字企業は設立15年未満まで対象となります。出資の要件は1件当たり1億円以上の現金出資で5年以上の株式の継続保有見込みであったところを3年以上の継続保有見込みへと変更になりました。以上の要件を満たすことで株式取得額の25%を所得控除の対象とすることが出来ます。ただし、3年以内に処分した場合は益金に参入しなければなりません。

⑤少額減価償却資産の損金参入制度も見直される予定です。取得価格に関係なく対象資産のうち貸付の用に供したものが除外されます。私は貸衣装店も営んでいることから嬉しい改正と思いきや、貸し付けに用いられるものが主要な事業に関わるものの場合は対象とならないという特別な条件が附帯していました。残念です。

⑥完全子法人株式の配当の源泉徴収がなくなります。子法人が親法人に配当する際の源泉徴収によって親法人は訪印税額から控除または還付を受ける手続きを行う必要があり、親法人に一時的な資金負担が生じていました。子法人が親法人に配当する際の源泉徴収を廃止することで事務負担も資金の一時負担も解消されます。

⑦帳簿未提出の場合等の過少申告加算税等の重加算措置が改正されます。帳簿を提出しなかった場合、または収入の1/2以上が記載されていない場合は本税に対して10%の加算となります。提出した帳簿に収入金額の1/3以上が記載されていない場合は本税に対して5%の加算となります。

⑧資本金1億円以上の法人の事業税所得割の軽減税率が廃止され一律1%となります。

以上、今年の税制改正大綱を見てまいりましたが大きな改正点や消費税率の軽減などはありませんでした。

以上、アウトラインを見て来ました。例年通りのスケジュールだとしますと、1月28日に法案が提出されましたので、3月上旬に衆議院可決、3月下旬に参議院も可決、3月31日に公布となるのが順当だと思います。

内容の全体像を検討します。マスコミでは改正案の中でも賃上げに係る税額控除の拡大を大きく報じているようです。そこで控除率の一番高い中小企業の場合を例にとって下記のようにシミレーションをしてみました。

基本となる数値は経産省のデータより中小企業の平均値を使用しました。

 上記をご覧の通り、中小企業のほとんどにたいした恩恵はないと思います。人件費の増加額に応じた税額控除が40%も受けられるという触れ込みですが、実は法人税額の20%を上限にしていることに変わりはないため、税額控除が30%から40%に引き上げられても恩恵を被れるケースは稀なのではないかと思います。実はこういったカラクリを仕込むことが財務省の巧妙で姑息なところだと感じてしまいます。マスコミのみならず政府や与党の議員も国民の所得の増加に寄与する政策だと財務官僚に丸め込まれているのでしょう。マスコミも官僚のレク内容を垂れ流すだけで内容と効果を検証していないので期待を抱かせる報道に終始しています。日本の法人の99%以上が中小零細企業です。その平均値で試算したとしても、税額控除が30%であろうと40%であろうと控除の上限が法人税額の20%が変わらない限り、税額控除の恩恵を受けることはレアケースなのだと容易に想像がつきます。よって、私はこの政策は政府と財務省のポーズを示したに過ぎない空手形のようなものに思えます。

 今回の税制改正案を見る限り岸田首相が言う新しい資本主義というのがどこに現れているのかがわかりません。脱新自由主義という主張も織り込まれていません。脱新自由主義どころか財政の健全化を引き続き政権の課題としていますので、緊縮財政路線の新自由主義をむしろ推し進めています。岸田首相が言っていた税の再分配機能の見直しというのもされていません。これまでの安倍政権、菅政権の取ってきた緊縮財政路線と財務省主導の税政が見事に引き継がれていると思います。そもそも、税制の改革や優遇で経済効果が生まれるなんてことはないのだと思います。デフレ脱却をするような経済効果を税制によってもたらすことができるのならとっくに日本経済は軌道修正が為せているでしょう。しかし、税法改正による効果が低調であるから30年以上も低調な経済状況に留まっているのです。

 見解を今回の税制改正案に戻します。5Gのインフラを推進する優遇税制を導入するなどデジタル田園都市国家構想では民間組織の参入を殊更に匂わせており、スターターやプレイヤーの基盤をグローバリストが着々と築きつつあるように思えます。つまり、岸田首相は着任前とは正反対に新自由主義の意のままに計らっているように思えます。

資料:経済協力開発機構調べ

 岸田首相の自民党総裁選で脱グローバリズム、脱新自由主義、脱緊縮財政という方針を唱えていたので少しばかり期待していました。というのも、日本の直近の約30年間はバブル崩壊とともにデフレに移行し、物価、所得、生産などおしなべて停滞して来ました。高齢化の進化に伴う財政措置などに赤字国債を発行して予算を補ってきたもののGDPの推移は1990年頃から2020年までほぼ横ばいの状態が続いております。一人当たりのGDPは2000年にはルクセンブルグに次いで日本は世界2位でした。それが、2010年は18位、2020年には23位にまで下がってしまっています。約30年間も経済が停滞してきたのですから当然のことです。

 日本経済の停滞の一因として竹中平蔵氏の責任は大きいと私は思っています。1998年より小渕内閣、森内閣、小泉内閣、安倍内閣、菅内閣まで延々と政府の経済政策の舵取りを竹中平蔵氏は担ってきました。経済財政政策担当大臣、金融担当大臣、郵政民営化担当大臣、経済諮問会議などを歴任して来ました。プライマリーバランスの黒字化目標、財政規律を重んじ、緊縮路線を確立、聖域なき構造改革を打ち立て雇用の規制緩和、国際競争力の向上を言い掛かりに法人税率の引き下げ、高額所得者の所得税率の引き下げと消費税率の引き上げ、など累進課税制度を強く否定しフロンティア型税制を推進してきました。その結果が現状です。世界での日本の経済力は見るも無残に低下して、国民の所得は30年間ほぼ増えることもなく、むしろ、減少傾向です。高額所得者の税制による待遇は良くなったものの、低所得者層がばかりが増え続ける結果となってしまっています。そのような状況について、竹中氏を先頭に新自由主義者は低所得者を労働や税制などの問題ではなく、単に貧困の問題であり別問題だと切り捨ててきました。

 この閉塞した経済状況を打破すべく、緊縮財政路線から一転、積極財政に転じてデフレを脱却し、消費税の負担を軽減し、所得の向上から税収の確保を目指すべきだと考えます。同じようなことを30年以上も繰り返してはいけません。早々に方針を転換しないと日本の世界的な経済的な地位は、中国をはじめとした途上国においてきぼりにされてしまうかもしれません。

 今の岸田内閣は思想なき国家運営に終始しているように思えますし、危機感が感じられません。岸田首相の公約は選挙用の公約に過ぎず、結局は前政権からスライドした政策を引き継いだだけにしか見えません。そして、財務官僚の手玉にとられているように思います。

 税政で検討すべきは金融所得の総合課税化と所得税負担率に見直しです。併せて、相続税と贈与税の一体的な課税方法の見直しです。そして、企業には株主重視から雇用重視、先行投資重視への方針転換を促し、株主還元に偏っている経営観の変更を期待する方向で検討すべきです。さらに、ライフコースによって有利不利が出ないような税制を目指し、老後の安定を図りたいものです。柔軟な働き方が拡大する中で公平で中立的な働き方に対する税制を構築しないといけません。その為には一時的に株価下落を招くかもしれませんが金融所得への課税強化をするべきです。同時に富裕層の分割贈与については再検討する必要があると思います。高額な相続財産を有する層にとっては、財産の分割贈与を通じて相続税の累進課税の負担を回避しながら多額の財産移転をすることが可能です。適切な負担を伴わず世代を超えて資産が引く継がれることになれば格差の固定化は免れません。そういう意味では贈与税の非課税措置は経済対策としてふさわしくないと考えます。

 概観して思うことは経営や経済の現場から政治家も官僚も感覚が乖離しているように思えました。私は長らく経営の一線にいましたが、税制改正によって経済を活性化するとかいうことを私は聞いたことも実感したこともありません。賃上げ税制もそうです。政府は何年も前から優遇措置を打ち出していますが、私の周りでこの制度を有効に使おうとする企業なんて聞いたことがありません。

 私がこの国の経営者なら無利子国債を大量に発行して過去の有利子国債を一気に償還してしまいます。現在では利払いだけで毎年8.5兆円を負担しています。無利子国債に置き換えるだけで毎年8.5兆円の経済振興予算を捻出できます。むろん、税収が歳出の財源ではないので歳入に縛られる必要はありません。とにかく、市場に真水を積極的に流し込み続けないといけません。需要を創出ことによってバランスさせてマネタリーベースをあげていくのです。2000年からの20年間で約500兆円のマネタリーベースが上昇していますがそれでもデフレ脱却には至りません。

 緊縮財政派はリフレ派を日銀の国債引き受けを前提とした財政政策と非難します。しかし、直近8年で日本銀行は約420兆円の国債を買い取っていますので、実は国債発行高は約260兆円しか増えていないのです。つまり、国債の発行額より債務の返済の方が圧倒的に多いのです。それでも岸田首相は「日銀の引き受けを前提とした国債の発行による財政政策は国の信頼を損なう」と1月26日の衆院予算委員会で答弁しました。官僚の作文を読んでいるだけだからこのような頓珍漢な発言になるのでしょう。よって、岸田政権下の予算組も税制改正も大した意味を為さず、世界の中での日本の地位は益々低下を招き、GDPは凡そ先進7か国のメンバーとは思えない低水準に留まることになるのではないかと思います。30年も続けてきてダメだった経済政策をいつまで与党は続けるのでしょうか。岸田首相は分配を強調しますがそれだけではだめです。必要なのは成長なのです。この30年で世界のGDPは驚異的に伸びています。アメリカは4倍になりました。中国は16倍ほどにも伸びました。このままでは日本は中国の思い通りにされるようになってしまわないでしょうか。ロシアも直近30年でGDPが約13倍になっています。このままでは将来、ロシアに北方領土のみならず北海道も侵略されてしまわないとも限りません。見知らぬ将来には日本は土地も資源も外国に買いつくされてしまうということも現状では無いとは言えないでしょう。

 日本は如何にしても成長路線に軌道修正し駆け足で発展を遂げなければなりません。躊躇している時間はないと思います。給料が1.5%増えることをターゲットにしている自体が滑稽のように思えます。日本の高度成長期には基本のベースアップは10%以上が普通でした。積極的な財政出動によって短期的にでも需要を拡大し、市場がタイトになったところで更に公共投資による高圧的な経済環境を作り出すことに繋がれば民間投資も誘発されるのだと考えます。需要の高まりに供給力がついてくると経済は成長軌道に乗っていくのでしょう。実際にはそんなに単純なものではないのでしょうが、とにかく大きな転換を図らないといけないと思います。その危機感だけでも与党には感じて欲しいところです。岸田首相は総裁選当初とは真逆に近い政策に転換してしまったようです。つまり、転換を目指すはずだったのを転換したのだから元の木阿弥ということです。岸田首相のちゃぶ台返しは残念です。

 以上、最後までご拝読を賜りありがとうございました。

参考:財務省、令和4年1月、「所得税法等の一部を改正する法律案」について

https://www.mof.go.jp/about_mof/bills/208diet/st040125g.pdf