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『祝婚歌』と『祝魂歌』

2022.02.20 07:03

Facebook相田 公弘さん投稿記事 『祝婚歌』と『祝魂歌』

『祝婚歌』という詩に惹かれ、吉野弘さんという詩人を知りました。

(吉野さんが、結婚する姪御さんに書かれた詩。自分の奥さんへの気持ちもだぶらせて。)

私の大好きな北米インディアンの人たちの言葉(詩)の中にプエブロ族の古老の詩があります。

その詩は『今日は死ぬのにもってこいの日』というのですが、最近、谷川俊太郎さんが編纂された『祝魂歌』という詩集(色々な詩人の詩を集めてある)の中に、その詩が納められているのをみつけました。

「からだから解放された魂というものがあるのではないか、誰もが心の奥底でそれを知っているのではないか。もしそうだとしたら、魂の新しい旅立ちを祝うこともできるのではないか、それが残された者の嘆きを少しでも軽くすることができるのではないか。そう思ってこのアンソロジーを編みました。」『祝魂歌』あとがきより。

『祝婚歌』と『祝魂歌』と、2つの言葉の音の響きに惹かれました。

「婚」と「魂」 「祝」と「祝」、「歌」と「歌」で、片方は婚礼を祝う歌、片方は自分の「生と死」をみつめる古老の言葉ですが、なぜかどちらも心の同じところに響いてくる部分がありました。

古老の言葉の中に、『祝婚歌』の「なつかしさ」を感じました。

『祝婚歌』 吉野 弘

二人が睦まじくいるためには

愚かでいるほうがいい

立派すぎないほうがいい

立派すぎることは

長持ちしないことだと気付いているほうがいい

完璧をめざさないほうがいい

完璧なんて不自然なことだと

うそぶいているほうがいい

二人のうちどちらかが

ふざけているほうがいい

ずっこけているほうがいい

互いに非難することがあっても

非難できる資格が自分にあったかどうか

あとで疑わしくなるほうがいい

正しいことを言うときは

少しひかえめにするほうがいい

正しいことを言うときは

相手を傷つけやすいものだと

気付いているほうがいい

立派でありたいとか

正しくありたいとかいう

無理な緊張には

色目を使わず

ゆったり ゆたかに

光を浴びているほうがいい

健康で 風に吹かれながら

生きていることのなつかしさに

ふと胸が熱くなる

そんな日があってもいい

そして

なぜ胸が熱くなるのか

黙っていても

二人にはわかるのであってほしい

            吉野弘詩集(ハルキ文庫)より

『今日は死ぬのにもってこいの日』   プエブロ族の古老の言葉

今日は死ぬのにもってこいの日だ。

生きているものすべてが、私と呼吸を合わせている。

すべての声が、わたしの中で合唱している。

すべての美が、わたしの目の中で休もうとしてやって来た。  

あらゆる悪い考えは、わたしから立ち去っていった。

今日は死ぬのにもってこいの日だ。

わたしの土地は、わたしを静かに取り巻いている。

わたしの畑は、もう耕されることはない。

わたしの家は、笑い声に満ちている。

子どもたちは、うちに帰ってきた。

そう、今日は死ぬのにもってこいの日だ。

今日は死ぬのにもってこいの日(ナンシー・ウッド著 金関寿夫訳めるくまーる出版)より

※ナンシー・ウッドはプエブロの人々と30年近く交流し、その文化を吸収し、

言葉を伝えた人で、↑の詩を表題とした本が出ています。

谷川俊太郎さん編集の『祝魂歌』の中に↑の詩が入っている。)


http://www.midnightpress.co.jp/publish/book/071.htm 【魂の新しい旅立ちを祝うアンソロジー】より

谷川俊太郎編  フジ子・ヘミング装画 装丁/鈴木成一デザイン室

からだから解放された魂というものがあるのではないか、誰もが心の奥底でそれを知っているのではないか。もしそうだとしたら、魂の新しい旅立ちを祝うこともできるのではないか、それが残された者の嘆きを少しでも軽くすることができるのではないか。そう思ってこのアンソロジーを編みました。

このささやかな詩集が、生者への慰め、死者へのはなむけとなることを念じています。

(谷川俊太郎「あとがき」より)

今日は死ぬのにもってこいの日だ。生きているものすべてが、わたしと呼吸を合わせている。(略)

「今日は死ぬのにもってこいの日だ」より

(プエブロ族の古老・金関寿夫訳)

 21世紀を迎えて、大きな時代の変動に立ち会っている私たちにとり、言葉の、詩の力があらためて問われるときであると考えます。この『祝魂歌』が今を生きる私たちの心の底に語りかける意味は大きいと思われます。収録詩篇につきましても、古今東西の優れた詩篇を谷川俊太郎氏に選んでいただきました。魂のピアニスト、フジ子・ヘミング氏のご厚意により、装画を使わせていただくことになりました。そして、装丁は鈴木成一氏にお願いいたしました。読者の方にお手にとっていただき、さらにお手元においていただける内容となったと自負いたします。 

祝魂歌  目次

今日は死ぬのにもってこいの日だ プエブロ古老

ギーターンジャリ 一四二  タゴール

電車の窓の外は      高見順

柱時計      淵上毛銭

遺書       林芙美子

しぬまえにおじいさんのいったこと  谷川俊太郎

挽歌詩 陶淵明

ルバイヤート二、五 オマル・ハイヤーム

別れる練習をしながら 趙炳花

高井戸 大岡信

兵士の世代 石垣りん

展墓  阿川弘之

あけがたにくる人よ 永瀬清子

初めての児に   吉野弘

また来ん春……  中原中也

あられふりける  一 二 三好達治

その後のふり返り 室生犀星

最後の詩篇 ロベール・デスノス

花冷え 中村稔

ソネット第八一番  シェークスピア

モハメッド・シェアブの思い出に ウンガレッティ

たましい 川崎洋

オ母サン  草野心平

カ   まど・みちお

勧酒   于武陵

あーあ  天野忠

ユウレイノウタ 入沢康夫

Mに リンゲルナッツ

死よ、驕るなかれ ジョン・ダン

死者の唄 葬式の時うたう唄 チョンタル族古謡

あとがき   谷川俊太郎