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KANGE's log

映画「ナイル殺人事件」

2022.03.06 05:44

【愛のからまわり?】

原作未読。ドラマシリーズも観ていません。映画は見たような気もしますが、記憶にはないです。

冒頭、「あれ? シネコンでスクリーン間違えた?」と思ってしまうようなシーンから始まります。今回、「愛」「人は愛のために、どこまでできるか」が大きなテーマで、そのあたりのことに、あまり興味がなさそうなポアロのバックボーンを描いています。面白い試みです。過去の経験から、愛を凍結しているからこそ、偏屈で神経質で変わり者というところでしょうか。

そこから、ロンドンのクラブのシーン。今回のお話の中心になる、リネット、ジャッキー、サイモンが登場。この時点で、危険なことになりそうな匂いがぷんぷんします。「よく無職の男に、仕事を世話してまで結婚しようと思ったな、ジャッキー…」この違和感を、ずっと引っ張ることになります。

そして、エジプトへ。「オリエント急行殺人事件」の最後に、予告的な話がありましたが、それとはつながらないので、辻褄をあわせるようなセリフがありましたね。そこから「そりゃあ、事件も起こるよね」という展開に驚きます。

ただ、メインキャストはエジプトで撮影はしていないですよね。特に前半のエジプトの風景と人物は、明らかに合成と分かり、かなり興ざめします。合成がダメだということではありませんが、ちょっとやり方はなかったのでしょうか。その分、セット撮影はとてもゴージャスです。豪華客船を作っちゃったわけですよね。

大富豪であるリネットが関係者を引き連れて新婚旅行としてナイルを巡るという、なんとも豪勢な話。水のようにシャンパンがふるまわれています。皆がホテルに集まってくるところで、自然にそれぞれの人物紹介もあって、みんながリネットに対して、そこそこ思うところのある人たちだと、今後の展開に期待させてくれます。「全員容疑者」みたいな王道展開です。

ただ、前作のオリエント急行殺人事件のペネロペ・クルス、ウィレム・デフォー、ジュディ・デンチ、ジョニー・デップ、ミシェル・ファイファー…と、オールスターキャスト感があったのに比べると、申し訳ないですが今回は地味です。

難しいと思いますよ。中途半端だと、その時点で犯人が誰か分かっちゃいますから。今作の役者さんたちがダメとか、そういうことではありませんが、オリエント急行殺人事件を観た時には、年末時代劇のように今後オールスターキャストでシリーズ化されていくものだと思っていたので、ずいぶん方向を変えてきたな、と感じました。

まあ、リネットを演じるガル・ガドットが1人いれば、そして豪華客船や遺跡のセットの前に、彼女が立てば、それだけで十分に豪勢な絵になるという感じはあります。

ミステリーとしては古典中の古典なので、さまざまなパターンのミステリーを読んだり、観たりしてきた人にとっては、犯人やその仕掛けについて、あまり意外性はないと思われます。早い段階で「そういうことなんだろうな」と想像がつくと思います。

この物語の特徴としては、ポワロという名探偵が船内にいるにもかかわらず、最初の事件発生からも、被害が続くというところ。したがって、犯人を探し当てたところで、カタルシスのようなものは生まれません。死ななくてもいい人が死んでいったことで、無力感さえ感じます。しかも、ある被害者は、ポアロの不注意で巻き込まれたようなもの。後味は苦いですね。

さらに、後半は勢いで振り切ったところがあって「メスはどうやって?」とか、ごまかされているような気もします。

ラストシーンは、冒頭のシーンと呼応するということなのだと思いますが、ポワロがあの姿で出てくるということは、過去とは決別したということでいいのでしょうか。まさか、引退ではないですよね。ちょっと分からないラストでした。今回、ポワロの鮮やかな推理を…というより、ポワロの人物を見せる方向に演出しているのだと思いますが、果たしてそれがうまく機能しているのかは、疑問が残るところでした。