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なるの台本置き場

【男1:女1】眠りのクラヴァット

2022.02.16 14:00

男1:女1/時間目安30分



【題名】

眠りのクラヴァット

(ねむりのクラヴァット)



【登場人物】

荒木麻琴(あらきまこと):仕事が出来る上司。

田中春音(たなかはるね):入社二年目。



(以下をコピーしてお使い下さい)


『眠りのクラヴァット』作者:なる

https://nalnovelscript.amebaownd.com/posts/32391744

荒木麻琴(男):

田中春音(女):




-------- ✽ --------






001 麻琴M:朝目が覚めて最初に目に入るのは、何故か君の面影を感じる会社の部下。月も太陽もいないベッドの中でそっと彼女の頬を撫でる。……君の頬はもう少し熱かったはずなのに。



(間)



002 春音M:朝目が覚めて最初に目に入るのは、日が昇る前の薄暗い空。揺れるカーテンの奥には大きな鏡の前でネクタイを締める会社の上司。……アイロンのかかったシャツにネクタイを締める姿はいつでも綺麗だった。



003 麻琴:あぁ……おはよう。


004 春音:おはようございます。……今何時ですか。


005 麻琴:5時。まだ寝れるよ。


006 春音:……相変わらず朝早いですね。


007 麻琴:仕事が山積みだからね。少しでも早く行きたくて。


008 春音:そっか。


009 麻琴:まだ寝てて大丈夫だから。ほら目瞑って。


010 春音:……今日はちゃんと寝れました?


011 麻琴:うん。


012 春音:あの夢、見なかった?


013 麻琴:……うん。


014 春音:見たんだ。


015 麻琴:見なかったって。


016 春音:さっきの間(ま)は、嘘。


017 麻琴:……本当に大丈夫だから。この時期はいつもこんな感じだし。


018 春音:時期?……あぁ。


019 春音M:ふとカレンダーに目をやると

赤い丸がついている日がある。一年に一度、記念日でも何でもない日。愛情が哀愁に変わった日。


020 麻琴:……そんな顔しないで。


021 春音:心配してるんです、私は。


022 麻琴:ありがとうね。……ほら、仕事行く支度しなきゃ。


023 春音:今日は絶対定時で上がってくださいね。


024 麻琴:え?


025 春音:夕飯は家で食べます。私作るんで心配しなくていいです。それでゆっくりお風呂入って早めに寝ます。いいですか。


026 麻琴:え……っと……。


027 春音:返事は。


028 麻琴:わかった。定時上がりね。任せて。よし、じゃあお先に。行ってきます。


029 春音:行ってらっしゃい。


030 麻琴:また後でね。


031 春音:はい。


032 麻琴:ふふ、寝癖凄いよ。じゃ。



033 春音M:そう言い残して彼は家を後にする。私と彼の間には踏み込めない線がある。その線を越える許可を彼はくれない。







034 麻琴:タナカ、オグラ商事との打ち合わせの資料、作り終わってる?


035 春音:終わってます。これです。


036 麻琴:ちょっと見せて。……(資料を確認しながら)んー……タナカー。


037 春音:どうかしましたか?


038 麻琴:ここの部分担当したの誰?


039 春音:私です。


040 麻琴:今回の向こうの担当者、サイトウさんだったよね?それなら4ページ目のこの部分を先に持ってくる方がいいかも。あの人利益を重視するタイプだから。


041 春音:分かりました。


042 麻琴:よろしく。



043 春音M:彼は短く返事をするとまた手元の資料に目を落とした。鳴り止まない電話を上手く部下に振り分けて処理していく。仕事の出来るしっかり者。……そんな彼が抱える重たい影に触れたのは、私が彼の元に配属された2年前の夏の終わりのことだった。







【過去】



044 麻琴:タナカ。


045 春音:部長。お疲れ様です。


046 麻琴:お疲れ。どう?仕事終わった?


047 春音:あと少し、というところです。


048 麻琴:そう。どれ?


049 春音:この入力作業と、あとこの資料をまとめるだけです。


050 麻琴:そう。じゃあこれ貰うね。


051 春音:いや、それは申し訳ないです。部長、もう仕事終わってますよね?


052 麻琴:新人を置いて帰るほど冷たくないかな。


053 春音:それならせめてこちらを……。


054 麻琴:入力作業は新人の仕事。……コーヒーとこの資料、交換で。


055 春音:……これお好きなんですか?


056 麻琴:え?


057 春音:このコーヒー、売ってるスーパーが限られてるんです。だからわざわざ買いに行くくらいお好きなのかと。


058 麻琴:あ、そうなの。……知らなかった。


059 春音:この味がお好きなわけでは無いんですね。


060 麻琴:うん。……知り合いが好きで。


061 春音:恋人ですか?


062 麻琴:えっ、


063 春音:部長の顔が少し緩んだので、そうかなと。


064 麻琴:……そう。恋人。……恋人、だった人。


065 春音:……だった、人、ですか。


066 麻琴:その話聞く?


067 春音:あー……私が聞いてもいい話なら。


068 麻琴:ちょっと重たいけどいい?


069 春音:いいですよ。


070 麻琴:……高校の同級生だった。高校2年生の時だったかなぁ。文化祭で告白して。それで付き合ったんだけど、元々試験の順位とか競ってた相手だったから、こう、カップルっていうよりも、いいパートナーって感じが強かったんだ。


071 春音:へぇ、なんかいいですね、そういうの。


072 麻琴:でしょ?……大学も同じで学部も同じ。あいつ超顔が綺麗でさ?まぁ俺もこの顔だし、お似合いだね〜とか言われていたわけ。


073 春音:あぁ……はぁ……。


074 麻琴:何、その顔。


075 春音:いや、なんでも。部長もそういう冗談言うんだなって。


076 麻琴:俺のことなんだと思ってるの?


077 春音:仕事が出来る、冗談とか好きじゃないタイプ?


078 麻琴:あはは、よく言われる。仕事人間で冷たいって部下に言われたことあるし。


079 春音:凄い失礼なやつですね。


080 麻琴:酒の席だったし気にしてない。そいつもかなり酔ってたしね。


081 春音:……そうですか。


082 麻琴:なんでタナカが怒ってるの。……話戻すね。さっき言った通り、色んな事を一緒に乗り越えてきた人だったから、なんとなく、この人とこの先もいるものだと思ってたんだ。


083 春音:もしかして……。


084 麻琴:……大学を卒業する前に死んだ。……事故でさ。その日も今日みたいに星がよく見える夜でね。……その時も飲んでたな、このコーヒー。


085 春音:部長……。


086 麻琴:あはは……コーヒー1つでこんなに思い出すんだなぁ……未練タラタラだ。あはは。……もう十年経つのに。


087 春音:そんなに強がらなくても大丈夫ですよ。


088 麻琴:え?


089 春音:なんか無理して笑ってるから。……別に言いふらしたりしませんし、泣いて下さい。


090 麻琴:泣かないよ。


091 春音:なら命令したらいいじゃないですか。私部下なんで、上司の命令には従いますから。見るなと言われれば見ませんし。


092 麻琴:あはは、何それ。俺は大丈夫だって、


093 春音:……もう涙、零れてるじゃないですか。


094 麻琴:えっ……あれ、ほんとだ。なんでだろ、えっと。


095 春音:……私ちょっとそこで夜食買ってきますね。


096 麻琴:……。


097 春音:……部長?


098 麻琴:……あっ、ごめん、その。


099 春音:……なんですか?


100 麻琴:えっ、と。


101春音:ちゃんと言ってください。


102 麻琴:……ご、ごめん!その、何でもない。


103 春音:隣失礼しますね。


104 麻琴:え、タナカ何して……。


105 春音:ほら、これなら見えないですし。思う存分泣いて下さい。今私何も聞こえないんで。


106 麻琴M:そういってタナカはどこからか取り出したイヤホンをして俺に背を向けて座った。


107 麻琴:あはは、何それ……意味わかんない。


108 春音M:この日を境に私たちの関係は少しずつ変わっていった。彼の秘密に触れる度に、彼が秘密に蝕まれる姿を見る度に、私は彼の深い沼に少しずつ堕ちていった。







【麻琴の家】



109 麻琴:タナカー。


110 春音:なんですか、部長。


111 麻琴:なんかヤダな。マコトって呼んでよ。家でまで部長って呼ばれたくない。


112 春音:そんな事言われても……。


113 麻琴:じゃあ俺もハルネって呼ぶからさ。どう?


114 春音:嫌です。付き合ってるとかならまだしも、上司を名前で呼ぶ人がいますか?


115 麻琴:ハルネが最初って事で。


116 春音:はぁ……嫌です。


117 麻琴:俺も嫌です。


118 春音:私出ていきますよ?


119 麻琴:それは……ダメ。


120 春音:そうですよね。マコトさん、私がいないとまともに寝れないですもんね。


121 麻琴:……うるさい。


122 春音:3時寝の5時起き?


123 麻琴:それは!……二度寝するから。


124 春音:目の下のクマは?


125 麻琴:それは……なんか隠せる化粧品があるって聞くから、


126 春音:寝不足でフラフラするのは?


127 麻琴:エナドリでなんとか……。


128 春音:……ふふ。


129 麻琴:何?


130 春音:マコトさんってほんと、私がいないとダメなんですね。


131 麻琴:それで家賃も光熱費も一切掛からずに生活出来てるんだから、ね。


132 春音:あれ〜?私家賃ちゃんと渡してますよね?


133 麻琴:あぁ……それはそうだね。


134 春音:私が毎月渡してる家賃どうしてるんですか〜?


135 麻琴:ちゃんと家賃に当ててるよ。


136 春音:本当は?


137 麻琴:だから家賃に、


138 春音:本当は?


139 麻琴:……タナカの退職金に。


140 春音:は?


141 麻琴:迷惑料としてこの同居が終わったら返そうと。


142 春音:何してるんですか、部長。


143 麻琴:だから部長は辞めてって、


144 春音:話し逸らさない。……来月から食費は全額私が持ちますね。


145 麻琴:それはダメ。


146 春音:何でですか?


147 麻琴:えーっと、おやつとか買えなくなっちゃう。


148 春音:子供ですか。


149 麻琴:そう、俺子供だから、


150 春音:本当のところはどうなんですか?


151 麻琴:……っ……。


152 春音:黙ってちゃ分かりません。


153 麻琴:だって、申し訳ないだろ。職場の上司と住むのだって色々疲れるだろうし。それに……別に付き合ってる訳じゃないし。


154 春音:じゃあ付き合います?


155 麻琴:うーん。


156 春音:そんな悲しそうな顔しないで下さいよ。今のは私が悪かったです。


157 麻琴:……タナカはそっちの方が都合いい?


158 春音:別に私はどっちでもいいですけど。……でも、不思議な関係だなとは思ってますよ。まさかソフレが本当に添い寝するだけの関係だとは思わなかったです。


159 麻琴:そ、ふれ?


160 春音:添い寝フレンド。知りません?


161 麻琴:知らない。……ジェネレーションギャップかぁ。


162 春音:そうかもしれないですね。……まぁ、私はこの変な関係、案外気に入ってるので別にこのままでいいですよ。


163 麻琴:……ふふ。


164 春音:何かおかしいこと言いました?


165 麻琴:別に?……似てるなって、思っただけ。


166 春音:誰に?


167 麻琴:んー、内緒。


168 春音:何ですかそれ。教えてくださいよ。


169 麻琴:教えない。さてと、仕事の支度しなきゃ。


170 春音:あれ、今日休暇促進日じゃ?


171 麻琴:そうだね。


172 春音:仕事行くんですか?


173 麻琴:うん。


174 春音:休めって言ってた張本人じゃないですか。


175 麻琴:でも促進ってだけで強制じゃないし。


176 春音:ダメです。今日は休み。


177 麻琴:いや、でも。


178 春音:今から人事にメールしちゃおうかな〜。


179 麻琴:それはダメ!


180 春音:じゃあ休んでください。


181 麻琴:……分かった。


182 春音:あ、もちろんパソコン開くのもナシですからね。


183 麻琴:えっ、


184 春音:はぁ……。どこまで仕事人間なんですか。


185 麻琴:そんな呆れた目を向けないで。


186 春音:じゃあ、今から昼寝しますよ。


187 麻琴:俺が三大欲求の中で一番嫌いなものをそんな満面の笑みで提示してこないで?


188 春音:でもまたクマ出来てますもん。


189 麻琴:それは……。


190 春音:大丈夫ですよ、寝かしつけてあげますから。


191 麻琴:それでほんとに寝かしつけられちゃうから怖いんだよなぁ。


192 春音:年の離れた妹がいるんで寝かしつけは得意分野です。先に布団入って待ってて下さい。


193 麻琴:はいはい。……はぁ。



(間)



194 春音:あ、ちゃんと入ってる。偉いじゃないですか。


195 麻琴:ハルネ様の仰せのままにー。


196 春音:思ってもいない事は言わなくていいです。


197 麻琴:ん、なんかいい匂いがする。


198 春音:知り合いに調香師がいるんです。マコトさんの事話したら、寝る時にってアロマをくれて。ちょっと試してみようかと。


199 麻琴:なんか落ち着く匂いだね……。


200 春音:効果ありそうですね。良かった。


201 麻琴:ふふ……ありがとう、ハルネ。


202 春音:はいはい、そういう顔を向けないでくださいねー。目瞑ってください。


203 麻琴:……。


204 春音:見つめたりして、どうしたんですか?


205 麻琴:んー?やっぱり似てるなって。


206 春音:だから、誰にですか。


207 麻琴:あの人。


208 春音:……。


209 麻琴:どうしたの、そんな豆鉄砲くらったみたいな顔して。


210 春音:さっきは教えてくれなかったのに、今は教えてくれるんだなという驚きと、似ている相手がその、


211 麻琴:死んだ恋人だって事?


212 春音:……そう。


213 麻琴:ふふ。だって何となく気まずいじゃん?死んでから寝れなくなるくらい未練タラタラな相手と自分の部下が似てるって。


214 春音:うーん……まぁ。


215 麻琴:いい歳した大人がさ、何やってんだって感じだよね。


216 春音:マコトさん。


217 麻琴:まだ若い女の子捕まえてほんと何してんだろ。ごめんね。こんなおじさんに付き合わせて。


218 春音:マコトさんストップ。……そのごめんは受け取らない。いらない。……あと、マコトさんはおじさんじゃなくてお兄さん。マコトさんがおじさんだと、専務はおじいちゃんになっちゃう。


219 麻琴:……タナカはさ、何でそんなに優しくしてくれるの?


220 春音:どうしたんです急に。


221 麻琴:こんなよく分かんない状況に付き合う必要ないんだよ。断ってもいいのに、どうして?


222 春音:まぁ私に彼氏とかがいるなら最初から断りますけど別にいないですし……それに、私がここに居たいから今ここにいるんで。


223 麻琴:……そうか。


224 春音:私、マコトさんがネクタイを締めてる姿、見るの好きなんですよね。


225 麻琴:何それ。


226 春音:綺麗ですよ、ネクタイを結んでる時のマコトさん。


227 麻琴:……そう。


228 春音:同じ家にいないとネクタイ結んでる姿なんて見れないですから。


229 麻琴:それは……そうだね。


230 春音:だからマコトさんは気にしなくて大丈夫です。辞めたくなったらそっと出ていきますから。


231 麻琴:それはちゃんと事前に教えてよ。


232 春音:出ていく予定当分ないので大丈夫ですよ。……ほら、お喋りおしまい。目瞑って下さい。


233 麻琴:はいはい、分かった。おやすみ、ハルネ。







【深夜】



<麻琴がリビングに>


234 春音:あれ、どうしたんですか。


235 麻琴:……目が覚めちゃって。


236 春音:何かあったかいものでも飲みます?


237 麻琴:うん。


238 春音:ココアでもどうですか?


239 麻琴:いいね……ココアなんて最後に飲んだのいつぶりだろう。


240 春音:そんなに珍しいものですか?


241 麻琴:あんまり甘いの飲まなかったから。


242 春音:あれ、マコトさん甘いの苦手でしたっけ?


243 麻琴:ううん。俺じゃなくて、彼女が。


244 春音:あぁ……なるほど。マコトさんは?甘いもの好き?


245 麻琴:うん……すき。


246 春音:じゃあ作りますね。マシュマロ乗せます?


247 麻琴:マシュマロ?


248 春音:知りません?マシュマロ乗せたココア。


<春音が携帯で写真を見せる>


249 麻琴:……あぁ〜。見た事ある。やった事ないけど。


250 春音:すごい簡単に出来るんですよ。ちょっと待っててください。



(間)



251 麻琴:なんかこういうの、憧れだった。


252 春音:ん?何が?


253 麻琴:こういう、海外の映画に出て来そうな飲み物を家で飲むの。


254 春音:……へぇ。


255 麻琴:首傾げないでよ。


256 春音:私は飲みたいと思ったら自分で作るんで。


257 麻琴:ほんと器用だよね。


258 春音:仕事の出来る上司にそう言っていただけて光栄です。……はい、出来ましたよ。


259 麻琴:そんな言い方しなくても。……ありがとう。


<麻琴:ココアを飲む>


260 麻琴:ん!うまっ……!


261 春音:お口にあったようで何よりです。


262 麻琴:……ふふ。


263 春音:どうかしました?


264 麻琴:いや、この時期をさ、誰かと過ごすのって初めてだったから。なんか、その、安心するなって。


265 春音:……そうですか。


266 麻琴:毎年この時期は仕事無理やり詰めたり、部屋に引きこもったりしてたから。誰かが傍にいるっていいね。


267 春音:……。


268 麻琴:ハルネ?


269 春音:……他の誰かじゃなくて良かったです。


270 麻琴:どういう事?


271 春音:それ私に説明させるんですか?ひっどーい!


272 麻琴:あはは、ごめんごめん。……ごめん。


273 春音:別にいいです。


274 麻琴:あーあ!元気出た!……これじゃどっちが年上か分からないね。


275 春音:いいじゃないですか。マコトさんは人に甘える事を覚えた方がいいです。


276 麻琴:弟にも同じ事言われた。


277 春音:マコトさんの弟?


278 麻琴:そう。3つ下なんだけどね。あいつが死んで少し経った頃に言われた。『兄ちゃんは人に甘える事を覚えた方がいい。いつか自力で立てなくなる日が来るぞ』ってね。


279 春音:うんうん。


280 麻琴:そんなに勢いよく頷かなくても。


281 春音:実際私もそう思いますし。


282 麻琴:タナカまでそういうこと言うのか。


283 春音:私、弟さんと仲良くなれる気がします。


284 麻琴:あはは、良い友達になれるかもね。


285 春音:じゃあ今度紹介して下さいね。


286 麻琴:機会があったらね。


287 春音:……寝れそうですか?


288 麻琴:……うん。寝るチャレンジしてみようかな!……一緒に寝てくれる?


289 春音:あはは、本当に、マコトさんは私がいないとダメですね。







290 麻琴M:朝目が覚めて最初に目に入るのは、君があけた穴を埋めようと必死になってくれる会社の部下。彼女の体温で暖まったベッドの中でそっと彼女の頬を撫でる。……君の頬の熱さはどんなだったかな。



(間)



291 春音M:朝目が覚めて最初に目に入るのは、貴方みたいに赤くなった空。いつも通り大きな鏡の前には今日着けるネクタイを選んでいる会社の上司。……慣れた手つきでネクタイを締めるその姿は、今日も美しい。



292 麻琴:おはよう。


293 春音:おはようございます。……今何時ですか。


294 麻琴:5時。まだ寝れるよ。


295 春音:……相変わらず朝早いですね。


296 麻琴:仕事が山積みだからね。早く行きたくて。


297 春音:そっか。……今日はちゃんと寝れた?


298 麻琴:うん。


299 春音:あの夢、見なかった?


300 麻琴:うん。


301 春音:ほんとに?


302 麻琴:うん、見てない。


303 春音:寝付き悪かったですか?


304 麻琴:お見通しか。


305 春音:まぁ毎朝見てればある程度は。……あれ、今日土曜ですよね、仕事行くんですか?


306 麻琴:行くよ。


307 春音:急ぎですか?


308 麻琴:別に急ぎじゃないけど……。


309 春音:じゃあほら、こっち来て。


310 麻琴:……何?


311 春音:もう少し寝ますよ。


312 麻琴:もう朝だよ。


313 春音:まだ寝れるって言ったのそっちでしょう。それに、どうせろくに寝てないだろうし。


314 麻琴:そんなことない。(※被せ)


315 春音:(※被せ)そんなことある。……隈すごいですよ。


316 麻琴:……っ。


317 春音:もうそのままでいいですから。少しだけ。


318 麻琴:でも。


319 春音:……マコトさん。


320 麻琴:……敵わないなぁ。



321 春音M:少し呆れたように笑って、部屋着に戻る彼。子供をあやす様に少し背中を叩いているとあっという間にスヤスヤと寝息が聞こえてくる。



322 春音:……私にしておけばいいのに。



323 春音M:この小さな独り言は、彼の寝息と共に、今日も夢の中に溶けた。



(終)