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富士の高嶺から見渡せば

韓国が民主主義国とは言えないこれだけの理由

2022.02.14 10:22

 イギリスの経済誌「エコノミスト」の調査部門「エコノミスト・インテリジェンス・ユニット(EIU)」が「民主主義指数2021(DEMOCRACY INDEX 2021)」を発表した。 

それによると、韓国は10点満点の総合得点で8.16を獲得し、前年より順位を7つあげ世界167国中16位となり、去年に続いて「完全な民主主義国」の一つに格上げされたという。しかも、順位は日本の17位より一つ上となり、初めて日本を追い抜いたとのこと。韓国メディアは、韓国の「先進国」入りのニュースと同様、大きく伝えた。 

EIUの「民主主義指数」は、「選挙プロセスと多元主義」 (electoral process and pluralism)、「政府の機能」(functioning of government)、「政治参加」(political participation)、「政治文化」(political culture)「市民の自由」(civil liberties)という5つのカテゴリーに分かれて合計60の設問に対し、それに該当するかどうかで、Yesなら1点、Noなら0点、その中間だったら0.5点といった点数を付けて、各カテゴリーを10点満点で評価し、その平均点を総合得点(overall score)として順位を付けたもので、平均点が8.0以上なら「完全な民主主義」(Full democracy)、6.0以上なら「欠陥のある民主主義」(Flawed democracy)、4.0以上なら「複合型体制」(Hybrid regime)、4.0未満は「権威主義・独裁体制」(Authoritarian)と評価している。  


      総合得点 順位 選挙プロセスと多元主義 政府の機能 政治参加 政治文化 市民の自由 

Taiwan    8.99     8      10.00       9.64    7.78   8.13    9.41 

South Korea   8.16   16     9.58       8.57    7.22   7.50    7.94 

Japan      8.15   17     9.17       8.57    6.67   8.13    8.24 

Hong Kong   5.60   85     2.75       3.64    5.56   7.50    8.53 

China       2.21   148          0.00       4.29    2.78   3.13    0.88 


そうした中で、日本は民主主義指数の調査が始まった2006年、つまり第1次安倍政権の時、総合得点は8.15で、民主党政権だった2008年に8.25だった。それ以後、2010年から14年まで8.08が続き、第2次安倍政権3年目の2015年に7.96に下がり、安倍政権が終わった19年まで7点台が続いた。2020年に8.13となり「完全な民主主義」に復帰し、今回は8.15だった。 一方、韓国は、2006年に7.88だったが、その後李明博政権の2008年から朴槿恵政権2年目の2014年までは8.01から8.13の間で推移し、朴槿恵政権3年目と4年目の2015年,16年には7.97,7.92となり、朴槿恵弾劾のロウソク集会で文在寅政権が発足した2017年から19年までは8.00、2020年に8.01となり「完全な民主主義」に復帰、今回は8.16で、日本を0.01上回った。 

Democracy Index 2006-21  

    2021 2020 2019 2018 2017 2016 2015 2014 2013 2012 2011 2010 2008 2006 

日本   8.15  8.13  7.99  7.99  7.88  7.99  7.96  8.08  8.08  8.08  8.08  8.08  8.25  8.15 

韓国   8.16  8.01  8.00  8.00  8.00  7.92  9.97  8.06  8.06  8.13  8.06   8.11  8.01  7.88 

 

つまり、この「民主主義指数」は総じて安倍政権と朴槿恵政権には手厳しく、日本の民主党政権、韓国の左派政権には甘いことが分かる。韓国が日本より民主主義体制が進んでいるというのは本当だろうか。韓国に暮らしてこちらの政治状況を見る限り、疑問を抱かざるをえない。 

 「選挙プロセスと多元主義」のカテゴリーで評価の基準となる設問では、 「自由で公正な選挙の存在とそれに市民が参加できるかどうか」を問う設問が並ぶ。公正な選挙という点で言えば、韓国ではまず中央選挙管理委員会の中立性自体が疑わしい。去年4月のソウル市長選挙では、野党候補者の妻の納税ミスに関する広報文を各投票所に張り出したことがあった。納税ミスと言っても二重払いしたというミスでそれによって利益を得た訳ではなく、選挙公約などにもまったく関わりがないことだった。 韓国の中央選挙管理委員会常務委員は大統領と国会、大法院がそれぞれ3人づつを任命するが、そのうち大統領任命のチョ・ヘジュ常務委員について、中央選挙管理委員会の局長級から事務官までの職員全員と地方の選管責任者全員が、政治的偏向を理由に辞任を求める声明を出し、大統領も人事延長を撤回する事態に追い込まれたことがあった。絶対的な中立性が求められる選挙管理委員会のなかでそれだけ偏向した行為が横行していた実態を示す事例でもある。 

朝鮮日報1/22「韓国選管の全職員が「中立性を損なう」と反発、大統領府がチョ・ヘジュ続投人事を撤回」

 「公平な選挙運動の機会が幅広く与えられているか?」という設問があるが、日本と比較した場合、ここでも公平性という点で韓国は見劣りを感じる。資金力がある大政党は十分な運動の機会があるが弱小政党や泡沫候補にはそうした機会は与えられていないためだ。 たとえば日本では各候補の選挙ポスターは街角の公共掲示板に掲示することになっているが、韓国では各候補がポスターや横断幕を用意して、好きな場所に張り出す。このうち横断幕は、横幅3~4m、縦40~50センチほどのビニール製で、交差点の電柱や歩道のレールなどにロープをかけて掲示している。しかし、横断幕を制作にはポスターの印刷よりコストがかかるのは明らかで、それを掲示する作業にも人手がかかるため、資金が潤沢な政党の候補はできても、弱小政党や泡沫候補にはできない。 


また各候補の公約や主張を記載した選挙公報は日本だったら、選挙管理委員会が一つの印刷物にまとめて各戸に配るが、韓国の場合、各候補がそれぞれ独自に印刷したチラシなどをひとまとめにして封筒に入れて各戸に配られる。日本の選挙公報は、各候補者に平等に同じスペースが与えられるが、韓国の場合、資金があれば豪華なパンフレットを用意できるが、金がない候補は半紙一枚程度、あるいは全戸に配るほどの枚数を印刷できないのか、まったく印刷物を用意しない候補者もいて、候補者全員の主張・公約を比較することはできない。

テレビの政見放送や立ち会い演説会のようなものもなく、各候補が選挙カーを仕立てて、街角で集会を開くだけで、資金力のある候補は、太鼓やダンサーなど大勢のスタッフを引き連れ、賑やかなパフォーマンスを繰り広げることができる。 

政治参加」のカテゴリーのなかの設問で、「合法的なデモに参加できる自由」を問う設問があった。選挙集会は、コロナ禍のなかで、全面的に禁止されたり、200人以下に制限されたりし、かつてのロウソク集会のような大規模集会はできなくなった。それでも保守系の団体などは集会を強行することがあったが、集会への参加者は、携帯電話の基地局の交信記録から、その近くにいた人すべてが把握され、警察から警告の電話がかかってくるほどだった。 

デジタル社会であり、かつ総背番号制の韓国では、住民登録番号と銀行口座や健康保険などがすべて紐付けされ、たとえば年末調整の申告も、銀行口座の出納帳ですべての消費、金の使い道が把握されているため、自動的に所得税・住民税を計算している。新型コロナの感染者の追跡では、携帯電話の位置情報と交通カード、街頭カメラCCTVの映像で動線を割り出し、自宅隔離中に外出すれば自宅から50mも離れれば、警告の通知が届くというほどの監視社会だ。 

 「選挙のあと、政権が正常に移行するための憲法メカニズムは用意され、受け入れられているか?」という設問があるが、韓国の大統領で退任したあとに余生を平穏に過ごした人は一人としていない。新しい政権は成立と同時に前の政権の不正を暴くことに全力を挙げ、今行われている大統領選挙でも野党候補が、早くも現政権の積弊清算、政治報復を口にするほどだ。 

 「政府の機能」に関して「政府の権限行使に対してチェックアンドバランスの効果的なシステムがあるか」という設問があるが、文在寅政権では、検察の強大な力を削ぐために検察改革が推し進められ、政府高官の汚職捜査について検察の捜査権を剥奪して、高位公職者捜査処という新たな組織を作り、その長を大統領が任命することで、自身に捜査が及ばない体制を作った。検察は従来から、政権の前半には前政権の不正追及に全力をあげ、政権後半には、次期政権を意識して現政権の不正にも手をつける傾向があるなど、いずれにしても政権側に忖度する傾向が強い。 

野党候補の疑惑については過去の捜査で嫌疑なしとされたものでも再捜査するほどの執念を示すのに、政権や与党が絡んだ事件や疑惑については捜査を遅らせるか、起訴されても裁判がいっこうに始まらないケースが多い。曺国(チョ・グク)元法務部長官の文書偽造事件や慰安婦団体理事長・尹美香(ユン・ミヒャン)議員の公金横領事件、秋美愛(チュ・ミエ)前法務部長官の政治資金流用事件などは、裁判が行われている形跡さえない。 

さらに日本で法務大臣が検察捜査に指揮権を発動したら大きな問題となるが、韓国では秋美愛法務部長官時代のわずか4か月の間に3回も指揮権を発動し、捜査を干渉、妨害した。 

政府の機能は十分に情報にアクセスできるほどオープンで透明か?」という設問がある。朴槿恵前大統領以上に「不通(プルトン)」といわれる文大統領は、一年に1回か2回しか記者会見をせず、メディアが直接質問する機会はほとんどない。一方、日本は閣僚である官房長官が朝夕、記者会見に立ち、首相も何か懸案があったらすぐに記者の前に姿を見せ、マイクに直接答える。どちらに透明性があり、説明責任を果たしているかは明らかだ。 

政治参加」のカテゴリーでは、「市民が法の下で平等に扱われているか。特定の団体や個人が法の執行を免れることはないか」という設問がある。セクハラの告発を受けて自殺した朴元淳前ソウル市長の時代、左派系の何百・何千という市民組織や市民団体に補助金や委託金の名目で10年間に総額1兆ウォン(940億円)の市の予算が使われ、ソウル市は市民団体のATM(自動現金支払機)かと言われたほどだった。 

朝鮮日報21/9/14「10年間で1兆ウォン、市民団体のATMに転落したソウル市」> 

市民運動出身の左派系の政治家が抱える深い闇である。左派政権の人々といえば、朴市長も文大統領も、思想的には北朝鮮との関係が深いが、彼らが北朝鮮の人権問題について問題にしたことはなく、同じ民族の同胞たちが北朝鮮独裁政権の圧制下でどのように暮らしているのかということにはほとんど関心がないように見える。すぐ隣の国の同胞の暮らしや人権状況には何の援助の手も差しのべることなく、自らは「完全の民主主義」だと自慢することなど、偽善・欺瞞も甚だしいというしかない。

 3月9日の大統領選挙に向けて、選挙戦も終盤に入った。与野党の候補とも、互いの配偶者や家族を巻き込んで泥沼のスキャンダル合戦に陥っていて、もはや不人気ぶりを争う選挙といわれる。日本より上を行く「完全な民主主義」国かどうかは知らないが、韓国の民主主義の実質を厳しく問いただす選挙となるだろう。