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富士の高嶺から見渡せば

今ある「ウクライナ危機」より「佐渡金山」だという韓国外交

2022.02.25 05:25

 戦争が始まるという事態を世界の人々は現在進行形の形で目撃することになった。2月24日日本時間の正午(モスクワ時間朝5時)、プーチン大統領が国民向けTV演説でウクライナ東部の親ロシア勢力支配地域への特別な軍事作戦の開始を宣言して以降、ロシア軍がウクライナ各地の軍事拠点をミサイル攻撃し、東部ではロシア軍の戦車・装甲車が国境を越える映像が、お天気カメラや道路わきの監視カメラに映っていた。

わが家のテレビでザッピングした限りでは、BBC、CNN、FoxTV EuroNewsなどの西側メディアだけでなく、中国のCGTNもキエフやモスクワからの記者リポートや各国のコメンテンターによる解説を含めて戦争開始を伝え、攻撃と被害の状況を刻一刻と伝えていた。 

首都キエフから中継カメラの前に立った記者は背後で聞こえるサイレンや爆撃音の音にびくびくした様子でリポートを続け、インターネットで繋いだ一般家庭のパソコン画面には、爆発音が聞こえ閃光を見たと恐怖におののく市民の表情があり、首都キエフを家族全員で脱出しようと車に乗ったものの渋滞に巻き込まれた男性とはモバイルのSNSで繋いでインタビューする映像もあった。 

ウクライナ情勢に世界の関心が注がれ、米国がロシアによる攻撃が近いと警告していたなかで、多くの人がこの事態を予想していたとはいえ、ネット社会による多くの映像とともに、開戦のプロセスが逐一、一次情報としてリアルタイムで世界中に伝わるという事態は、人類史上初めてではないか。 

そうしたなかで、アメリカを中心にロシアに対する制裁発動の動きも迅速だった。プーチン大統領がウクライナ東部の親ロシア勢力支配地域の独立を承認し軍の派兵を命じた直後に、バイデン大統領はロシアの動きを侵攻だと規定し、制裁の第1弾を発表、ロシアの銀行2つの取引き停止などを発表し、G7をはじめ同盟国の結束を呼びかけた。 

そうしたなかで、ロシアに対する制裁で腰が引けていたのが韓国である。対ロシア制裁に対して英国、フランス、ドイツなど欧州諸国だけでなく、日本、台湾、オーストラリア、シンガポールなども直ちに米国と足並みを揃えたなかで、「韓国外交部の当局者は、23日パリで、韓国メディアの特派員に対して、アメリカが主導する対ロシア制裁の動きに加わることには慎重姿勢を示したうえで、ロシアに対して自制を求める立場を伝えたことを明らかにした」という。 

KBS日本語放送2/24「ウクライナ情勢 外交部「高官級でロシアに自制求めた」> 

この「外交部当局者」とは、おそらく鄭義溶(チョン・ウィヨン)外交部長官だと思われる。なぜならこの時、彼はパリにいて、外交トップとしては諸外国とは違う異質の行動をとっていたからだ。

そのころドイツでは毎年恒例の「ミュンヘン安全保障会議」(2月18~20日)が開かれ、それに合わせてG7の外相も集まりウクライナ情勢への対応が話し合われていた。ミュンヘン安全保障会議には、例年通り韓国も招待されていたが、鄭義溶氏はこの会議には出席せず、なぜかフランスが主催した「インド太平洋に関する閣僚会議」に出席するとして21日、韓国を出発していた。 

「インド太平洋」といえば、米国が主導する「インド太平洋戦略」に対して、韓国は中国包囲網には加担しないとして距離を置くと共に、安倍晋三首相が提唱した「自由で開かれたインド太平洋(FOIP)」に対しても、当然のこととして関心を示すことはなかった。その韓国がなぜ今さら「インド太平洋に関する閣僚会議」なのか、と疑問がわくのは当然だろう。 

実は、韓国はミュンヘンで主要議題として話し合われたウクライナ情勢に関心を向けることはなく、またパリで開かれた「インド太平洋に関する閣僚会議」に関心があったわけでもなく、この会議を口実にパリを訪れ、パリに本部を置くユネスコ(国連教育科学文化機関)の事務局長に会うことが目的だった。そして「佐渡島の金山」の世界文化遺産登録を進める日本政府に反対を表明し、ユネスコで世界遺産を審議する世界遺産委員会の委員国であるインド、ギリシャ、ブルガリアと2国間会談を行い、日本の登録推進を非難するのが目的だった。 

KBS日本語放送2/21「韓国外相がフランスでインド太平洋会合出席へ ユネスコ事務局長とも会談予定」>  

鄭長官が出席した「インド太平洋に関する閣僚会議」(22日)では、議長国フランスの外相が、ロシアがウクライナ東部の「ルガンスク共和国」と「ドネツク共和国」の独立を承認したことを国際法違反だと強く糾弾するなど、各国がロシアを厳しく批判するなかで、鄭長官だけは、佐渡の金山をめぐる日本との歴史問題を念頭に「域内国間の歴史問題が依然として存在し、多国主義・法治に基づく国際秩序がまだ定着できず、不信と安保不安が続いている」と述べ、日本を名指しはしなかったものの間接的に批判する一方、「ロシア糾弾には口を閉ざした」と韓国メディアは報じた。 

コリアエコノミクス2/23「チョン外相、EUアジア閣僚会議で対日歴史問題に懸念」「他国はロシア糾弾も韓国は口閉ざす」

その上で、上記のとおり、アメリカが主導する対ロシア制裁の動きに加わることには慎重姿勢を示したのである。韓国は、ロシアがウクライナ侵攻を本格化させた24日夕方になって、文大統領がようやく国際社会の対ロシア経済制裁に足並みを揃える考えを示したが、大統領府青瓦台と外交当局は渡航禁止や金融制裁など各国が個別に行う独自制裁は実施しないと表明している。 

実は韓国は、ロシアが2014年にウクライナ領クリミア半島を併合し、米国が対ロシア制裁を課した際にも、米国が主導する制裁には参加しなかった。 

韓国は、ロシアに自動車や自動車部品、半導体などを輸出し、原油やLNGなどを輸入しているが、自国経済への影響を最小化することに必死で、ウクライナの人々の運命など何も気にしていないことがわかる。

文在寅政権は北方外交政策と称してロシアとの関係強化を推進し、北朝鮮問題ではロシアの影響力に期待するところも大きいため、全面的に米国の立場に立ち、西側諸国と足並みを揃えることはできない、という立場だが、文政権になって中国やロシアとのバランス外交を重視する姿勢は強まっている。 

しかし、今回のロシア制裁に関して、米国が半導体・コンピューターなどIT情報技術分野の輸出制限を打ち出している中で、韓国企業のサムスン電子やSKなどがこれに従わなかったとしたら、同盟国・韓国に対する米国からの外交的圧力が高まるのは必至で、韓国が、自国経済だけを考えて、いつまで二股外交を続けることができるか、みものだ。 

それにしても、ウクライナの主権が侵害され、ウクライナの領土の一体性が奪われるという、今そこにある危機に対して、ほとんで関心を示さずに、77年以上も前の実態も証拠もあやふやな「強制労働」という歴史問題に固執し、ウクライナ危機という世界史的な緊急事態になかでも、韓国の一方的な見方を第三国にも押しつける姿勢は、明らかに異質で、国際社会からひとり浮き上がっているのは、間違いない。そうした外交姿勢が国際社会からの尊敬を勝ち取り、国力や国の品格の向上に繋がると考えているとしたら、お気楽というしかない。