【け】結婚披露宴~文学座~(私的埋蔵文化財)
京都労演で芝居を見続けていた事と関係なくはないと思うのだが、シナリオ講座に通い一本だけ芝居の脚本を完成させたことがある。四半世紀も前の事だ。同人誌「雑巾書」掲載シナリオとして「すれすれ」と題するコメディを書いた。無論上演されることはなかったが、見込みで一時間半くらいの脚本に仕上がった。
そんなことになるきっかけの一つがアーノルド・ウェスカー作の舞台だった。この「結婚披露宴」を観た前年の文学座の舞台、「調理場」のオープニング・シーンに魅了された。
舞台の幕は、はじめから上がっている。半地下の照明の落ちた調理場。最初に出勤してきた男が下手の階段を数段降りて、調理場のちいさな照明を入れる。続いてかまどに種火をともし、料理の下ごしらえ前の下準備を黙々としてゆく。調理場のあちこちが動き始める。やがて二番手、三番手の下働き、コック見習達も出勤してくる。そこで繰り広げられる大事件ではないが騒然とした調理場での群像劇はものすごく新鮮に映った。
私が書いたのは、詐欺被害に遭った人達が、悔しさを回復するために行動を起こす物語。世間を騒がせたトピックスをネタに喜劇を意識して書いた。当時、四国山中の高圧送電線が倒壊する事件があった。事故ではなく、ボルトが外され倒されていたことから、謎の事件になった。
電磁波被害を訴える宗教団体などが世間を騒がせていたこともあり、その関連も取りざたされた。結局は不明のままになったのだったと思うが、シナリオにはそんな謎解きを含めてみた。自分的には満足だったが、まぁその程度のものである。
「家族万華鏡」という家族療法の本がある。構造的家族療法の祖、S.ミニューチン著のものだ。そこに一本の戯曲が含まれている。初めてそれを読んだとき、自分が「木陰の物語」を書いていることの必然を見たように思った。
公務員を退職した五十歳の時、偶然見つけたシナリオ講座に通い、一年ほどかけて「すれすれ」を完成させたというわけだ。何かの手段ではなく、作品を完成させることを目標に推敲を重ねたのがとても面白かった。
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さてこの文学座公演「結婚披露宴」だが、パンフレット中央の花嫁花婿。角野卓造じゃねーよ、でおなじみの角野卓造。そして花嫁は沢田研二(ジュリー)の奥さんになった田中裕子である。他にも文学座のそうそうたる面々が出演している。