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日曜小説 No Exist Man 闇の啓蟄 第一章 朝焼け 9

2022.02.12 22:00

日曜小説 No Exist Man 闇の啓蟄

第一章 朝焼け 9


 三人の話は、ひとしきり「セクハラ」の話になった。今田のように、外見はお政であっても、中身は男性と遜色がないと自分で思っている性格であれば、この女性のするセクシャルハラスメントやジェンダーハラスメントの話題こそ、逆に男性を逆に差別しているものでしかないと思っていた。実際に「あの人はカッコイイ」「あの人にはあこがれる」などといいながら、そうではない人に対するさげすむ会話はあまりにもひどい内容だ。男性ばかりがハラスメントでやられているが、こちらの方がずっと問題ではないのか。

 しかし、今田は逆に、そのような「噂話の輪」の中に入ることこそ、最も仲良くなる、もっと端的に言えば、秘密の情報をもらうことのできる関係を築く最大のチャンスなのである。今田は、変な指摘をせずに、この二人の「井戸端会議」に噺を合わせることにした。

「それにしても、あの徐教授の目つき嫌じゃなかった」

「ほんとね。何だか石田先生を見た後に、ちょっと視線をずらしてこっち見るんだけど、明らかに目つきが違うんだよね。脚の方から徐々に視線が上がってくると、なんか背筋がゾーッとして」

 背筋がゾーッとするといいながら、笑いながら話しているというのも、なかなか理解できない。もちろん今この場に本人がいないということが大きな内容ではないか。しかし、本当に気持ちが悪いのであれば、思い出すのも嫌なはずだが、このように話題にしているというのは、なかなか女性の心は難しいものである。

「差別はだめだけど、やっぱり中国の人って、そういうところがあるのかな」

 細川満里奈はちょっと伏し目がちに、今田の方に遠慮しながら言った。普段、山崎瞳と二人ならば、このような国籍の差別に近いような話も遠慮なく話されているのであろう。ここは少し参道の意を表しておかなければ、情報が入らなくなってしまう。

「中国の人はそういうところがあるんですよ。あと韓国もそうかな」

 今田は、あえて細川の話しに乗せるように話をした。

「今田さんもそう思うのですか」

 政府の人というのは、基本的に建前で動いていると思われている。ジェンダーハラスメントやセクシャルハラスメントなどを取り締まる側であると思われているのだ。実際の所、今田からすれば、国政にかかわる人間は、もっとしたたかであり、そのように世間が言うことによって、逆にジェンダーなどの本音を話させて利用したり、女性の議員などは、逆に女性を武器に使ったりしてうまくやっているのである。純粋に守っているのは、細川のいる都道府県の役所の方ではないか。

「もちろんよ。ああ、別に差別じゃないのよ。そうではなくて、中国とか韓国とか、古い儒教道徳が残っている国は、片方で男女平等であるという価値観を持ちながらも、片方で古い価値観を大事にするというようなことになっていて、そのことから、男尊女卑的な考え方が行動や言葉に出てしまうことは少なくないということになっているんですよ」

「そうなんですか」

 山崎瞳は、歴史にも儒教にも関係があることなので慌ててメモを取っている。本来ならば、メモを取るのではなく、そのような話を山崎からしてほしかったのだが、その辺は期待外れなのかもしれない。

「そうなのよ。まあ、好色な目で見てしまうというのは、それだけでは無くて、当然に男性故人の問題もあると思うんだけど。逆に、私みたいに好色な目で見られないというのは、それだけ女性として魅力がないのかもしれないと思って」

「そんなことないですよ。今田さん、クールビューティーって感じでかっこいいし」

 細川は慌てて言った。学会の時は全く話さなかったのに、意外によくしゃべる。

 この辺で本題に入っておかないと、なかなか話が進まない。東京に戻る時間もあるのだ。

「ところで、今回の学会の規制委員化はどうしてこのメンバーになったの」

 今田陽子は、まずはこのようにして石田清と徐虎光、吉川学の関係を聞いた。もちろん、女性三人の話であれば怪しまれないと考えた。

「えっ」

 山崎瞳は、なぜそんなことを聞くのかというような目で見た。

「いや、だって、お二人とも話を聞いていると、特に徐教授なんてあまり好きじゃなさそうだし」

「それは仕方がないですよ。学会ってそういうものじゃないですか」

 山崎瞳はそういった。

 今田からすれば、保守派と思われる石田教授が、中国出身の儒教の教授である徐と付き合いがあるのは理解できるにせよ、建築に関して左翼的な考え方を持つ吉川学と付き合っているということは、あまり想像がつかないのである。

「吉川教授は徐先生が連れてきたんですよ」

「徐さんが」

「はい、なんでも吉川学先生は、建築学に関して中国の古代建築や宮殿建築を学びたいといって、徐先生と一緒に中国を旅して建築の研究をしてきたらしいんです。」

 山崎瞳は、別段不思議なことは何もないというような感じで、話をした。要するに、今回、歴史と京都の都市開発を融合する学会において、その中心になったのは石田清である。しかし、歴史の内容に関しては、古代の日本は中国からの影響を否定することはできないのである。仏教伝来も遣隋使も遣唐使も中国との関係を示しているということであれば、歴史に関する教授が、東洋史の教授と日本の古代史の教授が親しいということ人関しては、何の問題もない。今回の違和感は、その中になぜ左翼の噂の高い吉川が入ってきたのかということである。

 そのことは、この女性二人の話を聞いていてもわかる。京都府の職員である町田直樹や、いつも来ているであろう徐虎光の話はするものの、建築学の吉川学が話題に上ることはない。つまり、この二人は少なくとも吉川学はあまり親しくないということに他ならない。いつも着ているメンバーであるならば、今回のメンバーもいつもきまってメンバーですからというような話になるのだろう。しかし、そのような反応でもなかったのである。

 今田はてっきり、京都府の誰かが推薦したものと思っていた。あまり良い話ではないが、京都は歴史のある都市である割には、意外に左翼的な思考の人が少なくない。その為に、町田や細川ではないにしても、誰か京都府の関係者や議員の推薦かもしれないと思っていた。しかし、話を聞いてみると、変なところで、中国と徐虎光と、吉川学の接点が見えてきたのである。

「徐先生と吉川先生は親しいのかしら」

 今田は、なんとなく聞いてみた・

「さあ」

 細川は、すぐに回答はできないという感じであった。しかし、山崎瞳は、少し間をおいてから、面白い話をし始めた。

「いや、偶然かもしれないんですが、二人とも使っているペンが同じなんです。それに、あのなんか毒々しい色をした指輪、それも柄は違うのですが何か同じでしたね。私はあの吉川教授は、今回の依頼状を持っていた時とで二回目ですからあまり良くわからないのですが、徐教授は今回もあのいやらしい目で見るから近寄りたくないし・・・・・・」

「でもそれって、中国のお土産とか、何かそんな感じじゃないの」

 細川は、なんとなくそんなことを言った。

「そうかなあ、あんな趣味の悪い気持ちの悪い指輪、中国土産だったとしても、するかなあ」

 山崎瞳は、すぐに否定した。

 今田陽子は、やはりこのような情報を得るのは、間違いなく女性に限ると思った。女子力、通常は炊事洗濯などの家事全般に関して使うことなのかもしれないが、自分の生きる世界では女性たちと同調して、井戸端会議に入り、情報を得るということが「女子力」なのではないか。

 今田陽子は、そのまま少し女性たちの話に付き合うと、細川満里奈が京都府庁に戻る時に合わせて大学を辞去した。

「皆聞いてくれる」

 今田はすぐに、その内容を仲間たちと、東御堂、そして東御堂が指名した嵯峨朝彦に連絡した。

「嵯峨様、いかがいたしましょう。」

 バー「右府」では、平木正夫が連絡内容を聞いて嵯峨に話しかけた。

「どうしたらよいのか。東御堂はどうしていた」

「はい、通常はよきにはからえと」

「では、よきにはからえ」

「はい、では」

 平木は、そのように言うと、バーのママで芸者である菊池綾子に調査を命じ、また、総務省の青田博俊に、徐と吉川が中国で何をしていたかを調べるように命じたのである。