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KANGE's log

映画「フレンチ・ディスパッチ ザ・リバティ、カンザス・イヴニング・サン別冊」

2022.02.13 03:01

【オシャレが過ぎるフランス憧れ、緻密に構築された「雑」の味わい】

フランスの架空の街アンニュイにある架空の雑誌「フレンチ・ディスパッチ」編集部。編集長の急死により廃刊が決定した最終号の記事をそのまま映像化…という体で、ショートストーリーがオムニバス形式で4本続いていきます。

冒頭のシーンで、カフェの店員が編集部に運ぶドリンク類。いろいろな人の好みが1つのトレイに載せられているということで、これが、すでに雑誌のメタファーですよね。

4本の記事は「自転車レポート」「確固たる(コンクリートの)名作」「宣言書の改定」「警察署長の食事室」。街、芸術、革命、食と、フランスを象徴するようなテーマになっています。いずれも、抽象度が高いというか、リアリティよりもシュールでコミカル、まるでお伽噺のようでもあります。雑誌のページをめくると、まるで飛び出す絵本のように、物語が展開していくというイメージでしょうか。1つ1つの話は洗練されているけれど、それぞれに関連性はなく、それが集まって「雑」を形成しているという印象です。

ウェス・アンダーソン監督らしく、絵づくりには非常にこだわっていて、シンメトリーで平面的な構図、小洒落た衣装やセット、細かく調整されているであろう人物や小物の配置…などなど、どのシーンを切り取ってもポスターになるんじゃないかと思うぐらい。ゴダールやトリュフォーなど、かつてのフランス映画を意識しているのだと思いますが、どこからどう見ても、完全にウェス・アンダーソン印という感じです。さらには「タンタンの冒険」のようなアニメーションまで挿入されています。これは、雑誌でいえば、挿絵ということなのでしょうか。カメラフレームの動きも、カメラを振ってパンするのではなく、スライドするように平面的に移動したりして、独特です。

もう「私たちが自慢されたい、フランスのお洒落感」満載です。

一方で、英語とフランス語がまじったセリフ(というか、記事)の量も膨大で、特にフランス語は早口なので、字幕を追っていると、映像に目がいかないという、困ったことになってしまいます。もし日本語吹替版があるなら、そちらの方が楽しめるかもしれません。

これは「面白い・つまらない」というより、「好き・嫌い」あるいは「合う・合わない」で評価が分かれそうです。実は、「犬ヶ島」は試写会で見て、途中で寝てしまったのですが、本作は置いてけぼりにならないように、必死で食らいついて見ることができました。私には、本作の方が合っていましたね。