希望の光
普通の人、尋常ではない話。すべてがインスピレーションです。
翻訳:斉藤 孝子
しかし、私たちは何も学んで来なかったのでは?と疑問に思うかもしれませんね。というのも、半世紀前の冷戦時代の只中、弊誌は、平和の希求を高らかに謳って創刊され、特に社会、政治、自然環境問題を啓発してきました。けれど半世紀後の今、戦争は今だに存在し、核紛争の可能性が、再びこの地球を脅かしています。北朝鮮は近隣国へ弾道ミサイルを発射し、米大統領は「炎と怒りを」という言葉で応酬しています。社会及び経済の分裂は相変わらず続いています。気候変動はさらに酷くなり、自然界への圧力も日ごとに増しています。
私たちは常に不安な日々に生きているのだと、片づけてしまうのは簡単です。でも、リサージェンス&エコロジストの今号は、希望を失わずにいる理由を立証していると思います。制度を刷新し世界を改革する過程で、どんなに困難があったとしても、人間の精神には人々を鼓舞する力があり、自然にはまだ謳歌に能う理由があります。
人間の精神は、ジョージ・モンビオットの基調エッセイにあるように、分断された共同体や個人を癒す助けとなる、環境意識が行き渡った新しい社会を求めています。それは公共物という概念、つまり私たちが共有できる世界にあり、経済学者エリノア・オストロム [米政治経済学者、2009年ノーベル経済学受賞者] に関するロビン・ル・マーレ (Robin Le Mare) のエッセイや、ブラッドレー・ギャレット [米地理学者] の公共空間への脅威に関する報告書で確認できます。人間の精神は、中国の市民権運動家でノーベル平和賞受賞者でもある劉暁夫が、懲役に服しながら「私には敵や憎しみはない」とはっきり述べた証言の中に、輝いています。劉は収監後10年以上経った今年初めに亡くなりました。当号に再掲載した彼の証言は素晴らしい読み物となっています。
芸術のページは、全く異なったアーティストお二人の作品の特集です。タマム・アザム (Tammamm Azzam) は、シリアの内戦を逃れようと家族と共に故国を離れました。以来、異郷の地で、その忘れ難い心象を練り上げ、紛争がいまだに続いていることを常に私たちに思い出させます。一方、今だに戦争の遺産に苦しんでいる国、モザンビークの博物館 (Núcleo de Arte)では、ゴンサロ・マブンダやその仲間たちが戦争の残骸を芸術的、政治的表現に作り変えています。売剣買牛というより、抑えがたい人間の精神の例です。
今号でプロフィールを紹介しているスコットランドの作家、ナン・シェパード (Nan Shepherd) は、自国ハイランド地方からインスピレーションを得、また日本の陶芸家、三輪和彦と三原研は粘土素地から美を形作り、またサラ・コルベット [英詩人] とその仲間たちは、自らのクラフティビズム [ある問題の意識啓蒙の方法として、編み物などの工芸品を公共の場所に展示すること] に再生と静なるエネルギーを見出すといった、それぞれのストーリーから力を貰えます。これらとその他どれもが、リサージェンス(復興)への一助となりますように。
Light in Dark Days • Greg Neale
The human spirit and the natural world still give us hope
305: Nov/Dec 2017