ONE

経絡治療からみためまいふらつきの治療と病因病理

2017.11.19 05:23

◎症例①

■患者 50歳代女性

■現病歴 強皮症から間質性肺炎を合併し、ステロイド治療を開始。

程なくしてふらつきだすようになった。

片足立ちテストは左右とも2秒と立ってられない。

◎脉作りの臨床における基盤作り

■左右差がないので両Tポイントを中野式柳下ていで補う。

■脈会を右→左の順に中野式柳下てい鍼で補う。

◎診察診断

■腹診 

□大腹<小腹。

□脾心腎が虚に見える。肝は実、肺は平。

■脉状診 浮・数・虚・堅。

■比較脉診 脾最も虚、腎次いで虚、心肺よりかは虚、肝最も実、肺は平。

■証決定 脾腎相剋証。

■適応側 病症の偏りもなく女性なので本証の脾を右側、副証の腎を左側とした。

◎治療

■本治法 右太白を補う→検脉→脾が出て心も出ている、依然として腎は虚しているので左太谿を補う→検脉→右関上浮かして胃の脉位に虚性の邪が触れるので胃経を切経して最も実所見の強い左豊隆に枯に応じる補中の瀉法→検脉→脉が締まって整う。

■補助療法 臨泣-外関に金銀粒を貼付してその上から5壮3壮で知熱灸。自宅でドライヤー灸のセルフケアを指示。

■標治法 

□胆を据わらせるために右沢田流小腸兪に龍仙打鍼。

□第一めまいふらつき点(瞳孔線上髪際の下一~二寸の反応点)に刺鍼。

□第二めまいふらつき点(角孫)に刺鍼。

□第三めまいふらつき点(下風池)に刺鍼。

◎経過

片足立ちテストが大幅に改善しふらつきが軽減。現在継続治療中。

◎症例②

■患者 60歳代男性

■現病歴 慢性的なめまいふらつきがあり、朝が特に酷いのと仕事が立て込んで疲労が困憊になるとメニエルを発症して立てなくなるほどふらつき2~3日は寝込むとのこと。

その他、狭心症、糖尿病がある。

◎脉作りの臨床における基盤作り

■左Tポイントを中野式柳下ていで補う。

■脈会を左→右の順に中野式柳下てい鍼で補う。

◎診察診断

■腹診 肺最も虚、脾次いで虚、心最も実、肝次いで実、腎は平。

■脉状診 沈・数・虚。

■比較脉診 肺最も虚、脾次いで虚、心最も実、肝次いで実、腎は平。

■証決定 肺虚証。

■適応側 病症の偏りもなく男性なので左側とした。

◎治療

■本治法 左太淵を補う→検脉→肺が出たが脾はまだ虚しているので左太白を補う→検脉→脾が出る。相剋の心肝の実は治まり、陽経にも邪はなくこれで脉は整う。

■補助療法 臨泣-外関に金銀粒を貼付してその上から5壮3壮で知熱灸。自宅でドライヤー灸でのセルフケアを指示。

■標治法  

□胆を据わらせるために左沢田流小腸兪に龍仙打鍼。

□第一めまいふらつき点(瞳孔線上髪際の下一~二寸の反応点)に刺鍼。

□第二めまいふらつき点(角孫)に刺鍼。

□第三めまいふらつき点(下風池)に刺鍼。

◎経過

朝のふらつきが軽減、大きな発作も出なくなる。

継続治療中。

めまいふらつきの病因病理

■諸風掉眩、皆肝に属す

※【掉とう】はふるえ、【眩げん】は目まいを指します。

諸々のふるえやめまいふらつきは風邪が原因で肝に関係があると、病機十九条に記載されています。

これは外因としての風邪ではなく内因からの風邪を指すと考えています。

風に吹かれたわけではないのに風邪に蝕まれるのはなぜでしょう?


■火は風を生む

□気滞→緊張→軋轢→摩擦→火化→邪熱→風邪。

□湿痰→気滞→緊張→軋轢→摩擦→火化→邪熱→風邪。

□瘀血→湿痰→気滞→緊張→軋轢→摩擦→火化→邪熱→風邪。

ということで、気滞・湿痰・瘀血・邪熱から風邪が発生します。

気滞はストレス、湿痰は暴飲暴食と運動不足、瘀血は気滞・湿痰や外傷、その延長に邪熱があります。

邪熱とは病的な陽気です。

陽気が動じると風が生じます。

病的に生じた風ですのでこれを風邪とします。

体の内側から起こった風邪ですのでこれを内風とします。

陽気は上昇外発の性質を有しますので、内風は上に舞い上がっていきます。

また風は揺れ動きますので、各所で動揺現象が観られます。


下焦が動揺すると骨盤が亜脱臼します。

骨盤のズレは実は姿勢は余り関係ありません。

ぎっくり腰もこれが原因です。

中焦が動揺すると不安に駆られます。

心が揺れるからです。

そして上焦が動揺すると、目が回りふらつきます。

頭脳は人体の最上部にありますが、本来横隔膜から上には清陽しかなく、特に頭脳がある最上部は、あたかも澄みきった空のような状態で晴々しており、清陽で充ち足りています。

また、清竅という清陽だけを通し濁陰を侵入させない穴としての機能のお陰で頭脳は汚れなき天空を維持することができます。

風邪が舞うと、本来は侵入できないはずの濁陰に侵されたり、清陽の侵入路が断たれると、頭脳が汚れなき天空の清浄さを保てなくなり、正常でなくなります。

その現象の1つがめまいふらつきです。

めまいふらつきの鍼灸治療

◎本質治療

肝の変動ですから肝虚か肝実です。

経絡治療学では、

■肝虚証(肝腎の虚)

■心虚証(心肝の虚)

■肺虚肝実証(肺脾の虚、心肝の実)

■脾虚肝実証(脾心の虚、肝腎の実)

等の証に従い本治法をして生命力を強化します。


◎対症療法

■ 補助療法

□奇経治療

◆めまいふらつきには、首を回旋させてめまいが増悪する側の臨泣-外関か外関-臨泣。

◆立ち眩みには後谿-申脈。

■標治法

□第一めまいふらつき点(瞳孔線上髪際の下一~二寸の反応点)に刺鍼。

□第二めまいふらつき点(角孫)に刺鍼。

□第三めまいふらつき点(下風池)に刺鍼。

■特殊鍼法

□胆を据わらせるために左沢田流小腸兪に龍仙打鍼。

下焦は下丹田です。

下丹田は上中焦を納める所です。

刀でいう鞘です。

小腸兪を巧みに治療すると仙腸関節が矯正されて骨盤が安定します。

ここが安定すると胆が据わります。

胆が据わると動揺しなくなります。


◎養生

■ストレスを溜めないことで気滞を防ぎます。

■節度ある食生活と適度な運動を心がけることで湿痰を防ぎます。

■落ち着いて行動すれば事故や怪我をすることなく、気滞・湿痰を溜めないことが瘀血の発生を防ぎます。

■気滞・湿痰・瘀血を防げば邪熱は発生しません。邪熱がなければ風邪は生まれません。