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童謡「里の秋」に秘められた思い

2022.02.07 01:07

童謡『里の秋』🌰/倍賞千恵子


斎藤信夫作詞、海沼實作曲、1948年オリジナル版リリース。

漸く戦争が終わった静かな秋の夜、郷里に残された母と子が、南方で終戦を迎えた父の無事を祈りながら帰還を待ちわびる姿を歌ったもので、家族の絆や優しさにこみ上げてくるものがあります…🤧

歌詞に沿って、もう少し詳しく見てみると…


①静かな静かな里の秋 お背戸に木の実の落ちる夜は ああ母さんとただ二人 栗の実煮てますいろりばた 


②明るい明るい星の空 鳴き鳴き夜鴨の渡る夜は ああ父さんのあの笑顔 栗の実食べては思い出す 


③さよならさよなら椰子の島 お舟にゆられて帰られる ああ父さんよ御無事でと 今夜も母さんと祈ります 


①番の歌詞が、単なる里山の秋の風景を歌ったものでないことは薄々感じていましたが、疑問に思った「お背戸」の意味と併せて調べてみると…


日本の農村地帯では「背戸の山と前畑」を大切にしたと言います。

「前畑」とは家の前の畑で、「背戸の山」とは家の裏手(=背戸)の屋敷林のことです。

このため、「前畑」が母で、「背戸の山」が父の比喩と考えれば、①番の歌詞は、これまで家の裏手の屋敷林として一家を護っていた父の出征で母と二人だけになり、木の実が落ちる音さえ聞こえてきそうな心細さや侘びしさを歌ったものと言えるでしょう。

そして、③番の歌詞は言うまでもなく、漸く戦争が終わって、椰子の実がなる南方の戦地から帰還する父の無事を祈るというものです。


したがって、「里の秋」という童謡は、晩秋の風景を描写しながら、留守家族の心細さ・侘びしさ、ひいては戦争の悲哀と平和祈願を歌ったものと言えます。


しかし、これにはあるドラマがありました。

太平洋戦争が勃発した1941年、国民学校教師であった斎藤信夫(作詞者)は「星月夜」(前半は「里の秋」と同じだが、後半で父の武運を祈り、自らも将来国を護るぞ)という歌詞を書いたのですが、海沼實(作曲者)が曲を付けることはなかった。

終戦後、引揚者激励のラジオ番組で使う曲を依頼された海沼は、責任を感じて教師の職を辞していた斎藤を説得し、「里の秋」として後半の歌詞を書き換えさせたと言います…


おしまい