提案『百人一首の薦め』
5、6年前でしょうか百人一首の競技大会に打ち込む高校生を演じた広瀬すずちゃんの映画が公開されたことを知り映画を鑑賞しようと思ったことや芦田愛菜ちゃんが中学校の頃に百人一首を覚えていると知った際、百人一首が時代を超越する魅力を改めて確信したのです。百人一首は古典を理解することの基礎作りともいわれるもので中学校以降は学習として捉えがちですが、是非とも小さい頃から和歌に触れてその情感溢れる世界を味わってほしいと思います。
私が百人一首を楽しみ出したのは北海道に住んでいる頃です。北海道出身のママ友たちの口から次々と出てくる百人一首の上下の句の掛け合いに驚かされたものです。北海道では小学校時代に全てを覚える事が実行されているとのことでしたが、よくよく話を聞いていると下の句だけを読み上げ板の札を取り合う独特なスタイルのようでした。中には上の句はちょっとあやふやで自信がないと言いながらも百人一首に触れているという地域的な文化の違いがもはや教育に影響していることを知ったのです。小学校で古典の基礎となる百人一首を嗜む事ができたら中学校や高校での古典も抵抗なく入り易いものだと思います。
百人一首とは飛鳥・奈良時代から平安・鎌倉時代にかけて100人の歌人が読んだ5・7・5・7・7の和歌を鎌倉時代初期に藤原定家が編纂した小倉百人一首のことです。そしてその和歌がカルタ形式になったのはポルトガルのカードの影響を受けた江戸時代だそうです。飛鳥奈良時代の和歌を読んだ時代に始まり、定家が編纂した鎌倉時代、江戸時代でカルタになり現代の私たちが趣味として学習として取り組んでいます。常々私はこう思うのです。時代を超越して残るものには大きな意味があると、だからこそその世界を日本人として幼い頃から少しでもその入り口を開けて見させておくことが必要ではないかと思うのです。
私には百人一首を知るきっかけとなった恩師がいます。高校時代古典を制覇するためには百人一首の文法を理解することだと恩師は話しつつ、数々の恋歌を解説する熱弁を振るっていたことが強烈に記憶に残っています。しかし高校時代にはその魅力をあまり感じなかったのです。ところが子供と共に暗記をし出してからは1000年以上も前の人々と同じ感覚で自然を捉えるることができ、現代人と同じ感情を持ち表現していることに共感を覚えました。
言葉の表現が異なっているにも拘らず目を閉じると風景や景色が脳裏に浮かび、歌人らが生きていた時代にタイムスリップできるこの和歌の奥深さや日本人独特の自然観が今も脈々と私たちに息づいていることを謳歌すべきです。悠久の時を越えて存在するものにはそれ相応の意味があり、だからこそ子供たちには百人一首を通して日本人が見出せる情感の奥深さや浪漫を味わってもらいたいのです。これが百人一首を薦める理由です。
それでは子供たちに百人一首を薦める理由を考えてみましょう。
1、情景が目に浮かぶ
私は常々人との関わり合いの中で最も重要なのは想像力だと考えています。その想像力を養うためには多くの経験をすることが必要なことですが、その経験値を持って想像することが力を鍛える事になります。そしてその力で情景や風景、情感を目に浮かベるようにすることが日本人特有の察するに通ずると考えています。百人一首に出てくる内容は花見や紅葉狩り、月見に、冬の情景を日本人独特の美意識や見識、文化を描き出し、その歌人の詠んだ内容が自分自身の感情と重なり合うこともでより想像豊かに思い浮かべる事ができます。幼い時に理解できなかったことも歳を重ねるごとに深く理解できるようになります。その種まきが百人一首にはできるのです。
2、人の思いが込められている
和歌の中には日本人の西洋人とは異なる物事を婉曲に捉え言葉や態度にする文化があります。表現の仕方が遠回しで穏やかにそして角を立てずに相手に伝えることが日本人が得意とする表現方法ですが、想像の余地を残し豊かに捉えられていた時代から欧米化が進む昨今では明瞭に伝えないと意図することが通じない時代になっていると感じています。しかし私はこう思うのです。人の思いにこそ婉曲で相手を慮る百人一首を多くの日本人が学び感じ取るべきだと。これも想像力の一種でそこに批判ではなく前向きな感情が想像できたら尚心豊かに生きる事ができるのではないでしょうか。様々なことが欧米化になりつつある現代ですが、外国の観光客は日本のその婉曲的な文化を追い求めてやってきて魅了されています。今一度私たち日本人が伝統や文化、慣習を通して人の思いを慮ることを見直すきっかけとして百人一首を味わってはどうでしょうか。
3、美しい日本語
日本に残る美しい言葉は他の言語には類を見ない美しさや繊細さに満ち溢れています。とりわけ百人一首に登場する和歌の言葉の美しさは心を清らかにし、心を躍動させ目を輝かせて物事を捉える力があり存在しています。何よりもその言葉を通して心の優しさ、美しい立ち振る舞いへとと波及が起こります。また恋歌が多くを占める百人一首ですが見方を変えると親が子を、子が親を、兄弟姉妹を、友を思いと想像豊かに婉曲な美しい日本語として解釈する余白が残されています。美しいの日本語の羅列の世界を知り解釈することは日本語の奥深さや魅力に触れ、言語に対するアンテナを研ぎ澄ますことができると考えています。
4、声に出して読む面白さがある
百人一首は淡々と読むと子供達には楽しさが伝わらないものですが、独特の抑揚をつけて読むことで音を捉える力のある子供はすぐにその楽しさを獲得することができます。これまでに乳児をお持ちのお母様方には言葉の原点は音であるとお伝えしてきました。また音を捉える力である選択的聞く力を獲得することができた子供はこの百人一首の抑揚にも反応を示します。しかし年齢が幼ければ幼いほどその実感を親御さんがするまでには数年かかりますが、選択的聞く力の獲得とお母様の唱えの種蒔きによって百人一首獲得の土台形成がなされます。実際に現在4歳の生徒さんが暗記に取り掛かっていますが、選択的力の獲得とお母様の種蒔きを確認しているので覚えは早いように感じています。
私たち家族はマイナス20度前後になる極寒の北海道で、全ての音をのみ込み静まり返る夜に家の中で百人一首を声に出して読む浮世離れした面白さを感じる事ができました。気温が20度前後の温かな沖縄でのお正月に独特な抑揚をつけて百人一首を読み上げることも味わい深いものです。三振や組踊が聞こえて来るお正月に百人一首を加えてみてはいかがでしょうか。
5、記憶力が鍛えられる
最初は現代に使われている言葉ではない表現もあり唱えることに苦労しますが、抑揚をつけて読む練習をしていると案外楽しいもので幼稚園児でも楽しく覚える事ができます。またその覚える句の数が増えてくると覚える時間が短縮し順応性の高い子供たちはあっという間に覚えてしまします。色々な方法で記憶力を鍛えることができますが、情感を育てるという点では百人一首は最高の文化的財産です。特に言葉の獲得の性差がある男児には取り組んでほしいと考えています。
6、視覚重視の子供達にはカード活用を
生後9ヶ月から11ヶ月までに当教室に通われていない生徒さんは選択的聞く力の獲得ができているか否か、獲得している力の質の程度があるため、耳からのインプットが思うように進まない場合は視覚から入る公文さんのカードがお勧めです。少し解説を加えながら絵本を読むように毎晩1首ずつ取り組んでみてはいかがでしょうか。