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なるの台本置き場

【男2】眠りのリュネット

2022.03.11 13:00

男2/時間目安30分



【題名】

眠りのリュネット

(ねむりのりゅねっと)



【登場人物】

荒木麻琴(あらきまこと):仕事が出来る上司。

田中陽翔(たなかはると):入社二年目。



(以下をコピーしてお使い下さい)


『眠りのリュネット』作者:なる

https://nalnovelscript.amebaownd.com/posts/32400239

荒木麻琴(男):

田中陽翔(男):




-------- ✽ --------






001 麻琴M:朝目が覚めて最初に目に入るのは、何処か君の面影を感じる会社の部下。月も太陽もいないベッドの中でそっと彼の頬を撫でる。……君の頬はもう少し熱かったはずなのに。



(間)



002 陽翔M:朝目が覚めて最初に目に入るのは、日が昇る前の薄暗い空。揺れるカーテンの奥にはコーヒーを飲みながら会議で使うであろう資料を確認している会社の上司。……少し下がった眼鏡を直す仕草がいつでも綺麗だった。



003 麻琴:あぁ……おはよう。


004 陽翔:おはようございます。……今何時ですか。


005 麻琴:5時。まだ寝れるよ。


006 陽翔:……相変わらず朝早いですね。朝から資料確認ですか。


007 麻琴:仕事が山積みだからね。空いた時間も無駄にしたくなくて。


008 陽翔:そっか。


009 麻琴:まだ寝てて大丈夫だから。ほら目瞑って。


010 陽翔:……今日はちゃんと寝れました?


011 麻琴:うん。


012 陽翔:あの夢、見なかった?


013 麻琴:……うん。


014 陽翔:見たんだ。


015 麻琴:見なかったって。


016 陽翔:さっきの間(ま)は、嘘。


017 麻琴:……本当に大丈夫だから。この時期はいつもこんな感じだし。


018 陽翔:時期?……あぁ。


019 陽翔M:ふとカレンダーに目をやると赤い丸がついている日がある。一年に一度、記念日でも何でもない日。愛情が哀愁に変わった日だ。


020 麻琴:……そんな顔しないで。


021 陽翔:心配してるんです、俺は。


022 麻琴:ありがとうね。……そろそろ仕事行かなきゃ。


023 陽翔:今日は絶対定時で上がってくださいね。


024 麻琴:え?


025 陽翔:夕飯は家で食べます。俺作るんで心配しなくていいです。それでゆっくりお風呂入って早めに寝ます。いいですか。


026 麻琴:え……っと……。


027 陽翔:返事は。


028 麻琴:わかった。定時上がりね。任せて。よし、じゃあお先に。行ってきます。


029 陽翔:行ってらっしゃい。


030 麻琴:また後で。


031 陽翔:はい。


032 麻琴:ふふ、寝癖凄いよ。じゃ。



033 陽翔M:そう言い残して彼は家を後にする。俺とあの人の間には踏み込めない線がある。その線を越える許可を彼はくれない。







034 麻琴:タナカ、オグラ商事との打ち合わせの資料、作り終わってる?


035 陽翔:終わってます。これです。


036 麻琴:ちょっと見せて。……(資料を確認しながら)んー……タナカー。


037 陽翔:どうかしましたか?


038 麻琴:ここの部分担当したの誰?


039 陽翔:僕です。


040 麻琴:今回の向こうの担当者、サイトウさんだったよね?それなら4ページ目のこの部分を先に持ってくる方がいいかも。あの人利益を重視するタイプだから。


041 陽翔:分かりました。


042 麻琴:よろしく。



043 陽翔M:彼は短く返事をするとまた手元の資料に目を落とした。鳴り止まない電話を上手く部下に振り分けて処理していく。仕事の出来るしっかり者。……そんな彼が抱える重たい影に触れたのは、俺が彼の元に配属された2年前の夏の終わりのことだった。







【過去】



044 麻琴:タナカ。


045 陽翔:部長。お疲れ様です。


046 麻琴:お疲れ。どう?仕事終わった?


047 陽翔:あと少し、というところです。


048 麻琴:そう。どれ?


049 陽翔:この入力作業と、あとこの資料をまとめるだけです。


050 麻琴:そう。じゃあこれ貰うね。


051 陽翔:いや、それは申し訳ないです。部長、もう仕事終わってますよね?


052 麻琴:新人を置いて帰るほど冷たくないかな。


053 陽翔:それならせめてこちらを……。


054 麻琴:入力作業は新人の仕事。……コーヒーとこの資料、交換で。


055 陽翔:……これお好きなんですか?


056 麻琴:え?


057 陽翔:このコーヒー、売ってるスーパーが限られてるんです。だからわざわざ買いに行くくらいお好きなのかと。


058 麻琴:あ、そうなの。……知らなかった。


059 陽翔:この味がお好きなわけでは無いんですね。


060 麻琴:うん。……知り合いが好きで。


061 陽翔:恋人ですか?


062 麻琴:えっ、


063 陽翔:部長の顔が少し緩んだので、そうかなと。


064 麻琴:……そう。恋人。……恋人、だった人。


065 陽翔:……だった、人、ですか。


066 麻琴:その話聞く?


067 陽翔:あー……俺が聞いてもいい話なら。


068 麻琴:ちょっと重たいけどいい?


069 陽翔:いいですよ。


070 麻琴:……高校の同級生だった。高校2年生の時だったかなぁ。文化祭で告白して。それで付き合ったんだけど、元々試験の順位とか競ってた相手だったから、こう、カップルっていうよりも、いいパートナーって感じが強かったんだ。


071 陽翔:へぇ、なんかいいっすね、そういうの。


072 麻琴:でしょ?……大学も同じで学部も同じ。あいつ超顔が綺麗でさ?まぁ俺もこの顔だし、お似合いだね〜とか言われていたわけ。


073 陽翔:あぁ……はぁ……。


074 麻琴:何、その顔。


075 陽翔:いや、なんでも。部長もそういう冗談言うんだなって。


076 麻琴:俺のことなんだと思ってる?


077 陽翔:仕事が出来る、冗談とか好きじゃないタイプ?


078 麻琴:あはは、よく言われる。仕事人間で冷たいって部下に言われたことあるし。


079 陽翔:凄い失礼なやつですね。


080 麻琴:酒の席だったし気にしてない。そいつもかなり酔ってたしね。


081 陽翔:……そうですか。


082 麻琴:なんでタナカが怒ってるの。……話戻すね。さっき言った通り、色んな事を一緒に乗り越えてきた人だったから、なんとなく、この人とこの先もいるものだと思ってたんだ。


083 陽翔:もしかして……。


084 麻琴:……大学を卒業する前に死んだ。……事故でさ。その日も今日みたいに星がよく見える夜でね。……その時も飲んでたな、このコーヒー。


085 陽翔:部長……。


086 麻琴:あはは……コーヒー1つでこんなに思い出すんだなぁ……未練タラタラだ。あはは。……もう十年経つのに。


087 陽翔:そんなに強がらなくても大丈夫ですよ。


088 麻琴:え?


089 陽翔:なんか無理して笑ってるから。……別に言いふらしたりしませんし、泣いて下さい。


090 麻琴:泣かないよ。


091 陽翔:なら命令したらいいじゃないですか。俺部下なんで、上司の命令には従いますから。見るなと言われれば見ませんし。


092 麻琴:あはは、何それ。俺は大丈夫だって、


093 陽翔:……もう涙、零れてるじゃないですか。


094 麻琴:えっ……あれ、ほんとだ。なんでだろ、えっと。


095 陽翔:……ちょっとそこで夜食買ってきますね。


096 麻琴:……。


097 陽翔:……部長?


098 麻琴:……あっ、ごめん、その。


099 陽翔:……なんですか?


100 麻琴:えっ、と。


101 陽翔:ちゃんと言ってください。


102 麻琴:……ご、ごめん!その、何でもない。


103 陽翔:隣失礼しますね。


104 麻琴:え、タナカ何して……。


105 陽翔:ほら、これなら見えないですし。思う存分泣いて下さい。今俺何も聞こえないんで。


106 麻琴M:そういってタナカはどこからか取り出したイヤホンをして俺に背を向けて座った。


107 麻琴:あはは、何それ……意味わかんない。



108 陽翔M:この日を境に俺たちの関係は少しずつ変わっていった。彼の秘密に触れる度に、彼が秘密に蝕まれる姿を見る度に、俺は彼の深い沼に少しずつ堕ちていった。







【麻琴の家】



109 麻琴:タナカー。


110 陽翔:なんですか、部長。


111 麻琴:なんかヤダな。マコトって呼んでよ。家でまで部長って呼ばれたくない。


112 陽翔:そんな事言われても……。


113 麻琴:じゃあ俺もハルトって呼ぶからさ。どう?


114 陽翔:嫌です。付き合ってるとかならまだしも、上司を名前で呼ぶ人がいますか?


115 麻琴:ハルトが最初って事で。


116 陽翔:はぁ……嫌です。


117 麻琴:俺も嫌です。


118 陽翔:俺出ていきますよ?


119 麻琴:それは……ダメ。


120 陽翔:そうですよね。マコトさん、俺がいないとまともに寝れないですもんね。


121 麻琴:……うるさい。


122 陽翔:3時寝の5時起き?


123 麻琴:それは!……二度寝するから。


124 陽翔:目の下のクマは?


125 麻琴:それは……なんか隠せる化粧品があるって聞くから、


126 陽翔:寝不足でフラフラするのは?


127 麻琴:エナドリでなんとか……。


128 陽翔:……ふふ。


129 麻琴:何?


130 陽翔:マコトさんってほんと、俺がいないとダメなんですね。


131 麻琴:それで家賃も光熱費も一切掛からずに生活出来てるんだから、ね。


132 陽翔:あれ〜?俺家賃ちゃんと渡してますよね?


133 麻琴:あぁ……それはそうだね。


134 陽翔:俺が毎月渡してる家賃どうしてるんですか〜?


135 麻琴:ちゃんと家賃に当ててるよ。


136 陽翔:本当は?


137 麻琴:だから家賃に、


138 陽翔:本当は?


139 麻琴:……タナカの退職金に。


140 陽翔:は?


141 麻琴:迷惑料としてこの同居が終わったら返そうと。


142 陽翔:何してるんですか、部長。


143 麻琴:だから部長は辞めてって、


144 陽翔:話し逸らさない。……来月から食費は全額俺が持ちますね。


145 麻琴:それはダメ。


146 陽翔:何でですか?


147 麻琴:えーっと、おやつとか買えなくなっちゃう。


148 陽翔:子供ですか。


149 麻琴:そう、俺子供だから、


150 陽翔:本当のところはどうなんですか?


151 麻琴:……っ……。


152 陽翔:黙ってちゃ分かりません。


153 麻琴:だって、申し訳ないだろ。職場の上司と住むのだって色々疲れるだろうし。それに……そういう仲じゃないし。


154 陽翔:じゃあ付き合います?


155 麻琴:それは……その。


156 陽翔:そんな悲しそうな顔しないで下さいよ。今のは俺が悪かったです。


157 麻琴:……タナカはそっちの方が都合いい?


158 陽翔:別に俺はどっちでもいいですけど。……でも、不思議な関係だなとは思ってますよ。まさか上司とソフレになるとは思ってなかったです。


159 麻琴:そ、ふれ?


160 陽翔:添い寝フレンド。知りません?


161 麻琴:知らない。……ジェネレーションギャップかぁ。


162 陽翔:そうかもしれないですね。……まぁ、俺はこの変な関係、案外気に入ってるので別にこのままでいいですよ。


163 麻琴:……ふふ。


164 陽翔:何かおかしいこと言いました?


165 麻琴:別に?……似てるなって、思っただけ。


166 陽翔:誰に?


167 麻琴:んー、内緒。


168 陽翔:何ですかそれ。教えてくださいよ。


169 麻琴:教えない。さてと、仕事の支度しなきゃ。


170 陽翔:あれ、今日休暇促進日じゃ?


171 麻琴:そうだね。


172 陽翔:仕事行くんですか?


173 麻琴:うん。


174 陽翔:休めって言ってた張本人じゃないですか。


175 麻琴:でも促進ってだけで強制じゃないし。


176 陽翔:ダメです。今日は休み。


177 麻琴:いや、でも。


178 陽翔:今から人事にメールしちゃおうかな〜。


179 麻琴:それはダメ!


180 陽翔:じゃあ休んでください。


181 麻琴:……分かった。


182 陽翔:あ、もちろんパソコン開くのもナシですからね。


183 麻琴:えっ、


184 陽翔:はぁ……。どこまで仕事人間なんですか。


185 麻琴:そんな呆れた目を向けないで。


186 陽翔:じゃあ、今から昼寝しますよ。


187 麻琴:俺が三大欲求の中で一番嫌いなものをそんな満面の笑みで提示してこないで?


188 陽翔:でもまたクマ出来てますもん。


189 麻琴:それは……。


190 陽翔:大丈夫ですよ、寝かしつけてあげますから。


191 麻琴:それでほんとに寝かしつけられちゃうから怖いんだよなぁ。


192 陽翔:年の離れた妹がいるんで寝かしつけは得意分野です。先に布団入って待ってて下さい。


193 麻琴:はいはい。……はぁ。



(間)



194 陽翔:あ、ちゃんと入ってる。偉いじゃないですか。


195 麻琴:ハルト様の仰せのままにー。


196 陽翔:思ってもいない事は言わなくていいです。


197 麻琴:ん、なんかいい匂いがする。


198 陽翔:知り合いに調香師がいるんです。マコトさんの事話したら、寝る時にってアロマをくれて。ちょっと試してみようかと。


199 麻琴:なんか落ち着く匂いだね……。


200 陽翔:効果ありそうですね。良かった。


201 麻琴:ふふ……ありがとう、ハルト。


202 陽翔:はいはい、そういう顔を向けないでくださいねー。目瞑ってください。


203 麻琴:……。


204 陽翔:見つめたりして、どうしたんですか?


205 麻琴:んー?やっぱり似てるなって。


206 陽翔:だから、誰にですか。


207 麻琴:あの人。


208 陽翔:……。


209 麻琴:どうしたの、そんな豆鉄砲くらったみたいな顔して。


210 陽翔:さっきは教えてくれなかったのに、今は教えてくれるんだなという驚きと、似ている相手がその、


211 麻琴:死んだ恋人だって事?


212 陽翔:……そう。だって、それに、異性だし。


213 麻琴:ふふ。だって何となく気まずいじゃん?死んでから寝れなくなるくらい未練タラタラな相手と自分の部下が似てるって。


214 陽翔:うーん……まぁ。


215 麻琴:いい歳した大人がさ、何やってんだって感じだよね。


216 陽翔:マコトさん。


217 麻琴:まだ若い子捕まえてほんと何してんだろ。ごめんね。こんなおじさんに付き合わせて。


218 陽翔:マコトさんストップ。……そのごめんは受け取らない。いらない。……あと、マコトさんはおじさんじゃなくてお兄さん。マコトさんがおじさんだと、専務はおじいちゃんになっちゃう。


219 麻琴:……タナカはさ、何でそんなに優しくしてくれるの?


220 陽翔:どうしたんです急に。


221 麻琴:こんなよく分かんない状況に付き合う必要ないんだよ。断ってもいいのに、どうして?


222 陽翔:まぁ俺に恋人とかがいるなら最初から断りますけど別にいないですし……それに、俺がここに居たいから今ここにいるんで。


223 麻琴:……そうか。


224 陽翔:俺、マコトさんが眼鏡してるの好きなんですよね。


225 麻琴:何それ。


226 陽翔:似合ってますよ。それに眼鏡直す仕草カッコイイし。


227 麻琴:……そう。


228 陽翔:外だと付けてないから。同じ家にいないと眼鏡姿見れないですし。


229 麻琴:それは……そうだね。


230 陽翔:だからマコトさんは気にしなくて大丈夫です。辞めたくなったらそっと出ていきますから。


231 麻琴:それはちゃんと事前に教えてよ。


232 陽翔:出ていく予定当分ないので大丈夫ですよ。……ほら、お喋りおしまい。目瞑って下さい。


233 麻琴:はいはい、分かった。おやすみ、ハルト。







【深夜】



<麻琴がリビングに>


234 陽翔:あれ、どうしたんですか。


235 麻琴:……目が覚めちゃって。


236 陽翔:何かあったかいものでも飲みます?


237 麻琴:うん。


238 陽翔:ココアでもどうですか?


239 麻琴:いいね……ココアなんて最後に飲んだのいつぶりだろう。


240 陽翔:そんなに珍しいものですか?


241 麻琴:あんまり甘いの飲まなかったから。


242 陽翔:あれ、マコトさん甘いの苦手でしたっけ?


243 麻琴:ううん。俺じゃなくて、彼女が。


244 陽翔:あぁ……なるほど。マコトさんは?甘いもの好き?


245 麻琴:うん……すき。


246 陽翔:じゃあ作りますね。マシュマロ乗せます?


247 麻琴:マシュマロ?


248 陽翔:知りません?マシュマロ乗せたココア。


<陽翔が携帯で写真を見せる>


249 麻琴:……あぁ〜。見た事ある。やった事ないけど。


250 陽翔:すごい簡単に出来るんですよ。ちょっと待っててください。



(間)



251 麻琴:なんかこういうの、憧れだった。


252 陽翔:ん?何が?


253 麻琴:こういう、海外の映画に出て来そうな飲み物を家で飲むの。


254 陽翔:……へぇ。


255 麻琴:首傾げないでよ。


256 陽翔:俺は飲みたいと思ったら自分で作るんで。


257 麻琴:ほんと器用だよね。


258 陽翔:仕事の出来る上司にそう言っていただけて光栄です。……はい、出来ましたよ。


259 麻琴:そんな言い方しなくても。……ありがとう。


<麻琴:ココアを飲む>


260 麻琴:ん!うまっ……!


261 陽翔:お口にあったようで何よりです。


262 麻琴:……ふふ。


263 陽翔:どうかしました?


264 麻琴:いや、この時期をさ、誰かと過ごすのって初めてだったから。なんか、その、安心するなって。


265 陽翔:……そうですか。


266 麻琴:毎年この時期は仕事無理やり詰めたり、部屋に引きこもったりしてたから。誰かが傍にいるっていいね。


267 陽翔:……。


268 麻琴:ハルト?


269 陽翔:……他の誰かじゃなくて良かったです。


270 麻琴:どういう事?


271 陽翔:それ俺に説明させるんですか?ひっでー!


272 麻琴:あはは、ごめんごめん。……ごめん。


273 陽翔:別にいいです。


274 麻琴:あーあ!元気出た!……これじゃどっちが年上か分からないね。


275 陽翔:いいじゃないですか。マコトさんは人に甘える事を覚えた方がいいです。


276 麻琴:弟にも同じ事言われた。


277 陽翔:マコトさんの弟?


278 麻琴:そう。3つ下なんだけどね。あいつが死んで少し経った頃に言われた。『兄ちゃんは人に甘える事を覚えた方がいい。いつか自力で立てなくなる日が来るぞ』ってね。


279 陽翔:うんうん。


280 麻琴:そんなに勢いよく頷かなくても。


281 陽翔:実際俺もそう思いますし。


282 麻琴:タナカまでそういうこと言うのか。


283 陽翔:俺、弟さんと仲良くなれる気がします。


284 麻琴:あはは、良い友達になれるかもね。


285 陽翔:じゃあ今度紹介して下さいね。


286 麻琴:機会があったらね。


287 陽翔:……寝れそうですか?


288 麻琴:……うん。寝るチャレンジしてみようかな!……一緒に寝てくれる?


289 陽翔:あはは、本当に、マコトさんは俺がいないとダメですね。







290 麻琴M:朝目が覚めて最初に目に入るのは、君があけた穴を埋めようと必死になってくれる会社の部下。彼の体温で暖まったベッドの中でそっと彼の頬を撫でる。……君の頬の熱さはどんなだったかな。



(間)



291 陽翔M:朝目が覚めて最初に目に入るのは、貴方みたいに赤くなった空。テーブルにはいつも通りコーヒーを飲みながら資料を確認する会社の上司。……眼鏡を直すその姿は今日も美しい。



292 麻琴:おはよう。


293 陽翔:おはようございます。……今何時ですか。


294 麻琴:5時。まだ寝れるよ。


295 陽翔:……相変わらず朝早いですね。


296 麻琴:仕事が山積みだからね。早く行こうと思って。


297 陽翔:そっか。……今日はちゃんと寝れた?


298 麻琴:うん。


299 陽翔:あの夢、見なかった?


300 麻琴:うん。


301 陽翔:ほんとに?


302 麻琴:うん、見てない。


303 陽翔:寝付き悪かったですか?


304 麻琴:お見通しか。


305 陽翔:まぁ毎朝見てればある程度は。……あれ、今日土曜ですよね、仕事行くんですか?


306 麻琴:行くよ。


307 陽翔:急ぎですか?


308 麻琴:別に急ぎじゃないけど……。


309 陽翔:じゃあほら、こっち来て。


310 麻琴:……何?


311 陽翔:もう少し寝ますよ。


312 麻琴:もう朝だよ。


313 陽翔:まだ寝れるって言ったのそっちでしょう。それに、どうせろくに寝てないだろうし。


314 麻琴:そんなことない。(※被せ)


315 陽翔:(※被せ)そんなことある。……隈すごいですよ。


316 麻琴:……っ。


317 陽翔:ほら、眼鏡外して。少しだけ。


318 麻琴:でも。


319 陽翔:……マコトさん。


320 麻琴:……敵わないなぁ。



321 陽翔M:そう呆れた様に笑って素直に布団の中に潜り込む彼。子供をあやす様に少し背中を叩いているとあっという間にスヤスヤと寝息が聞こえてくる。



322 陽翔:……俺にしておけばいいのに。



323 陽翔M:この小さな独り言は、彼の寝息と共に、今日も夢の中に溶けた。



(終)