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第一章 桜花月団開花物語 三話

2018.03.30 12:30

🌸喜怒哀楽 それと愛憎🌸




四人は博麗神社を発ち、紅魔館に向かっていた。その距離は何気に遠かったので、ひとまず休憩と題して人間の里に寄ることに。瓦が積まれた平屋や長屋が通りに沿って並んでおり、蕎麦屋に豆腐屋、お茶屋や居酒屋などたくさんの店が軒を連ねている。

美月「ん〜、美味しい……!」

美月の手には砂糖醤油が艶々と輝くみたらし団子が握られていた。ほぼ吸い寄せられるような形で団子屋に赴いたのである。

魔理沙「だろ?」

魔理沙は黒胡麻が振りかけられたものだ。口の端に一粒付いている。

里舞「あの、ここには人間が住んでいるんですか?」

団子屋の前を人々が往来するさまを見ながら、桜、雪、葉の三色団子を頬張る里舞。

霊夢「ん、そうね。でも、私たちみたいな人間の里以外に住んでいる人間もいるのよ。元、人間なんて人もたくさんいるわ」

霊夢の団子にはあんこが塗りたくられている。

魔理沙「私の友達のアリスってやつも元人間だな」

美月「ほぉ……そうなんですか」

里舞「ここは実に多種多様な世界、ということですかね。あっ、今から行く紅魔館には吸血鬼がいるんでしたよね」

霊夢「ええ。どちらも変なやつだけど頼もしいわよ」

美月「ますます楽しみになってきます……!」



団子を食べ終わった四人は、人間の里を少し行った先にある湖に来ていた。ここは霧の湖と呼ばれ、名前の通り深い霧に包まれている。

霊夢「ここから霧の湖を越えないといけないんだけど、あんたたちって飛べる?」

里舞「飛ぶ……」

里舞は顎に手を当て小さな声で何かを唱えた後、背中から桜の花びらのようなものを生やした。これが羽となるのだろう。正確には生えた、より付いた、のほうが正しいのかもしれないが。

里舞「なんかできましたよ」

魔理沙「おぉ、才能の塊だな……?」

美月「あの、私はどうすれば?」

霊夢「魔理沙の箒にでも乗って行けばいいんじゃないかしら」

そう聞くなり魔理沙は持っていた箒に跨がって、少し宙に浮いた。

魔理沙「ほら、後ろ。跨ぐだけでいいからさ。よしっ、準備はいいな!」

かくして四人は、立ち込める霧の中を直進して紅魔館に向かった。



里舞「……っと。到着ですねって、でっかぁぁぁ!」

見上げた先には紅く堂々と建てられた紅魔館。窓の少ない赤レンガの壁には装飾程度に蔦が蔓延り、中央に伸びる時計塔は昼過ぎを回っている。それが遠くてあまり確認できないほど、庭は大きく紅色の薔薇が美しい。

霊夢「さ、入るわよ」

美月「あっ霊夢さん魔理沙さん、あそこで寝ている門番さんであろう方はどうすれば?」

魔理沙「んなもん無視だぜ。どうせ起きやしないさ」

??「あの、会話全部聞こえてるんですけど。あと、起きてますよ」

門の柱で目を瞑っていた人物がいつの間にかすぐそこにいて、礼儀正しくお辞儀をした。中華を感じる緑の服装に、龍と書かれた星のエンブレムが付いた帽子。赤い髪が揺らめいている。

美鈴「私はこの館の門番、紅美鈴です。見たことない方もいるようですが……今回は何用で?」

霊夢「この子たちの弾幕の練習よ。あんたたちのお嬢様方なら暇かなって。で、どう?」

美鈴「あー……ちょっと分からないので一応伝えておきます。あ、庭使ってもいいですけど、汚さないでくださいね〜!」



無事に土地使用権を獲得した一行は、早速庭に足を踏み入れた。芝生が綺麗に整えられている。

里舞「さてと、やりますか」

魔理沙「霊夢、まずはどこからやるんだ?」

霊夢「んー……美月。あんた、弓が得意なの?」

美月「得意というか、一番しっくりきますね」

美月は弓弦を引いてみせた。矢は腰に付けられた矢筒の中に入っている。

魔理沙「里舞は刀か。明らかにさっきのは素人の剣捌きじゃなかったしな」

里舞「いや、それほどでも。前は刀で……って、私はいいですよ。それより美月を」

里舞は意味深にニコッと笑う。訝しげに眉をひそめる魔理沙。

霊夢「じゃあ……」

霊夢が姿を消した。

美月「れ、霊夢さん!? どこ!?」

魔理沙「上だ」

魔理沙が指を上に向けた。その先には霊夢。

美月「今のを追えてたなんて……すごいですね!」

魔理沙「まぁな」

霊夢「私はこのまま飛んでるから、あんたは下から私を狙って矢を放ちなさい」

美月「えっ、でも」

魔理沙「大丈夫、霊夢に刺さることはないぜ。ほら、札を持ってるだろ? あれで防ぐんだ」

軽く札を振って応じる霊夢は余裕そうである。

里舞「……美月」

里舞が美月と目を合わせ、頑張って、と小さく言った。美月は嬉しそうに頷いて、霊夢のほうへ体を向ける。

美月「じゃあ霊夢さん! いきます……よっ!」

弓を構え、矢をニ本放つ。

霊夢「一気にニ本ね。凄いじゃない」

霊夢が持っていた札が光り、向かってきた矢を跳ね返した。矢が地面に突き刺さって消滅する。美月の後ろでゴト、と音が鳴った。

美月「ん……?」

どうやら矢筒に矢が補給されたらしい。この矢は魔力でできているのか、と美月は推測する。

魔理沙「さすがに霊夢も初心者に負ける気はないみたいだな」

里舞「いや、あの子はすごい……と思います。でも動きが読みやすいですね」

魔理沙「そこまで分析するお前もお前だけどな?」

里舞「いやいや、それほどでもないですって」



美月「くぅぅ……動きが速い! 捉えきれない!」

長時間やっているのにも関わらず隙を見せない霊夢。尊敬の念を抱くとともに、なかなか捉えきれない自分に焦りを感じる美月。

そのとき美月の脳内に、集めて固定すると魔力を込められる、という里舞の言葉が浮かんだ。

霊夢「どうしたの〜? 動き止まってるわよ……」

瞬間、霊夢は目を見開いた。

美月の矢が月光のように輝いているのだ。

里舞「あれは……スペルカード?」

魔理沙「スペル!?」

美月「……っ! はぁっ!」

美月は思いっ切り地面を蹴り、高く飛ぶ。

霊夢「なかなかの跳躍力ね」

そして霊夢ではなく、霊夢の真下に矢を放った。

魔理沙「あいつは何を考えてるんだ? 里舞」

里舞「私は解説係じゃないので分かりませんよ……」

すると矢が刺さったところから魔法陣が出てきて、そこから弾幕が放出されたと思ったころには、霊夢は円状の黄色の弾幕に囲まれていた。

霊夢「この形は……まさに月、ね。【夢符 二重結界】」

霊夢はスペルカードを出し、自分を囲んでいた弾幕をすべて消す。そして二人が同時に地面に足をつけたとき、里舞が霊夢に攻撃を仕掛けた。刀とお祓い棒がぶつかり、キィンと音が響く。

魔理沙「おい里舞! 何やってるんだ!」

霊夢「何かしら。戦いたいの?」

里舞「……やっぱり速いですね」

里舞は霊夢のほうを見て苦笑いをした。

美月「りりり里舞さん、どうして……?」

里舞「ごめんなさい、どんな速さなのか気になって。私は速さを売りにしてるのでどんなもんかと思って」

魔理沙「まったく、脅かせてくれるよ。霊夢、大丈夫か?」

霊夢「ええ、大丈夫よ。結構離れてたのに速かったわね」

里舞「本気は出してませんけどね」

霊夢「機会があったらぜひ戦ってみたいわ」

??「そうねぇ〜。私も気になるわ〜」

他愛のない会話の中で突然現れた人物。それはスキマから上半身だけ体を出した、紫だった。

美月「うわっ! びっくりした!」

魔理沙「うおっ!」

霊夢「あら、紫。どうしたの?」

霊夢にとっては日常茶飯事らしい。

紫「楽しそうなことしてるから、気になっちゃって、かしら?」

里舞がまた恐ろしい目で紫を睨む。

紫「里舞、目が怖いわよ……で、伝えたいことがあってね」

霊夢「何よ?」

紫「美月の能力についてなんだけど」

美月「の、能力?」

魔理沙「ああ、そっか。まだ能力の話とかしてなかったな」

魔理沙は美月のほうを見て話し始める。

魔理沙「幻想郷の住人のほとんどは能力を持っているんだ。霊夢だったら“空を飛ぶ程度の能力”。私だったら“魔法を使う程度の能力”だな」

紫「美月の能力はさっきの戦闘を見た感じ、“感情を力に変える程度の能力”ね」

里舞「感情……?」

紫「今の戦闘では、美月の腰のポーチにある付箋を使ってはいないのだけれど……その紙に文字を書いて人に貼り付けると、文字に適応した感情を心の中に持つ。強制的ではなく、付けられた人の中にある感情を引き出すの。その感情は表情とか仕草に出てくるから、使いようによっては戦闘を有利にできる……って感じかしら?」

美月「ぬぉぉ……何かすごい!」

美月はすぐさま腰を見て、ポーチの中に筆と付箋が入っているのを確認した。博麗神社に向かう階段で一度これは何だろうとは思ったのだが、そういう使い道だったのかと納得する。自分の能力を紫が知っていたことへの疑問は、好奇心によりすぐに消えてしまった。

里舞「感情……かなり大きいものを扱うんですね」

紫「まぁ、その子なら大丈夫でしょう。器は大きそうだしね。じゃあ、私は帰るわね」

紫はスキマの中に戻っていった。そんなことは気にせず、霊夢は普通に話を続ける。

霊夢「サポートも攻撃も出来る万能型っていうところかしら。何かの力が飛び出てるわけではないけど、安定感があっていいわね」

魔理沙「そうだな。弾幕はパワーだと思うが」

里舞「……あまり大きいものを背負ってもいいことないよ」

その呟きはあまりに小さく、美月の三角に尖った耳には届かない。

美月「里舞さん? 何か言いました?」

里舞「いや、何も」

そのやり取りも気にせず、二人の分析をする魔理沙は楽しそうである。

魔理沙「だとすると、里舞はスピード重視って感じか。スピードのおかげで威力出てるっていうやつだな。多分」

霊夢も仮説に頷きつつ、里舞に目を向ける。

霊夢「そうね。さっきの攻撃を喰らったとき、威力がすごかったもの」



??「あら、霊夢に魔理沙と……新人さんたちかしら。楽しそうなことやってるじゃない。私たちも混ぜてくれない?」

四人は声のしたほう、館のほうを向く。

霊夢は皆に伝えるように声の主の名前を呼んだ。

霊夢「レミリア・スカーレット、ね?」



   《四話に続く》

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